あさひ市で暮らそう@宇水涼麻

千葉県北東部太平洋沿いにある旭市の応援小説です。景色、面白いお店、美味しいお店、楽しい…

あさひ市で暮らそう@宇水涼麻

千葉県北東部太平洋沿いにある旭市の応援小説です。景色、面白いお店、美味しいお店、楽しい人たちを紹介していきます。リアルと空想が織りなすハーモニーを楽しんでください。

最近の記事

あさひ市で暮らそう51 達筆マスター

 真守と洋太が『東総ハム』のベーコンにメロメロになっている頃、水萌里は『およ川』の前にいた。海岸線沿いにある。親不孝通りの交差点の少し手前の北側に位置するそこは、田中家からはほど近い。グレイの暖簾には「GOOD DAY GOOD PORK」とある。豚肉が日々の幸せを運ぶようなその言葉に頬を緩ませた。  入り口のブラックボードには店主からのメッセージが書かれている。  ――地元の農家さんが大切に育てた豚肉や野菜や米を使って地元の味を少しでも多く味わって頂きたくお店を始めまし

    • あさひ市で暮らそう53 昔の映画

       旭市はハンバーガーショップが多い。流行りもあるかもしれないが、どこも個性を出していてどこも美味しい。  その一つ『モグタロウ』は中央郵便局から西へ向かった市役所通り(現在市役所は移転している)にあり、黄色の星と水色で書かれた名前の派手な看板とハンバーガーののぼりが目印の店である。  真守はネットでメニューをチェックして、シイタケバーガーを目当てにやってきた。  香取市産の肉厚ジューシーシイタケを柔らかくソテーにして特製和風ソースとクリームチーズを後攻撃陣に添え、シソを

      • あさひ市で暮らそう52 会員制のお水のお店

         朝三時、会長は背伸びをしてから布団から出た。『フランス屋』の朝は早い。素早く身支度を整え白い制服とエプロンに着替えると店の厨房へ行った。 「おはよう!」 「おはようございます!」  工場長である青年は会長と同じような服装だが、すでに仕事の最中である様子だ。会長が厨房テーブルを見ると美味しそうに焼き上がったコッペパンやクロワッサンがたくさん並んでいる。    先程の言葉を訂正しよう。『フランス屋』の夜は眠らない。  工場長は会長が朝までに仕上げるべき惣菜系パンの仕

        • あさひ市で暮らそう50 ハムの食べ方

          「おやじ! 何いい匂いさせているだっ!」  玄関を勢いよく開けた洋太は靴を脱ぎ蹴飛ばして台所へ向かった。水萌里の車がなかったからいい匂いの元が真守なのはわかっている。 「おっかえりぃ! ちょうどよかった。うっまそぉなベーコンが焼けたところだよぉん」  テーブルに鍋敷きを置いてフライパンをそのまま置く。洋太は取り皿を用意して自分のご飯をよそい、真守は冷蔵庫からビールを取り出した。ビールと茶碗を自然に合わせてからベーコンに手を伸ばした。 「なんだこれっ! 噛んでも噛んでも

        あさひ市で暮らそう51 達筆マスター

          あさひ市で暮らそう49 勝負

          「ぐぬぬぬぬ。ちょっと待ってくれ」 「おっけぇ。ゆっくりどぉぞぉ」  さて、このセリフ。読者の皆さんは誰のセリフだと予想して読んでくださっただろうか。いつもなら……ふふふふ  答えは、現在眉を寄せて唸っているのは洋太で、余裕でテーブルのコーヒーに手を伸ばしたのは真守である。  二人を間には白と黒の丸いもの、つまりはオセロが置かれている。  今二人は二人にとって大事なもののための勝負の真っ最中なのだ。その大事なものとは……『最後の一個』である。  これまでも『最後の

