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技術解説:京城クリーチャー

キングダムを超える?!韓国史上最大規模の 76 億円が投じられたとされる、話題の Netflix ドラマ『京城クリーチャー(Gyeongseong Creature)』の撮影技術の解説をしていきます。

当記事は、動画制作のオンラインサロン UMU TOKYO で公開されたものです。限定公開を目的に有料化をしています。公開日:2024.1.16
https://community.camp-fire.jp/projects/view/231393


1. 京城クリーチャーの製作環境

2023 年の目玉となる韓国ドラマとして、注目を集めている『京城クリーチャー』は、太平洋戦争末期の 1945 年、日本の占領下にあった京城(Seoul)を舞台に、人間の貪欲さにより生まれた “怪物” に対峙する若者たちの姿を描いた、SF スリラー作品です。

キングダム、Sweet Home、私たちの学校は... など、Netflix 制作の韓国ドラマには “怪物” をモチーフにしたヒット作品が数多くありますが、その中でも本作は、梨泰院クラスの Park Seo Joon が主演を務めていることもあり、ヒューマンドラマの側面が強く、メジャー感のある仕上がりとなっています。

Gyeongseong Creature - Official Trailer

Season 1 は全 10 話で構成されていますが、製作予算は 76 億円(₩70B)とされています。韓国ドラマで歴代最高額とされていた、全 20 話の Disney+ ドラマ『Moving』の製作予算が 71 億円(₩65B)なので、その 2 倍の規模で製作されている本作は、まさに韓国史上で最大規模のドラマシリーズといえます。

Moving Official Trailer - Disney+

撮影中に、主演女優の Han So-Hee が顔に怪我を負うなどのアクシデントに見舞われながらも、撮影は 2022 年 10 月にクランクアップ。およそ 1 年間のポスプロ作業を経て、2023 年 12 月に Netflix で公開されています。また撮影終了後まもなく Seoson 2 の製作が発表されるなど、その期待度の高さがうかがえます。

Tae-sang x Chae-ok couple's kind of romance - Gyeongseong Creature

以降、今回の記事では、Behind the Scenes 映像をもとに『京城クリーチャー』の撮影技術の解説をしていきたいと思います。


2. V-RAPTOR × Signature Prime

本作の撮影機材に関しては、Behind the Scenes を見るかぎり、カメラは RED V-RAPTOR 8K VV、レンズは ARRI の最上位モデル Signature Prime、ヘッドは O'conner 2575D が使用されているようです。

Gyeongseong Creature - Meet the Cast

Signature Prime は、ARRI LPL マウントを搭載した 35mm フルサイズ対応の単焦点レンズのシリーズで、12mm から 280mm までの 16 本のレンズで構成されています。開放値は T1.8。レンタル価格は、1 本 1 日あたり 2.8 万円以上するなど、単焦点レンズの中では最高級の製品となっています。

ARRI Signature Prime Lenses

そのルックに関しては、クセのない現代的な質感で、Diopter、Impression Filter など、レンズ後部に装着する Rear Filter により、イメージの質感を自由に変えることができる拡張性の高さに特徴があります。また広角側のレンズでも歪曲(Distortion)が少なく、歪みがより直線的になっている、という特性もあります。

ARRI Impression V Filters Guided Tour

一方、V-RAPTOR 8K VV は、RED で最高クラスとなる 8K フルサイズ規格の小型・軽量なシネマカメラです。最大 8K 120fps の RAW 撮影が可能で、ダイナミックレンジが業界最高の 17+ STOP という、スペックの高さに特徴があります。

V-RAPTOR 8K - RED cameras

また V-RAPTOR と言えば、2023 年公開の David Fincher 監督映画『The Killer』で使用されたのも記憶に新しいですが、6K Super 35 規格で撮影された『The Killer』に対して、8K フルサイズ規格で撮影されているであろう本作は、さらに解像力が高く “立体感 のある質感となっています。 

Netflix Korea

こうした 8K フルサイズ規格の CMOS イメージセンサーで得られる、被写体が浮き出すような独特な立体感は、RED 公式サイトでは Supersampling 効果と表現されています。

RED Digital Cinema

Supersampling 効果による立体感のある映像表現は、よりきめ細やかな描写で、被写体を際立たせるという点では大きなメリットがありますが、細部まで描写されることで影響を受けるのが、美術セットです。


3. 京城の街並みを再現した巨大な美術セット

1945 年の韓国を舞台にした本作では、装飾・衣装・小道具など、映像に映るあらゆる要素が 1945 年当時を再現したものとなっており、大きな建築物に関しては、1500㎡ もの敷地に当時の京城(Seoul)の街並みを建てこんだ、オープンセットとして再現されています。

Gyeongseong Creature - Meet the Cast

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