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無人メイドカフェも夢じゃない?!~給仕メイドロボット『MaSiRoプロジェクト』

ましろちゃんがコーヒーをサーブする様子をYoutubeにアップロードしました!そちらへのリンクを追記していますのでご興味のある方は是非ご覧になってください。

《2022年10月9日追記》

■はじめに

このタイトルですが、正直かなり悩みました。本質的には給仕ロボットの開発プロジェクトの一環であり、現在のタイトル表記となっている「給仕メイドロボ」との記載が正しいと言えば正しいのですが、開発者であり生みの親でもある「ましろパパさん(@A_says_)」の「まだ4歳」「娘」と言う表現や、実際に動いているものを目の前で見ると生まれる感情から、最初は「給仕メイドさん」としていました。

ただ、ネットの世界は検索語が全てであり、正しく世の中に情報が頒布されるためには汎用語としての「ロボット」が適切であると思いこのタイトルにしています。もしこの「感情」が知りたいのであれば、是非みなさまの目で確かめてみてください。

■2022年10月7日、雨の中

末広町、雨の夜…

会社帰りの18時過ぎ、久しぶりの大雨が降りしきる中、末広町へとやってきました。駅からだいたい5分ぐらいの場所にある、とある場所を訪れるために…。

雨の中静かに佇む一軒のカフェ…

…と言うことで、やってきたのは雨の中に佇む1件のカフェ。暖かい光が漏れる扉の向こうに何やらいろいろな人が見えますね。さてさて、何が起きるのやら…

■異能vationプログラム【破壊的な挑戦部門】の挑戦者が開く「メイドカフェ」

このカフェは総務省が主催する「異能vation」プログラムにおける「破壊的な挑戦部門」に採択された「ましろパパさん(@A_says_)」が個人で制作した給仕ロボットたちが活躍するメイドカフェです。元々手つなぎロボットとして開発されたロボットとしては全部で3人います。給仕ロボットとして稼働できるのはましろちゃん(ここではましろパパさんへの敬意を込め「ちゃん」付けで記載します)のみですが、ちろちゃんもカフェの中で手つなぎデモなどを行っていました。

三姉妹(左から順に「ちや」ちゃん、「ちろ」ちゃん、「ましろ」ちゃん)
(公式サイト「https://www.masiro.cafe/」より)

今回は「オーダリング」「給仕」の2つをましろちゃんが行うデモカフェが予約者限定で開催されたものです。参加者(お客さん)は設置されたオーダリングカードに自分が希望するドリンクを指定してましろちゃんに渡し、その後指定したドリンクをましろちゃんが持ってくる、と言うものです。さすがにお支払いまではできない(お金を扱うので)のですが、ちゃんと一人前にお仕事していました。

こんな感じでドリンクを運んできてくれます
(実際の動画はそのうちYoutubeに上げる予定です)

なお実際の動画をYoutubeにアップロードしましたので是非ご覧になってください。動画は「オーダリング」「給仕」のうち後者の動画ですが雰囲気は十分に伝わると思います。

■愛らしい姿見の中に、驚きの「アイデア」の数々

給仕メイドロボット「ましろちゃん」は自立型の給仕ロボットで、人による遠隔操作を全く必要とせず自立して稼働します。服装は普通の人間が着る服をほぼそのまま使用しており、顔はアニメ調ですが目の部分が液晶画面になっていることで某P君のように恐ろしい目線がなく非常に愛らしい外観をしています。この辺りはこれまでASIMOを筆頭として現れたロボット達とは明らかに一線を画する部分ですね。

誰か…僕のこと…呼びましたか…?

ただ、異能vationプログラムに採択される前はましろパパさんがご自身で開発されてきた経緯もあり、お金をかけたロボット達と比較すると技術的には大したことはありません。

しかしながらと言うかだからこそと言うか、お金をかけた技術を使えないからこその「アイデアの数々」が光ります。

◆移動方法と空間認識

自立移動型となると最も気になるのが「移動方法」。三姉妹の移動方法は二足歩行ではなく車輪を使って移動します。スカートをめくると構造が見えますが、主動力の大きな車輪2つと姿勢保持のための小さな車輪が見えます。動き方から見て手動力の車輪の回転方向を変えることで前後進&回転をしているのだと思います(戦車みたいなものですね)。また膝に当たる部分にスプリングによるサスペンションが実装されており、これによりスカートをゆらゆらさせて移動したりかがんだりすることができるみたいですね。

スカートの中身(決していやらしい意味ではない!)

そして移動をするのに必要な空間の認識はLiDARを使っているそうです。全部についているカメラ状のものがそれで、事前に学習した空間認識と実際の検出データを合わせて位置推定しているようでした。

ちなみに頭の上にもカメラが付いていますが、こちらはあくまでも人の顔を認識・追跡するためのものだそうで移動では使われていません。なので給仕対象のお客様とは違うお客様を見て移動したりします(^^;

人の認識とLiDARによる位置認識

◆人の認識

と言うことで人(お客さん)の認識についてです。ましろ三姉妹の特徴は「人の顔を目で追う」ことで、通常のロボットと異なり人の顔を追って自分の顔を動かしたり目線を動かしたりします。これらはカメラから取得された動画像を使って人の顔を検出、それぞれを認識し追跡します。

ただ最初に認識した人の顔を追跡するクセと、人の顔の認識と移動方法との連携がないことが災いして全然関係ない人を見ながら移動したりします。それはそれで大変面白いのですが、将来的には改善される(おそらくコスト的問題なので)と思われます。