          あさひ市で暮らそう49 勝負

          あさひ市で暮らそう48 ケーキクイズ

          「はい! 恒例のチコニアクイズぅぅぅぅ」  自分で拍手をしながら高々と宣言した水萌里に付き合うように手を打っている洋太の口はもぐもぐと動き、手はテーブルに置かれた木製の菓子入れを何度も往復してクッキーを頬張りそのたびに独り言感想を言っている。 「くるみクッキーか。これも旨いけど、俺的にはアーモンドクッキーだな。でも母さんはくるみクッキーが好きそうだ」  ぽりぽりもぐもぐ 「ミルクにコーヒークッキーは最強コンビだ」  ごきゅごきゅごきゅ  クッキーも美味しい『Cic

          あさひ市で暮らそう48 ケーキクイズ

          あさひ市で暮らそう47 豚肉希少部位とピンク車

           水萌里と洋太は国道沿いの新川近くにある『旭食肉協同組合直売所』に来ていた。いも豚を中心とした商品を取り揃えたそこは、いわゆる『肉屋さん』であり、揚げたての惣菜やお弁当が並び、豚肉だけでなく牛肉や鶏肉、野菜やパンもある。  その中でも水萌里の目的は『豚コメカミ』であった。この部位は『ほほにく』とか『カシラ肉』と呼ばれることもある。アブラが少なめだがあっさりしすぎているわけでもなく、弾力があり噛むほどに旨さがあふれる。  一夏がそれを持って田中家に来て部位の説明をしたときに

          あさひ市で暮らそう47 豚肉希少部位とピンク車

          あさひ市で暮らそう46 発展途上中の面白宿

           洋太は仕事があけるといつものように自転車でフラフラとしていた。今日は海岸線から旭駅方面へ行く予定だ。道の途中でキッと急ブレーキをかけてすれ違った二人に振り向いた。 「お前達、どこにいくんだ?」  大きめのリュックサックに手提げのビニール袋。ビニール袋にはいかにも食材が入っているのに、どう見ても地元民ではない。  いきなりの声かけに二人の青年は驚いてふりかえると、自転車にまたがる自分たちより歳下そうな少年にホッした。 「予約した宿に向かっているんだ」 「それってどこ

          あさひ市で暮らそう46 発展途上中の面白宿

          あさひ市で暮らそう45 マナーは基本

           真守は気後れしていることを悟られないように平静を装って釣り具ショップ『Iselect アイセレクト』の扉を押した。『新昭園芸釣り堀センター』での遊びが面白かったのでその気になりつつある。    国道沿いのガソリンスタンドエネオスの隣にある『Iselect』を真守が選んだのは車が数台止まっていたからだった。お客が何人かいれば自分は目立たないだろうと考えたのだ。釣りに関してまったくのシロートである真守であるが、本人の性格として始めからナメられるのは好きではない。  だが、

          あさひ市で暮らそう45 マナーは基本

          あさひ市で暮らそう44 白鳥舞う

          『はくちょうさん まいとしきてね  きよたきに』  旭市内北東部に位置する清滝地区は干潟八万石の田んぼと緑溢れる下総台地を持つ自然豊かな地域である。その田んぼの真ん中に大きな看板が立てられ、そこには清滝小の児童が作った自然を誇りに思う標語が載せられている。これはその一つだ。    そこからほど近い東庄町の『千葉県民の森』にある八丁堰には十一月になると多くの渡り鳥たちが飛来する。その数千五百とも二千とも言われ、水面が白鳥とカモで覆われている。冬でも雪がめったに降らないか

          あさひ市で暮らそう44 白鳥舞う

          あさひ市で暮らそう43 輝きを生む者たち

           あさげーの展望水滸伝が飯岡刑部岬展望館光と風にて開催される中、なんと灯台までもお色直ししているのだ。    遡って2018年、市役所内観光課で会議が開かれた。冬の目玉企画検討会議はいくつもの案が出てくるが真新しくは感じない。そんな中一つの意見に注目が集まる。 「千葉県唯一の『恋する灯台』は冬の恋人たちにぴったりだと思いませんか?」  彼女ができたばかりの若い市役所職員の青年は、その彼女が市外の人なので旭市を案内するため一番先に選んだのは飯岡刑部岬灯台だった。彼女と『

