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スローシャッター感傷【5】

ついに、読了後感想です。

発売前の高揚感を鎮めるスローシャッター鑑賞【0】からようやく、読了後感想を認めるに至っています。読了したのは1月4日、コロナ禍以降ゆっくり帰省したのは久々のことで、子供と母が嬉しそうに雑煮や、きな粉餅を食べている会話を聞きながら、併読しつつ、読了の時はきました。

Googleマップに「スローシャッター」非公開フォルダを作り、実際に敦嗣さんが旅した場所を目次通り、空港、街、誰と、会話のキリトリ、地点とメモを構築しながらゆっくりと辿っていた。note で読んでいた連載始まりの頃は3分間読み切りすら絶え絶えの気力であったのに。本となって、指感触と程よい重さを手で持ちながら、縦組に紙に置かれた文字のスローシャッターを読むのは、心のスピードもゆっくり、ゆっくりだった。

下北沢トークイベント(スローシャッター感傷【2】)に馳せ参じた、帰路の飛行機で「フェイの仕事」を読んだ。年末に「ターミナル」「オリジナル」「デルタ空港296便」「小さな町の信念」と、クライマックス&怒涛のクライマックス。そう、この目次の並びも、好きすぎる。

目次眺めるだけで泣けちゃう

コロナ禍ふりかえりの「伝えられない言葉」

すぐにロアンが嬉しそうに見せてくれた、幼い子供の写真が脳裏に浮かんだ。
ロアンのいる工場からの物流は途絶えない。彼女も、多くのスタッフたちも、愛する家族が待つ家に帰れないまま、既に数ヶ月間働き続けている。

スローシャッター「伝えられない言葉」より

今、noteしながらこのページ読んでまた泣いている。何度も、何度も読んでも同じところで涙が流れる、泣きながらキーボードを打っている。

スローシャッターは、登場人物の細かな輪郭描写や、心を深読みするような主観的感想はなくただ静かに、その時その場所に置いてきた現象を文字起こししている印象。そこに敦嗣さんの真面目さや優しさを感じるのである。どうにもならない状態で、先が見えないウイルス蔓延の中で、子供や家族を離れて働くロアンたち、また、家族の事情も抱えて働きたいけど働けないで仕事を失っている人たちも見えて、ほんとうに、無力に想像して泣くしかできないところである。あのコロナ禍の時さ、大変だったよね、って過去思い出し話にするにはまだまだ早急で、我々はまだ苦しい大変な中で生きている。

家族の在り方を問う「ホセという男」

小さかった男の子は大学を卒業すると、サンティアゴに就職することが決まった。
(中略)
彼は、育ててくれた父親と同じように優しく大きな家族をつくるため、あたたかいホセの家を旅立った。

スローシャッター「ホセという男」より引用

何度同じところ読んで涙してるの?である。涙じゃ足りず鼻水まで流れる有様でスローシャッターよ、人前で読めない第一候補の本になってしまった。実存で地球の向こうで生きているスローシャッターの人へ思いを馳せ、我が心に手繰り寄せる。家族を語る時、自分には「家族をする」が言葉がしっくりします。奇跡でも定めでもない、美しさだけではない愛だけではない、苦難を乗り越えるものでも、ないのだよ。振り返った時に笑顔を思い出す日々だったな、と在りたい。「ホセという男」まで読了して年末を迎えた。

姉の私よりしっかり者、7つ歳下の妹が料理を振る舞ってくれる。妹手作りごはん、自家製パンは、産後体調不良の時、子供3人を抱え離婚しフルタイム勤務、食生活に手が回らなかった時、仕事が忙しくて心が折れそうな時、私の人生を振り返る時に、妹の手料理や自家製パンは、色鮮やかで芳しい残像となるであろう。

読了しました「160人の家族」

本書出版に書き下ろしされた「160人の家族」は、敦嗣さんがベトナム・ニャチャンへ2022年初夏に訪れた時のもので、ひろのぶさんと成田国際空港で待合せするところから始まる。緊張と高揚感が伝わる、ロアン、スタッフたちとの再開するシーンは、写真一枚から語られる心象と現象が溢れて、今も、ページを開くだけで涙が、出るよ。

ベトナム政府は、感染症の蔓延を防ぐ方策を断行した。人口の多いホーチミン近郊ではロックダウンなどの措置を取った。一方でカインホア省ではホーチミンほど感染者が出ていなかったこともあり、条件付きの行動許可を出した。
それは、ニャチャンで働く工場労働者は、職場に宿泊して敷地から外部に出ないのであれば働いても良いという通達だった。そのことは、ワーカー達が自宅へ帰れないことを意味した。

スローシャッター「160人の家族」より引用

400名いるワーカーのうち、160余名が工場に残る決意をした。日本の物流は混乱したが、ロアンのいる工場から送られてくる製品は、一度も止まることはなかったこと。160名のワーカー達は助け合い励まし合い、90日間続いた共同生活の中で家族になった、母に会えず我慢し続けた息子の写真を誇らしげに見せるロアン、2年ぶりに家族旅行ができたこと、戻すことのできない苦難の中で「私達はただ当たり前のことをしただけだ」と言った、と。

