令和4年司法試験租税法の問題解説(答案例付き)



1 第1問

(1) 問題

 平成20年1月1日、A及びAの長男Bは、隣接する同様の二筆の土地(更地である甲土地及び乙土地)を代金合計3000万円で(Aが甲土地を1500万円で、Bが乙土地を1500万円で)購入した。A及びBは、甲土地及び乙土地を更地のまま月極駐車場として賃貸していた。
 平成22年1月1日、Aが死亡した。Aの相続人はBと次男Cのみであった。Aからの相続財産でめぼしいものは甲土地のみであった。BとCは、相続を単純承認し、遺産分割協議を行った。平成22年4月1日、Bが甲土地を単独で取得し、BがCに対して代償金900万円(当時の甲土地の時価相当額の半分)を支払う旨の遺産分割協議が成立した。遺産の額が基礎控除額以下であったため、Aからの相続について相続税の納税義務は発生しなかった。Bは、代償金900万円のほか、相続登記費用として16万円を支払い、同日、甲土地の相続登記手続を完了した。
 Bは、平成23年1月1日、税理士であるDと法律婚をし、生計を一にして暮らしていた。Dは、自らが営む税理士事務所のために使用している複数の自動車の駐車場を探していたが、甲土地がD
にとって好都合であったので、甲土地を借りたいとBに申し込んだ。Bは、平成23年末までに甲土地の利用者との契約を終了させ、平成24年1月1日から、Dに甲土地を適正賃料で賃貸した。
 Bは、会社勤めのサラリーマンとして働く傍ら、甲土地及び乙土地を駐車場として賃貸し、その賃料を得ていたが、Bの大学時代からの友人Eから、土地売買の相談を受けた。Eは、小売業を営む株式会社F(以下「F社」という。)の代表取締役である。Eは、甲土地をF社の店舗用地としたいと考えた。Bは、親しくしていたEからの依頼を断ることもできず、平成28年4月30日にDとの甲土地賃貸借契約を終了させ、同年5月1日、甲土地をF社に当時の時価相当額である2000万円で売却した。
 F社は、平成28年6月1日、金融機関G(以下「G社」という。)から3000万円を借り入れ、甲土地上に店舗を新築した。
 Bは、平成29年3月31日、それまで勤務してきた会社を退職し、同年4月1日、F社の取締役に就任した。
 F社の経営状態は次第に悪化した。Bは、Eから懇願されて、平成30年4月1日、G社とは別の貸金業者H(以下「H社」という。)からの借入金1000万円の連帯保証人となった。その後、
F社はH社からの借入金の返済が困難になったため、Bは、令和2年4月1日、乙土地を当時の時価相当額である2600万円で第三者に売却した上、その売却代金のうち1000万円をもって連帯保証債務を履行し、H社からの借入金の残債務1000万円を全額弁済した。Bは、F社に対して1000万円を求償することも検討したが、当時、F社は債務超過の状態にあり、求償債務の弁済が不可能であったため、求償権の行使を断念した。
 以上の事案について、以下の設問に答えなさい。ただし、租税特別措置法の適用は考えなくてよい。

〔設問〕
1 Bが納付した甲土地及び乙土地に係る平成24年度の固定資産税の所得税法上の扱いについて説明しなさい。
2 平成28年分のBの甲土地に係る譲渡益の計算に関し、代償金の取得費算入の可否について争いがあり、民法第909条本文に沿った法律構成で計算する説(以下「P説」という。)と、P説に反対する説(以下「Q説」という。)がある。なお、設問2では判例がP説かQ説かについては説明しなくてよい。
⑴ P説を前提として、平成28年分のBの甲土地に係る譲渡益がどのように計算されるか、また、どのようにBの課税総所得金額に算入されるか、説明しなさい。
⑵ Q説を前提として、平成28年分のBの甲土地に係る譲渡益がどのように計算されるか、また、どのようにBの課税総所得金額に算入されるか、説明しなさい。
⑶ P説とQ説とで場合分けした上で、平成22年にCに甲土地に係る譲渡益が生じるか、生じるならば幾らか、説明しなさい。なお、⑴⑵と異なり、仮に譲渡益が生じるとしても、どのようにCの課税総所得金額に算入されるかについては説明しなくてよい。
3 令和2年分のBの乙土地に係る譲渡益がどのようにBの課税総所得金額に算入されるか、その根拠規定の趣旨及び適用関係を、説明しなさい。

(2) 答案例を作成してみての感想

 同一居住者が所得を生ずべき業務に従事した場合の必要経費の取扱い、相続時の取得費の引継ぎ、譲渡所得における資産の取得費の範囲、譲渡所得の計算方法、求償権放棄の取扱いという所得税法における典型論点のオンパレードという第1問。
 ここ数年の傾向であるが、租税法の小問数は4~5問がデフォルトになってきているため、どの設問も簡潔に解答をまとめる必要があるが、設問2の小問(1)についてはその後の(2)(3)の前提となる以上、1ページ強は割かないと得点に結びつかないと思われる。逆に、設問1と設問3は1ページ弱に収めないと設問2に皺寄せがいくことになる。
 また、設問の誘導には素直に従う必要がある。設問2(1)で判例がP説であることに触れる必要は無く(知っている受験生はほぼいないだろうが)、反対に設問3では所得税法64条2項の趣旨について簡潔に言及しなければならない。

(3) 問題の解説


(設問1)
固定資産税は租税(地方税)であり、租税が必要経費に含まれるのか疑問に思う受験生もいるであろうが、租税の中にも必要経費になるものとならないものがある。なるもので司法試験の出題に関係しそうなものとしては、
・賃貸物件として使用する土地や建物について負担する固定資産税
・個人事業者が負担する個人事業税
が挙げられる。
両者はいずれも事業に関連し、かつ事業遂行のためには支出が必要不可欠であるため、必要経費の要件(所得税法(以下「所法」と略記)37条1項)に該当する。

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