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お願いだから「充実した大学生活」を過ごしてよぉ【1/2】

とある私立大学に正規職員として勤めている男がいる。
今年で16年目になる。

男は現在就職課に配属されている。
この大学はボーダーフリー、
いわゆるFラン大学と呼ばれるような偏差値帯に属している。

この就職課に与えられたミッションはたった一つ。
卒業後就職率をとにかく上げること。

そのために、どこにも就職できなかった卒業間際の学生に対して、
私は就職を希望しません。」と書かれた紙にサインをもらったり、
学生の希望を考慮せずに、地元の中小企業の推薦をかなり強引に勧めたりしている。

間違っていると思っている。
男はたしかに、自分のやっていることが世の中から見て、間違っていると理解している。

でもやるしかない。
とにかく就職率をあげることが仕事なのだ。

そもそもここの学生が、一般的な大卒の水準に達していない。
だから一般的な大卒を欲しがる新卒就活で、
ことごとく失敗するのは当たり前だ。

俺がやれることなんてこれくらいしかない。
推薦を勧めるのだって、ニートになるよりましだろ。

男はそんな風に自分を納得させながら、今日も業務に取り組んでいた。

なんでウチの学生はそもそも四年生の夏から就活を始めるんだ?
せめて三年の三月位から始めてほしい。

というか就活を始める時期はもちろんなんだけど、
そもそも学生時代になんにもやらないんだよなあ。

なんかないのかなあ?
別にサークルの飲み会でも、バンド活動でもなんでもいいのに・・・

せめて「大学生活振り返ってなにに一番時間使ってた?」って聞いたらなんかは返してほしいよ。

「なにもしてません」って・・・
なんど言われたか・・・
それもう詰んでるみたいなもんだけどな。

なんで散々言われてることなのに、なにか用意しないんだろう。
就職以外に道を模索しているのか?
病的に怠惰なのか?
それともほんとに知らないのか?

男はもう100回は考えたであろうことをまた頭に巡らせながら、
学生の対応をしていた。

一応この大学の就職課にも、本来の就職課らしい業務はある。
履歴書添削や模擬面接をはじめ、
就職にまつわる相談事であれば基本的に時間を作って面談をする。

男は今まさに、就職の相談を受けていた。



「ぼく、学生時代に、特に、何もやってなくって」

「なるほど。別に『これ!』といった成果が求められるんじゃないんです。受けに来た学生の人物像を知ろうとしているだけなので。」

嘘をついた。
だってそんなわけない。

企業側はある程度の成果をやっぱり求めてるし、実際に成果を出している学生なんて大勢いる。
君が合格をもらえるとしたら、このままだと人をあまり選べない企業だけじゃないか?

「あ、そうなん、ですね」

「はい。まずはそれを念頭に置いていただいて、今まで大学生活で一番時間を費やしたことってなんですか?」

「あ、え、え、とゲーム。ゲームです。FPSっていうんですけど、知ってますか?」

「あ、なるほどゲームですか。具体的にゲームをする中でなにを頑張りましたか?」

ううっわ。
最悪だ。

嫌な予感が的中した。
いやでも、もしかしたら・・・?


後編へ続く


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