見出し画像

【2023年度J-StarX社会起業家コース】サンフランシスコ・SOCAPレポート

こんにちは。株式会社UNERI代表取締役CEOの河合将樹です。
この記事は、経済産業省主催【J-StarX社会起業家コース】で2023年10月22日~26日までアメリカ・サンフランシスコに滞在していた私目線による現地レポートです。
10月23日〜25日、サンフランシスコで開催されたSOCAPというインパクト投資カンファレンスに参加してきました。今回はJ-StarXの概要説明や、カンファレンスセッションで話されていたテーマ、米国等で活動するプレイヤーとのディスカッションから見えて来た世界が現在注目するトピックの一部をお届けします。


J-StarX社会起業家コースとは

J-StarX(読み:ジェイスター・エックス)」は経済産業省主催の起業家育成・海外派遣プログラムです(2023年から5年間で、日本人の起業家1000人を海外派遣するようです)

◆詳細
世界を舞台に活躍する起業家輩出に向け、志高い挑戦者に、世界のトッププレイヤーと繋がり、学ぶ機会を提供しチャレンジを後押しします。本プログラムを通して、誰もが挑戦できる土壌づくりや次の時代を創り出すエコシステム形成を行い、日本からスターが生まれ、世界が輝き照らされる未来創造を目指します。

J-StarX公式Webサイトより引用

その中で、今回私が採択頂いた社会起業家コースの詳細は以下の通りです。

◆派遣詳細
・コース名:社会起業家コース【米国SOCAP】
・派遣時期:2023年10月22日~10月27日
・派遣場所:米国・サンフランシスコ
・コース概要:【社会起業家コース】
ソーシャルキャピタル市場を活性化し、世界的な問題解決に取り組むことを目的とした国際的な会議SOCAPに約3日間参加するプログラムです。イベントでは、世界中からインパクト投資家、社会起業家、ポリシーメーカー、学者、非営利団体、企業家が集まり、重要な問題に対処するために共同で取り組んています。​参加者は、SOCAP GLOBALのプラットフォームを活用することで 、多様なパネルディスカッション、プレゼンテーション、ワークショップ、ネットワーキングイベントに参加し、自らの知識を深め、ビジョンを共有し、資金調達や新たなパートナーシップを築く機会を形成します。

J-StarX社会起業家コースより引用

このコースの特徴は、
対象が、起業家だけではなく支援機関もOK
という点であり、これは他コースにはない唯一の特徴です。

ですので結果的に、採択された20人中6人が支援機関(と捉える事も可能)でした。(例:インパクト投資ファンドのVCやBCorp認証支援機関、社会起業家支援機関など)
インパクトスタートアップを中心とした社会起業家を育むエコシステムは、日本ではまだまだ未成熟です。その中で、この領域に特化した支援機関を育む事は起業家と同様に重要と国が判断されたのでしょうか。当事者としては大変喜ばしい事です。

社会起業家というと、NPO法人/一般社団法人、ゼブラ企業、インパクトスタートアップなどなど様々な主体者を形容する言葉がその中に内包されている傾向にあります。その中で、今回のコースは明確に「インパクトスタートアップ/該当する支援機関」の皆様が採択されていました。
インパクトスタートアップがどんな会社を指すのかは、インパクトスタートアップ協会の正会員一覧をご覧下さい。

SOCAP(Social Capital Market)とは

SOCAPは、2008年より毎年サンフランシスコで開催される世界最大級のインパクト投資カンファレンスです。累計で10万人以上が参加しました。

SOCAPには、毎年世界中から3000人を超える、インパクト投資にかかわるスタートアップ、VC、財団、インキュベーター等が集まります。また、インパクト投資分野では世界最大規模のカンファレンスとして世界的に知られています。

今年も例年同様、米国を中心に南米、欧州各国、アジア、アフリカ等世界中から約3000人の業界関係者が参加していました。

会場の様子

今年のSOCAP「SOCAP23」の会場は、サンフランシスコの中心部にあるYerba Buena Center for the Arts (YBCA)
これはあくまで所感なのですが、サンフランシスコやシリコンバレーからイメージされる投資家像は、「どのくらいの経済的リターンが出たのか?」という話をする人が多い中、SOCAPの参加者はその視点も持ちつつも、経済的リターンのグラーデションがあることを許容し、「投資を通じて、どうSystemic Changeが起きるのか?」という問いを持っている方が多い印象でした。

DAY1〜3での様子や学び

SOCAP23は、10月23〜25日の3日間で、70のセッション、350人の登壇者、3200人の参加者、という構成です。(いやぁ、それにしても70のセッションは多いです。)