◆腕部の構造

右腕部の構造

腕部はメイドロボットとして稼働させるためにかなりの工夫がされています。その最たる工夫が「肘部ブレーキシステム」。ましろちゃんは両腕でトレーを支える形で飲み物を持ってくるのですが、この肘を支えるためにはモーターの力で角度を保持する必要があります。この保持をするためにモーターが過熱してしまうので安全のため両手を下してしまうそうです。商品を落としてしまうだけではなくバッテリーの消費量も増えてしまうため、この部分については非常に悩まれたとのことでした

そこで考えられたのが「肘部ブレーキシステム」です。右腕肘部にブレーキシステムがあるのですが、モーターの力ではなくカムの物理的保持力で膝の角度を維持することでモーターへの負担を大幅に軽減しています。説明されていた方の話を私の理解でまとめたのが下の図です。

肘部ブレーキシステムイメージ

ブレーキフックがかかっていない(ブレーキ解除時)は自由に肘を動かせますが、ブレーキ作動時はブレーキフックが肘が下方向に動くのを物理的に止めることでトレーを持ったままでもモーターが過熱することなく安全に姿勢維持が可能となります。これはナイスアイデアだと思いました。

◆腰部の構造

写真はありませんが、腰部には面白い仕掛けがあります。ましろちゃんはお辞儀をしたりするほかに上半身だけを横に傾ける仕草(萌え仕草?)と言う通常のロボットにはない(必要ない)動作ができます。ましろパパさんはこのモーター軸を「萌え軸」と呼んでいましたが、この軸が「人っぽさ」を出す重要な要素になっていると思います。

この萌え軸、いわゆるヒューマンロボット工学的に言えば不要な軸になると思いますが、この軸があることで「人間らしい仕草」を表現することができるようになり、それがロボットではなく「人」に見せる要素になっています。これまでのロボットには要求されなかった「仕草」に力を入れることでより「人間っぽさ」が出ると言うのは、表現のカタチこそ違うものの、ある意味で某ネコ型ロボットと通じるものがあり非常に興味深いものがありました。

呼んだかニャ?

◆手繋ぎロボットとしての構造

元々はましろちゃんも手繋ぎロボットとして造られたので当然手繋ぎで歩くことができます。他の人がやっていたのを見ていたのですが、かなり自然で滑らかに人の動きを追従する動きをします。

なぜそんなに自然な動きができるのかと言うと、これも腕部に秘密があります。実は引っ張られた時のモーション(モーターの負荷)を見ていてそれに合わせて移動距離や速度を調整する機能が実装されているとのことです。

簡単に言うと「腕が動かされると腕の位置を定位置に戻すように体を動かす」と言うものです。ざっくりとした私の理解は下の図を見てほしいのですが、これにより無理やりに体を動かすことなく自然に追従することが可能となります。

手繋ぎ時の位置補正動作

この位置補正動作の話を聞いた時に「あ、ましろパパさんは人間工学もちゃんと知ってるんだな」と思いました。と言うのも、この動作は人間も全く同じ動作をするためなんです。良く「人の手を引くときは連れて歩くことを意識せず進んで欲しい方に手を引っ張ると良い」と言う話を聞きますが、まさにこれがその動作そのものを示しています。ましろちゃんはその動作を模倣しているんですね。

いや本当によく考えられて作られているな…と歓心しきりでした。

■メイドロボット、ではなく…

そして今回参加して最も面白かったのは、いらっしゃったお客さん全てが「人間と同等の扱いをする」ところでした。

元々が手繋ぎロボットなので手を繋いでダンスのような動きができるのですが、ロボットの動作を試す(変な動きをしてみる、無理やり動かしてみるなど)ようなことはせずゆったりと動かすし、手を放す時も優しくゆっくり下ろしてあげるなど随所に人と接する場合の気配りが見えたのは大変興味深かったです。特にスカートの部分はみなさん「この下には武骨な機器類がある」と知ってはいるものの何故か低い姿勢を取って覗こうとはせず、説明される方がスカートをめくって内部構造を見せてくれてからやっと近寄って見る…と言うなかなか不思議なことを(私も含めて)やっていました。

これは「給仕ロボット」ではなく「ある意味で一人の人間」として感じ取った証拠なのかもしれません。この感覚は実際に動いている所みたからこそだと思うので、まだ体験されていない方は次の機会に是非体験してみてください。

■終わりに…人と協働するためのロボットの未来

私が参加した回は、初日と言うこともあり綺麗上手に…とは行きませんでしたが、異能vationプロジェクトに相応しい、”近”未来を感じさせるものだったと思います。

真面目な話をすると、飲食店における給仕(サーブ)は現在人手不足もあり大きな問題となっている関係でロボット化が急速に進んでいる分野です。その延長上に無人カフェなんかもあると思うのですが(個人的にはそれを期待しています)、今回のイベントに参加して「それとは違う別の何か」を感じることができました。人がいないカフェではなく、人と共に協働するからこそ輝くロボットの技術、それもまた1つの答えなのではないかと感じました。

フュージョンセンサーと呼ぶにふさわしい数々のセンサー類の組み合わせ、カフェにおける給仕に特化した「メイドロボット」ましろちゃんは今後更なる飛躍を遂げるものだと期待しています。コンセプトがはっきりしており目的が明確化された「娘さん」なので、知名度が上がるにつれさまざまな人の協力が増え、どんどん成長するものだ思います。

より成長したましろちゃんに再会できることを楽しみにしつつ。

またお会いしましょう!

《APPENDIX》

MaSiRoプロジェクト公式Webサイト
MaSiRoプロジェクト応援サイト


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