          あさひ市で暮らそう43 輝きを生む者たち

          あさひ市で暮らそう42 風物詩

           室内釣り堀『新昭園芸』で遊んだ翌日、『めとはな』に買い物に行った水萌里が従業員鹿野に室内釣りが楽しかった報告をした。『こみゅーん』ミユキを通して顔見知りになった鹿野とは同世代なのでよく話をする。 「え! 田中さん、『新昭園芸』に行ったんですか? あそこ最高ですよねぇ。もう楽しくて楽しくて、私、一人で行っちゃうんですよぉ。エビとか釣れちゃうってほんとに面白い」  声をかけてきたのは『めとはな』のもう一人の従業員マイである。 「エビ? それはやってないわ。私たちあまり上手

          あさひ市で暮らそう42 風物詩

          あさひ市で暮らそう41 釣りの楽しみ方

           水萌里がきゃあきゃあとはしゃいでいるのは旭駅の真裏にある園芸店である。  その日、水萌里がテレビを見ながらぽそりた呟いた。 「釣りって楽しいのかしら?」  未だに勇気を持てず釣り船に行けていない真守は目を輝かせた。 「よしっ! 行こう!」  水萌里を乗せて車を走らせて旭駅方面に向かいヤックスドラッグのある信号を線路方面へと右折した。そして線路を渡ってすぐに左折する。 「釣りに行くのよね?」  海でもなく、袋公園ため池でもないところに向かっていることに水萌里は不

          あさひ市で暮らそう41 釣りの楽しみ方

          あさひ市で暮らそう40 習字と書道の達人

           習字と書道は別物だと芸術家平山爆風は語る。習字は手本通りに正しく書くもの。書道は自由に芸術心を表現するもの。  とはいえ、正しく書けなければ表現もできないので習字が大切なことは確かである。  もちろん爆風も幼い頃から鍛錬してきた。小学生ですでに才能を見出されいくつもの賞を獲る。    中学生になり剣道部に所属すると当時の中学部活の厳しさを知っている世代の方は想像つくと思うが、忙しさのあまり部活以外はできない……もう体力やら気力やら時間やら……すべてにおいてできない。

          あさひ市で暮らそう40 習字と書道の達人

          あさひ市で暮らそう39 水萌里のお仕事

           水萌里は『まめやし』に書いてもらったイラストの出来栄えを自慢するため、かこの『なぞのくじびきや』ブースへ行った。かこは真守とも洋太とも会ったことがないので興味津津で見ていた。 「みもさんはそっくりね。みもさんの家族と会ったことないけど、仲良さそうな感じ」 「まめちゃんの絵が上手だからよ。でも仲は悪くないと思うわ」    照れ笑いした水萌里がふと窓の外を見た。 「この天気だとおもちゃ屋さんは不利ね」  雨が強めに降る空を見た水萌里が心配そうに視線を落とした。かこの

          あさひ市で暮らそう39 水萌里のお仕事

          あさひ市で暮らそう38 二人目の「あんた、なにもんだ?」

           金曜日の夜は『木だまり』でオープンしている『BAR TAKU』で楽しむことが多くなった水萌里は、タクマの妻あやとすっかり仲良くなった。  あやは膣ケア・トレ講師とか性教育講師とかフェムテックアンバサダーとかおむつなし育児アドバイザーとか銚子はね太鼓メンバーとか和太鼓奏者とかドテラ講師とかメディカルアロマ講師とか六人の子のかぁちゃんとかタクマの嫁とか…………あれ? この方も『あんた、なにもんだ?』でした。手作りソーセージの講師もしちゃうほどマルチなWoman。あえて『Wom

          あさひ市で暮らそう38 二人目の「あんた、なにもんだ?」