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バスタを背にして/蓄音機と現代文

 朝、Spotifyで音楽を聴く。休日に聴いていることが多い「ホットケーキの朝食」と題がつけてあるプレイリストをかけていたら、耳に留まるフレーズがあった。

吐く息は白く 足早くターミナル
放射状鮮やかに 僕らのアクセス
バスタを背にして 甲州街道を眺め
喧騒の中で 君を探してる

蓮沼執太フィル/HOLIDAY feat.塩塚モエカ

 ん?いま「バスタ」って言った?甲州街道ってことはあの「バスタ」ってことだよね?一時停止して、もう一度聴き直しながら歌詞をみてみると、やっぱり「バスタ」と書いてあった。新宿駅の歌だなんていままで一切気づかなかった。新宿区民になったとたん聞こえてくるフレーズがあるもんだ。調べてみたら、NEWoMan新宿という商業施設とのタイアップの曲だったらしい。

 新宿まで出て、こまごましたものの買い物。ひととおり生活に最低限必要なものは揃いつつあるけれど、暮らしのシーンの折々で不足が出てきて、都度買い物リストに追記する日々は続いている。気になったからNEWoManも覗いてみる。でもやっぱりまだまだ気忙しい新宿駅に長居しようとは思えず、用事が済んだら退散。

 神保町へ移動。実はちゃんと来たことがなかった神保町。グーグルマップに何本か立てていた緑色のフラッグを一つずつ訪ねては、黄色の星に変えていく。神保町駅と九段下駅のちょうど中間あたりに、数日前にSNSで見かけた店があって、そうだここも、と思って入ってみる。4月にオープンしたばかりの「月花舎・ハリ書房」だ。

 この店については、いずれまた書くことになりそうなのだけれど、四谷で長く文化的サロンのような喫茶をされていた店主の東京の二店舗目であること、今回は移動書店と共同での運営になっていること、読書会や演奏会、ギャラリーとしての使用も検討している場所であること、そして立派な蓄音機があって、予備校時代の現代文の恩師、蓄音機大好き三浦武先生とも長い交流があること、…と、もう語りたい要素しかない。
 
 私がふらっと初見で入って来たうえに、蓄音機と聞いてまず三浦先生の名前を出したので、店主は「ただものじゃない」と笑っていた。大学で哲学を勉強することになったのも、美術の仕事に興味を持ったのも、今日もこうして文章を書いていることも、すべての始まりはおそらく三浦先生のあの現代文の授業のせい(そういう人は本当にたくさんいる)。最近は大人向けの講義もいろいろとされているらしく、14年ぶりに授業を受けられる日も近いかも。

 昨今の、自分の好みのものに対する嗅覚の鋭さは我ながらちょっと驚くぐらいなのだけれど、実はいままでも嗅ぎ当ててはいたのかもと思い至る。嗅ぎ取ったことに対して、素直に受け取って行動できるようになった、という部分が重要な変化なのかもしれない。


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