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よい旅を/たましいは桃

 ゴールデンウィークにどこかへ旅行すること自体が人生ではじめてのことかもしれない。学生時代は吹奏楽部のコンクール前の練習や他校の演奏会で忙しい時期だったし、働き始めてからは繁忙期で仕事だった。昨年はカレンダー通りの休みだったけれど、国家試験の勉強と転職活動を並行していて、机の前に座っていた。

 1ヶ月前まで住んでいた場所に戻るので、旅行というより感覚としては帰省だ。

 4連休初日・午前中の東京駅。東海道・山陽新幹線の改札は、すべてのレーンのあっち側とこっち側にひとりずつ駅員さんが配置されていておののいた。完全人力自動改札。入るときも出るときも何か言われたけれど、よくわからず。

 ホームについてから時間があったので、サーティーワンのアイスクリームの自販機でアイスを買った。交通系ICがうまく反応しなくて困っていたら、こうじゃないですか!と順番を待っていた年下の女性が助けてくれて、買うことができた。人混みのなかをへとへとでホームまでやってきたあとだったので、そのやさしさに思わず「やさしいですね」と言ってしまう。嬉しそうにしていた。「よい旅を」と言ったら「よい旅を!」と返してくれる。東京の人が冷たいとかいうのは嘘だと思う。

 新幹線のA席B席C席と3席並んだ座席のうち、B席に座る。左隣の男性、私、右隣の女性、全員白いシャツに濃色のボトムスで、ちょっと恥ずかしい。ファッションの系統は全く違うのだけれど、ぎりスリーピースバンドに見えなくもない。そりゃあ5月は白シャツですよね〜。このくらいの気温が一年の半分くらいを占めるようにするには、太陽と地球の距離や自転の角度をどれくらい変えればいいんだろうかなどと考える。長袖のシャツ一枚で過ごせる季節はあまりに短い。

 先日、下北沢にある日記専門の書店「日記屋月日」で買った、柴沼千晴さんの『頬は無花果、たましいは桃』を読む。

 先週末にはじめて訪れた店内にはたくさんの人の日記本があり、柴沼さんの書いたものも複数あったけれど、今日はこれだな、とピンときて買った一冊。この人も、桃が好きで、伊藤亜紗を読んで利他について考えていて、twililightに出入りしていて、首のにおいが好きらしいので、もう友だちになれそう。表題のうち「たましいは桃」の部分がくどうれいんさんの短歌(引用はなかったけどたぶんこの歌のことじゃないかな、「たましいが果実であればこのくらいグレープフルーツ迷ってかごへ」)から来ているというのも、友だちになれそうポイントをさらに1ポイント上乗せした。くどうさんは、魂の大きさはグレープフルーツぐらい、柴沼さんは桃くらいかなと思ったらしい。私の魂は桃と同じかそれよりひとまわり小さいイメージで、日向夏くらいじゃないかな。グレープフルーツは結構でかい感じがする。

 大阪駅で両隣の人が降りてしまい、音楽性の違いで解散、ソロ活動を始めることになった人みたいな気分。

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