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あさひ市で暮らそう25 ド派手な車

 洋太が息を切らせる様子もなくそこにいた。


「よくここがわかったな」


「オヤジと母さんの気を追うくらいはできるさ」


 これがケータイも持たずに全く知らない街を自転車で走り回っても迷子にはならない秘訣らしい。


「便利なもんだな。さすがに俺たちにはそこまではできない」


「少しは尊敬しろ」


 ニヤリと意地悪く笑う。


「洋太もオヤジを少しは尊敬しろよ」


 べえと舌を出した姿には幼さを感じるアンバランスが奇妙な魅力になっている。


「で? なんで俺を探していたんだ?」


「おっもしろいもん見つけた!」


「へえ」


 真守は楽しそうだと直感した。自転車を隅に置くと洋太を助手席に乗せて走り出す。飯岡バイパスをカフェロハスからさらに銚子方面に向かう。


「ここ左! で、すぐ右!」


 海上教習所の前の細い道を東へ走らせる。しばらく走るとそれが見えていきた。


「あれだ!」


「ほおお! 本当におもしろそうだな」


 原色の赤や黄や青や緑で可愛らしく塗装された車が止まっている。

 その脇に車を停めて二人はそのカワイイ車をじっくり見た。


「おもちゃ?」「いや違うと思う」

「見ろよ! 中までカラフルだ!」


「あのぉ。何か?」


 ウキウキ見ていた二人の後ろから声がかけられて、二人はびっくりして振り返る。


「お客様ですか?」


 車の隣の大きな大きな倉庫の裏手から大人しそうな二十代とおぼしきの女性が出てきた。


「お客様ということは何かのお店なんですか?」


「あ、はい。そうですね。主人が車の塗装業をやってます」


 そう言って女性が隣の大きな倉庫を見上げたので、そこは塗装作業用スペースらしい。


「なるほど。じゃあこれは宣伝用のオブジェなんですね!」


「いえ。普通に動きますよ」


 二人はその車が走っているのを想像して笑みが溢れた。


「目立つ、な!」


「ふふふふ。そうなんです。小学生が手を振ってくれたりします」


 すずと名乗った女性はにこやかに倉庫の中に招き入れてくれた。倉庫の中にはさらに小さな倉庫のように囲いができているのが見て取れる。


「実は、私もここの購入を考えたんですよ」


 真守は不動産探しで外観見学に来ていた。


「この倉庫は我々にとっては使い道がなさそうだったので、解体にもお金がかかるなあと思って躊躇ちゅうちょしたんです。こんなふうに変化しているなんて思ってもみませんでした。物件も必要な方に出会うものなんですね」


「主人はこの倉庫こそが目的だったみたいですよ」


 真守との違いに笑う。そこにその主人かずきがやってきた。


「こんにちは」


 かずきは気さくな雰囲気の男で、ずっと話を聞いていたかのように自然に馴染んできた。


「これほど改築したら、予算もかかったでしょう?」


「まあ、でも、DIYなんで材料費だけですけど」


「「は?」」


 二人の驚きの顔に、してやったりとかずきとすずは破顔する。


「この鉄骨もか?」


 洋太がペンペンと叩いた真っ赤な鉄骨の柱はキッチリと溶接された鉄骨が組まれ、それを土台とした二階が塗装用の部屋の上部をタイヤなどの収納にしてある。


「ええ。溶接も自分でやりましたよ」


 外観ははじめからできているものなので、内装にはDIYをすることは建築的には問題ない。ただし、水道管や電気配線は別でり、それらはプロの手を入れている。


「裏の住宅もDIY中です」


「普通はそちらが先なのでは?」


「こっちがほしかったんですよ。裏の家はおまけで付いてきたんです」


 かずきが満足そうに倉庫を見回す。


「はあ?」


 自分とは真逆な考えに真守は驚いた。住宅部分は三階建てのかなり広い作りで景観も良さそうだし、さほど古くはないので、この住宅だけでも充分にお得な物件であった。真守は更に海に近い物件を選んだだけで、ここも候補になっていたのだ。ただし、真守にとって住宅部分についてであるが。


「あっちは何だ?」


 洋太が指さしたのは倉庫の奥で現在改装中といった様子である。


「あちらは今作っていて」


「誰が?」


「主に嫁さんが」


「「は?」」


 二人はまたまた驚いてすずを見るといたずらを成功させた子供のように笑顔を見せた。


「何を作っているんだ?」


「ふふ。それはまだヒミツですよ」


 十畳ほどのスペースが塗装業とは隔絶するように改築されている途中だ。


「私がお店をやりたくて」


 事務所だろうと予想していた真守は驚きの連続だった。確かに立地は近々広域農道と飯岡バイパスを結ぶであろう道の近くで今後交通量の増加が見込めそうだ。『ヒミツ』を楽しんでいそうなすずに真守は笑顔で追求を止めた。


「面白そうだな。できあがったら教えてくれ」


 洋太もすずのいたずらに乗り気になっていた。


「はいっ! でも、お店の名前だけは決めてあるんです。主人の祖母が昔この近くで商店をしていてその名前をもらうことにしました。

すゞやっていうんです!」


「ほへ? それ偶然?」


 洋太が目をしばたかせる。


「そうなんです。私のための名前みたいでしょう?」


 すずは破顔してかずきに同意を求めるとかずきも楽しそうに笑った。


「何が始まるのか楽しみにしていますよ」


 真守は若い夫婦にエールを送る。


 ☆☆☆

 ご協力

 かずき様すず様ご夫妻(気になる方は私のインスタの写真よりお探しくださいwww)

 すゞや様

 

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