公式サイトより引用

上記の図の通りですが、

  • Climate and Capital

  • Philanthropy as Catalytic Capital

  • Impact Measurement and Management

  • Gender Lens Investing

  • Full Spectrum DEI

  • Community and Economic Development

  • Well-Being for Impact

  • Value Chain Investment

  • Social Entrepreneurship

という9つのコンテンツ トラックでセッションは構成されており、
地域の重点トラックとしては、ラテンアメリカ、アジア、アフリカという3つの観点でスケジュールから選択出来ました。3日間のスケジュールや、各セッションの詳細はここから誰でも見ることが出来るので、ぜひご覧下さい。

SOCAP2023 Agendaの抜粋

ここからは、実際に参加したセッションの抜粋やSOCAP全体を通した、気付き・学びの幾つかをこちらでシェアしていきます。

①SOCAPには「Patient Capital」の担い手が多い

「Patient Capital(ペイシェント・キャピタル)」とは、寄付金等をベースとした短期間の回収を目的としない資本を指す言葉です。
ここで指す短期間というのは、一般的に7〜10年という数字が基準になるケースが多いです(=VCの運用期間以上の期間も耐えれるファンド)。今回のSOCAPには多数のインパクト投資家が参加されていると事前にお聞きしていたのですが、参加者構成としては「財団」が最も多くIPO志向のスタートアップに投資をするインパクト投資ファンドは少ないように感じました。

当日の舞台

今後国内でも、VC型のインパクト投資ファンド(≒運用期間が10年のファンド)は既存のVCスキームの延長線上で増える事が予想されますが、この「Patient Capital」を体現する柔軟な資金提供者は日本では数少なく、それだけにその担い手が多数集っていることに圧倒されました(詰まる所、日本のインパクトエコノミーはまだまだアップサイドしかないわけです!)
「株式会社=営利、NPO=非営利という記号の整理で括るのではなく、【挑む社会課題が深いのか?(Deep Issueなのか?)】という観点で分解するのが重要」と弊社では常日頃考えています。その話題でEU内のとある財団担当者と盛り上がっていたのですが、日本に限らず「何を持って”深い”社会課題なのかという問いは、簡単に理解されない。だからこそ、エコシステム全体のリテラシーを上げる努力を、エコシステムビルダーである我々が積極的に担わねばならない」という、土地・言語は違えど同じ環境下で奮闘する事業者と話せた事は、心にグッと来ました。

②「インパクト指標」の策定方法は、世界的アジェンダの1つ

さて、次はIMM(Impact Measurement&Management)の中で重要と言われるインパクト指標(インパクトKPI)の策定方法に関する議論です。
それは、『Beyond the Dollar: Investing in Entrepreneur Support』という「お金以外の社会起業家支援の方法を考える」40人限定のワークショップでした。(驚く事にアジア人は自分以外誰もいなかったです)

議論の内容の一部

VC型インパクト投資ファンド、財団、エコシステムビルダー、インパクトスタートアップ、NPO、という多様な方々と一緒に、喧々諤々の議論をしました。中でも最も興味深かったのは、ドイツのエコシステムビルダーとの対話です。要訳すれば、「お金の色をアラインさせる」という話題。「社会課題はローカル性が高い。したがって、多国籍に渡るLP-GP-社会起業家で構成している場合はコンフリクトが生まれる可能性が高い。国・地域の共通項をみつけ、如何にして重要度・緊急度の高い社会課題の認識をアラインさせるかに、GPやエコシステムビルダー我々の手腕が試される」という内容でした。
実際、一緒に派遣で参加した国内インパクトスタートアップの何人かと話す中で、日本の社会課題は複雑性やローカル性が高く、他国の皆さんからはイメージされにくい弱点も実感しました。

③社会課題領域でも「アフリカ」は世界中から注目されている

「アフリカ」の存在感が凄かったです。実際、社会課題が目に見えて明確なことや、経済的なアップサイドも大きいという理由もあり(何よりもピッチやPRが上手)、アフリカ系の起業家・スタートアップにはお金が集まっている印象でした。

また、欧州・米国の財団関係者と話していても、「アジアよりも、アフリカの方が魅力的かな」と言われたり、実際にアフリカへの投資を加速させたい、という声も多く聞きました。これは余談ですが、SOCAPには中国人の参加者は0人で、政治的な関係性も垣間見れました。『Place-based Impact Ecosystem Building Meetup』のセッションでも、アフリカにおけるPlace-Based Impact Investing(PBII)*の話題は盛り上がり、世界中がアフリカに熱視線を送っているのだと実感しました。