コロナ蔓延の春、我ら母子は

長女は、高校受験生だった中3に進学した春だった。先の見えない公立小中学校の長期休校に入った。程なくして、長女は、どう頑張っても昼まで起き上がれなくなる。月経困難症で、月の半分は寝たきりのような状態。婦人科へ門を叩き薬の処方はして貰ったが、明らかに起立性調節障害と思える症状でも、頑なに専門医へ行きたがらなかった。登校が復活するとマスク必須なのにマスクが不足して、手作りや洗い回しで使う中で、肌が弱い長女は顔全体が重度のニキビになり不登校が加速する。皮膚科にも通い始める。年頃の娘には辛すぎる肌をとりかえてあげたいと思った。担任の先生と連携し、登校できる時に登校し、体調がすぐれないと迎えに行く。ある時、保健室から電話がかかり学校の玄関へ向かうと、長女、膝を抱えて涙をポロポロポロポロ流していた。自分でもどうして悲しいのかわからない、体がつらい、友達とおなじことができない。と自分を責める。

その日から、生きてさえいてくれればいいと思った。休みたいだけ休み、寝たいだけ寝てよい。徐々に、徐々に緩解して午前中に起きられるようになるが、受験当日、体調を合わせることは叶わず志望校には合格できなかった。今現在は、通信制高校に通っている。大学のカリキュラムのように登校日を選べる。月に2〜4回の登校日は、過保護だなど思わず送り迎えをし、学校終わるまで私は近くの書店と喫茶店で仕事をしたり読書をして時間を潰して待つ。自分が自営業で、長女に向き合えたことには救われたコロナ禍だった。コロナ禍になって失われた仕事もあった、長女を笑顔で支えながら、自分は仕事の開拓にめいっぱい励んだ。
昨年から始めたアルバイトが長女に責任感を育て、朝7時から始まる出勤にも遅刻せずに通えている。職場の主婦の方々に可愛がられ、気がつけば半年でトレーナーという役になっていた。コロナ禍の間に病気の犬を看取り、絶望の中で動物看護師が国家資格に変わることが希望となり、今はそれを目指している。

次女は、来月高校受験だ。姉の苦悩を見ていたので、淡々と志望校を選択してマイペースに学校休みたいときは「おなかが痛いにゃ!」と朝おどけてくる。私は笑って、いいよ、無理すんなという。塾にも通わせられなかったが、次女は我が家の中で一番成績が良い。心配はしていない。だが、離婚直後3歳だった次女は父親年齢の先生を怖がる、夜中ずっと頭痛と嘔吐をする重い自家中毒で、児童心療内科に通っていた。離婚の原因でもあった父親からの虐待の影響が「中2を超えるまでが難関」と児童心療内科医に宣告されてから危惧する条件を先に払う日々、過保護でもいい、笑顔を守ることだけ必死で気がついたら、飄々とマイペースで今の次女がある。支えてくれた長男、長女の存在に感謝したい。うん、母の私がマイペースだったからかもしれないね、実家の理解と支えにも感謝している。

長男は、コロナ禍の春から、進学というタイミングだった。技術専門の服飾学校なので、縫製など実技があり休講措置がとれない。非常に緊迫した中で学長の覚悟と、学校の努力を感じたなりに、水を得た魚のように猛烈に服飾デザインを学ぶ日々にあってそれは今日現在途切れることなく続いている。このご時世、働く未来に夢を掲げることさえ難しい、でも、応援しかない。

コロナ禍の影響で、次女の小学校卒業式、中学校入学式を参列することは叶わず、長男の成人式は札幌市は中止の措置をとった。節目の式典が永遠に失われたことと、いま元気に生きていることは比べることもない。

子供を育てながら生きること仕事することに、溺れながら息継ぎだった…本書、スローシャッターが出るまで追いかけたTwitterで、旅をありがとうという気持ちで、最後、振り返り貼らせていただきます。

Twitterを通して、スローシャッターな日々振り返り


「旅することは、生きること」

生きることは、旅することになっていた。

仕事に寄せた記録、コロナになって失われた仕事と、新たな旅の始まりとなった日々を振り返り、次回、スローシャッター【6】で最終章です(多分)ありがとう、スローシャッター。旅は、続きます。

「全恋」読了後の続編も、かきます。

その後、感じ直すところがあって過去の出来事に決別できて、今年から新たなスタートラインにいます。ようやく、こんな歳になって。みっともなく子育てしながら、女に生きる本質とは、愛とは、性とは?作家の稲田万里さんの勇気と清々しさに掬われた読者のひとりとして。じゃがいも、ポケットにあるけれど。ずいぶん、小さくなって握りしめなくてもよくなりましたよ、という話を残したい。

ありゃ、誰が読むのか?4000字超えてた💦
最後まで読了くださった方へ、ありがとう。

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