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不思議の国のアリス症候群

そこはただっぴろい、何もない世界だった。

明るいと言えば明るいが、太陽のように光り輝くものはなく、常に地平線の下から何が照らしているようだ。上を見上げてもどんよりとした雲がただよっているだけだ。空は赤い。

周りを見渡してみても、地平線が続いているだけで、あるとすれば崖のようなとてつもない大きさの岩の塊が2つ、隣り合うように聳え立っていた。くっついた間、両者の岩の真ん中は、2つを合わせて祠のように窪んでおり、その上部はまるで包丁で切り取られたように、真っ平になっていた。
そしてその岩の後ろがどこまで続いているのか、私の肉眼では判断できない。そのくらいの大きさだった。

その2つの岩の先から鎖が2本伸びている。真っ平らな部分から杭ででも止められているのか、崖の先まで伸びたそれは、下へと真っ直ぐに下り、その先に鳥籠のようなしかし、それは鳥籠にしてはやけに大きい、そんな籠がぶら下がっている。

そして私は今そこにいる。その鳥籠の中にだけ。
どこからきたのか。はたまた集められたのか。
まだ、乗り込んでくる人がいる。籠の入り口と言うべきだろうか、いわゆるドア的なものは、2つある。1つは、私たちが乗り込んだであろう、崖に続く方だ。
そしてもう片方は、開ければ真下に真っ逆さまの、
下には何もない方。
全員が入ると籠が「キイイィ」と錆びた鉄の音を立ててしまった。この籠は鉄製らしい。

何が始まるのか、と目を凝らして周りをよく見ると、祠の真ん中にも人が立っていた。女性?のようだ。
外が赤色のせいで、女性が身につけているドレスも赤く見える。ピンクなのか、オレンジなのかサーモン色か、もしかしたら白色だったり、いや黄色もありえるな、、。女性の表情はよく分からないが、頭に王冠のようなものがついている。僅かながらに輝いている。
そう、女性はまるで女王様のように見えた。両腕両足が隠れるように長いドレスを身にまとい、ゆっくりと祠の前へ前へ歩いてくる。

祠のギリギリ前、もう一歩踏み出せば落ちる、そこまで彼女は歩みでて、そして止まった。
何をするのだろうと私も含め、皆が見つめていると彼女は両腕をサッと上にあげた。
同時に籠の扉が今度は前方の方、つまりは真っ逆さまの方が開き、
そして私たちの目からは見えぬ、岩の脇から
崖の背とそう変わらぬ男、大男がでてきた。
なんだあれは、なに怪物?!ざわめきとどよめきと悲鳴が混じり合う
手には棍棒を持っている。

よからぬ不安に皆が叫び声をあげている。私は訳が分からず口を開けたまま震えていた。人は自分より大きなものを目にすると自然と恐怖するのだろう。そういえば私も、大きなゴジラのモニュメントを見て恐怖したものだ。いや!それとこれは別だろう。
命の危機を感じるもの。

何の力に引き寄せられてか、片方の籠から1人
まるで磁石で大男に引き寄せられるように籠から外に宙の上を飛んでいった。大男は魔法使いなのか?
もう片方の籠からは1人、もう1人引き寄せられ、計3人、籠の前の宙に浮いたまま止まった。

籠は、3人が引き寄せられるとガシャンと、閉じた。
何が始まるのかと、恐怖に怯える人々を前に
「ゴンッ」と、大男が1人目の頭を棍棒で1殴りした。
人々は初めて何が起きたのか分からず、束の間の静寂。その後耳が千切れるほどの皆の叫び声と、1人目から出た血飛沫とパニックで暴れ出す人々の揺れで、籠の中は騒ぎどよめき、揺れ動いた。私も叫んだ。
一体これは何だ。何が起きているのか。
その最中に、ゴンゴンと、男はもう2人の頭も殴った。揺れ動いてパニックでよく見えなかったが、大男はかすかに笑みを浮かべていたような気がする。

何時間後だろうか、気がつくと籠から外に出ていた。
周りを見ると、皆意識朦朧としながら、床に這いつくばっていた。だが、危ない。一歩間違えれば、体こと粉々になるほどの絶壁なのだ。

もう大男も祠にいた女性もいない。
泣き叫ぶ人と、呆然とする人と、何か助けを求めるようにフラフラと歩く人と、まだ気を失っている人と。
中には震えるだけの者もいた。両腕で膝を抱き込み、ガクガクと震える身体を押さえ込むようにしているかのように見える。目が合うとその人は震えた足を微かに地面につけながら、今にも倒れるように歩いてきた。

「知ってるか?あれは儀式だ。
生きているうちは全員が通らねばならん。
逃げ道なんて残されてないんだよ。
どこへ行こうにも儀式の時には必ず戻ってきてしまう。この世界は終わりの世界さ。
そしていつかは選ばれてしまうのさ。
生贄として犠牲者に。」


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「ねぇ、〇〇、知ってる?」
「何を?」
「嘘にはね、ついて良い嘘とついちゃ悪い嘘があるんだよ。」
「どういうこと?」
「例えば、本当は友達のおもちゃを壊してしまったのに、壊してないと嘘をついた。これはどっち?」
「悪い嘘!」
「そうね、正直に壊しちゃったごめんなさい。
って謝らなきゃいけないよね。」
「じゃあ、あと3日で死んでしまう人に、
あなたはあと3日で死にます。て伝えるのと大丈夫ですよ、まだまだ生きられますよって伝えるとどっちがいいと思う?」
「うーーーん難しいけど、後者かなぁ?」
「そうね、3日で死ぬ級に言われるよりは、まだまだ生きられるって思う方が元気が出るよね。
これが良い嘘と悪い嘘。」
嘘はついていいものじゃないけど、時につかなきゃならない時は、良い嘘でありたいと思う。

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小さい頃、寝る前のあの時間が嫌いだった。
布団に入り、何を考えるまでもなく、眠気が来るまで横になりあれだこれだと考えるあの時間。

その嫌な時間の中で時に私は、モノが大きく見えてしまう時があった。例えば、本棚。ありえないくらい大きくなって自分の方に倒れ込んでくるんじゃないかと思った。他にも自分の指、畳の縁や壁の模様。全てが巨大化して、自分が縮んでしまったように思える。あれが来るのが怖くて、あぁなってしまうのが怖くて、本当に嫌いだった。

だが、いつの間にか、あの時間はなくなっていた。
大きくなるにつれ、考えることが増えるからだろうか。最近では気絶するように寝ているしな。

なんてことを最近思い出して、試しに検索してみた。このご時世、ググれば何でも出てくるので、もしかしたれ自分と同じ境遇の人がいるかもしれないと、そう思ったのもあった。

驚くことに、それはれっきとした名前があった。
不思議の国のアリス症候群というそうだ。
なるほど、アリスも確かに縮んでいたな。

幼少期に起きやすいらしい。子どもの時にあんな怖い現象起こしてくれるなよ、もし子どもの時にその名前を知れたのなら、そんな可愛い名前なら怖がらずに済んだのに。

大人になった私は思う。

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