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映画「オッペンハイマー」見てきた

近所の桜は少し葉桜っぽくなってきた土曜日。


今日は映画「オッペンハイマー」見てきた。
これは絶対見たかった。
3時間長いなー途中で寝ちゃわないかなーと思ったけど全然大丈夫、あっという間だった。
ものすごい量のセリフがとびかう会話劇。
物理の専門用語もあるけど翻訳がよかったのかするする見れた。
オッペンハイマー役のキリアン・マーフィーは今年度のアカデミー主演男優賞を獲ったけど納得の演技。
アップが多く劇中で20代~50代までを演じ分けて全く違和感がない。
登場人物も膨大で誰が何をする人なのか覚えきれないんだけど
その場その場の会話で何をする人なのかがわかるのでいちいち覚えておかなくても大丈夫。
これは脚本がよくできてるんだろう。
とにかくずーっと緊張感が途切れずとても面白かった。
クライマックスは原爆投下なのかなと思ってたらそこは通過点に過ぎず
オッペンハイマーという物理学者が原爆の父と呼ばれるようになり、戦後の反共産主義の渦中で役職を追われ、最後はもう一度功績が認められるようになるまでを描く物語。
背景に1920年代後半からのアメリカ社会の共産主義と対ソ連への脅威など冷戦構造ができあがる過程を追いつつ、第二次世界大戦での連合国としてのアメリカの立ち位置などが色々な目線で描かれて
原爆を落とされた立場の日本人としては複雑な気持ちもあるけど
人類が手にしてしまった原子力爆弾をどう扱うべきかという問題を考えさせられる物語だった。
原子力爆弾を作ったけれども水素爆弾には否定的であったがために東西冷戦下のアメリカでは批判される立場になった物理学者オッペンハイマー。

アインシュタインと会話を交わす場面が重要ポイントになるのだけど
物理学者同士でしか分かり合えない心理があり蚊帳の外におかれた原子力委員会創設委員のストロースの嫉妬から
オッペンハイマーが追い詰められていくというのが科学者とは世間に理解されにくい存在なのだなぁと思った。

「オッペンハイマー」を見たいと思った理由の一つにノーベル物理学賞を受賞した朝永振一郎さんをモデルにした
「東京原子核クラブ」(作・演出マキノノゾミ)という舞台作品を以前観劇してとてもよかったから。
朝永振一郎さんが理化学研究所で原子核の研究をしている頃に下宿していた平和館に住んでいる人々を描いた群像劇なのだけど
友田(朝永さんのモデル)が終戦後に原子爆弾が広島と長崎に落とされたときに物理学者として抱いた感情を語る場面があり

「人類がついに原子核エネルギーを解放したという事実に、興奮せずにはいられなかった。人類の大脳皮質が発達を続ける限り、自然法則の探求を止めることは不可能だからです。同時にこれから始まる世界の原子力時代に、我々日本の物理学者が遅れを取ったことを悲しく考えてさえいました。
その爆発の下で死んだ何万人もの同胞の命に真っ先には思いが至らなかったことに後で気づいて愕然としたほどです」

科学者としての正直な心情に物理学の探求とその果てに到達したものの使い道について常に問い続ける姿勢を持たなければ
あっという間に悲劇的な方向に進んでしまう緊張を孕んでいることを突きつけられた感じだった。
科学の進歩は素晴らしいことだけど、人類は知性の探求心以外にも自分たちの正義を守るために戦う道を選ぶ性質持ち合わせていることも
常に頭に入れておかなければならない。

劇中で友田がドイツのライプツィヒに留学してハイゼンベルグの研究グループに参加するくだりがあって、ハイゼンベルグはオッペンハイマーがケンブリッジ大学留学中に出会うニールス・ボーアの下にいたらしく
友田(朝永さん)とオッペンハイマーはもしかしてニアミスしてたりするんだろうかと思ったりした。

友田さんの研究室の西田教授(仁科芳雄教授がモデル)が海軍大尉の狩野から日本での原子爆弾製造の可能性についてきかれたとき
可能性としてはできる、ただしそのためには想像を絶する資金が必要で、今の日本でその環境を準備することは不可能、
そして他国でこの戦争中に製造することも不可能と答えてるんだけど、
実際に映画の中でマンハッタン計画としてニューメキシコ州にロスアラモス研究所という町を作ってしまったのを見て
アメリカの資金のつぎ込み方は常軌を逸しているし、ドイツ人もロシア人も想像しえなかったんだろうと思った。

製造することはできなかったけど理論ではひけを取ることはないと西田教授は言い切っていて、圧倒的な国力の差に悔しい思いをしたんだろうと思う。
それは映画「オッペンハイマー」という作品そのものが原子爆弾を作ったアメリカの国力を象徴しているようにも思えた。
見終わった後に色んな意味でアメリカすげえなぁと思わざるを得ない映画だった。

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