Place-Based Impact Investing(PBII)
特定地域の社会課題解決に向けて、地域の事業者や社会起業家に投資する仕組みです。地域に根ざしたインパクト投資、地域重視型インパクト投資、などと呼ばれる。

PBIIに関しては、PBIIの調査・政策提言活動を行っている英国のImpact Investing Instituteのサイトをご覧下さい。日本ではPBIIに関する議論はほぼされておらずですが、名古屋のスタートアップエコシステムづくりから事業をスタートさせた弊社としては、数多くのヒントを頂いたように思います。

その他、南米の財団や社会起業家と話す機会もあり、ここには書ききれない程の出会いや学び、「Why from JAPAN?」の重要性を実感する対話が出来たのは何よりの収穫でしたが、一旦以上とさせて頂きます。

3年間で13万人減少したサンフランシスコの今

米国入国審査のタイミングで、「サンフランシスコに仕事で来ました」と言った所、「No.1 dangerous area. Haha」と言われる所からスタートしました。(現地の友人から、「今のサンフランシスコは本当に治安が悪いから注意してね」と聞いてはいたのですが。。)

サンフランシスコの中心街

一方で、サンフランシスコ中心街の全て=治安が悪いという訳では勿論ありませんでした。しかしながら緊張感のある雰囲気が漂うエリアもあり、五感で感じる危険な香りと葉っぱの香りで溢れ返るエリアも。実際の所、一部の通りはホームレス、薬物中毒者が多かったです。(それに起因して半裸の人間、叫び続ける人間、今にも倒れそうなおばあちゃん、毛布を着て移動する女性etc...。)
物価と地価の高騰、コロナによる失業者、テックジャイアントがテキサス州に移動、様々な要因が重なって人口がこの3年で13万人減少(88万人→75万人)とのこと。(ソースはバスのガイドさん情報)
SOCAPの最終日セッションテーマの1つには、『Can Impact Investors Save San Francisco?(And Should They)』≒「インパクト投資家はサンフランシスコを救えるのか? (そしてそうすべきだ)」という現地開催ならではのセッションもありました。インパクト投資家はどこまで言っても「投資家」である以上、経済的な差分を加速させる存在という見方も出来ます。資本主義のダイナミズムをこの眼に突きつけられた瞬間です。

最後に

走りでの公開だったために一部詳細は省略しているのですが、いかがでしたでしょうか?ここまで書いてきましたが、このnoteが1人でも多くの起業家、そして次年度以降にJ-StarX社会起業家コースの申込を考えている方、数年後どこかでSOCAPに参加しようと思っている日本人の皆様の参考になれれば幸いです。
各国でChange Makeを試みる世界中の財団、起業家、VC、エコシステムビルダーの皆様とディスカッションできたことは、何事にも堪え難い経験でした。心底、この業界は「いい人」が多いなと実感しました。

改めて、派遣機会をいただいた経済産業省及び運営事務局のデロイトトーマツベンチャーサポートの皆様に心より感謝申し上げます。
本当に貴重な機会をありがとうございました。

おまけ:11/7 フィランソロピーに関するオンラインセミナー開催します!

今回のSOCAPを通して、「新しい資金提供の仕組みを考える事」はトピックの1つとして重要度が上がっている印象でした。その方法論に関して、既知のものを含めて世界各国で模索しているワーキングググループも多数存在していることも分かりました。キーワードは、「フィランソロピーの可能性」。「投資」の枠組みの中ではなく、「寄付」が原資だからこそ出来る力強さを再認識しました(Patient Capitalの実現も柔軟な寄付があってこそ)。

そこで弊社が出来ることの1つに、国内最新事例を皆様に知って頂くという事があると改めて思いました。11月7日に名古屋市と弊社で開催する「フィランソロピー」は、学生起業→IPO→キャピタルゲインを基に財団を設立された、一般財団法人Soil代表の久田さんをお招きします。

久田さんは、「IPOした起業家が財団を設立する"流れ"」を作ろうとされています。欧米では一般的な、創業期の起業家にとって許容度と自由度が高い資金提供する「フィランソロピー」を日本でも普及させようと挑む、旗振り役のお一人ですので、
☑Soilさんに関心がある
☑久田さんの事を知りたい
☑フィランソロピーに関心がある
という方々は是非リンク先より詳細をご覧下さい。

それでは、今後も皆様どうぞよろしくお願いいたします。
株式会社UNERI 代表取締役CEO 河合将樹

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?