4歳の息子と4歳のわたし
お風呂場とわたしの父母の寝室は隣り合っている。
脱衣所には2つ扉があり、ひとつは廊下、ひとつは父母の寝室へとつながる。
犬が亡くなってから1ヶ月と少し、息子が父母の寝室へ行くことが増えた。
これまでは少しも寄りつこうとしなかったのに、この頃はお風呂に入る前や、髪を乾かした後、父母の寝室へ行き、主には母の布団に入って一緒にテレビを見ている。
ある日息子がご機嫌で、蜘蛛を紙に書いて切ったものを胸のところに貼り付け、みかんネットを切り裂いて顔に貼り付け、スパイダーマンになり切っていた。
その勢いのまま父母の部屋へ行き、大暴れしていたのだけど、この頃は怒りんぼうの父もすっかり鳴りを潜めていたので、特に気にするでもなく、お風呂入るよー!こっちおいでー!とだけ声をかけて湯船に浸かっていた。
そうしていたら数分で息子がお風呂に入ってくるのがいつものことなのだけど、その日は違った。
「チーン!チーン!」(仏壇の鐘(リン、というらしい)の音)
が鳴り響くと、
「鳴らすな!!!!!」と父の怒鳴り散らす声が聞こえてきた。
わたしの父は怒り方がヘタだ。
それは、ご先祖さまやお星様になってしまった犬に手を合わせる前に使う大切なものだから、楽器じゃないんだよ。これで遊ぶのはやめてね。
そう伝えれば、息子には伝わるのに、反射的にカッとなって怒鳴りつけるところがある。
この父の怒鳴り散らす声はわたしも子どもの頃よく聞いたもので、本当に恐ろしく、ただ謝ったり泣いたり逃げたりしてその場をやり過ごした。
父の悪いところは、そのあともずっとその不機嫌が持続するところで、父が普段の様子に戻るまでわたしはひたすら距離を置いていた。
対して息子はと言うと、わたしが必死に息子を呼ぶと、そっとお風呂にきて
「じいじのこと怒ってきてくれない?!」と言ってブチギレていた。
面白い。
そこで落ち着いて、なんであの鐘をおもちゃのように鳴らしてはダメなのか、を伝え、だからじいじは怒ったんだよ、と言うと、
うんうん、と聞きながら
「でもあんな怒ったのはじいじがいけない。じいじに怒ってきて!!」
の一点張りだった。
それなら、息子くんもじいじに謝らないといけないよね、と言うと、
「じいじには謝らなくていい。⚪︎⚪︎くん(亡くなった犬)には謝る。でも別にじいじに悪いことしてない」
と言っていて、軽い感動を覚えた。
そしてその時、まぁ別に犬もご先祖様も全く怒っていないだろうな、とは思いつつ、父に仏壇の鐘で遊んで殴られたことのあるわたし(当時4歳)は、息子は大丈夫だな、と思えた。
わたしはただ怯えて、謝って、泣いて、怖かった、で終わってしまって、もう仏壇によりつくこともしなくて、仏壇は怖い場所、になってしまったけど、息子はなんで自分が怒られて、何がいけなかったかを理解した上で、ああいう怒り方(怒鳴りつける)はしてはいけないということを言えていて、えらいなぁ、すごいなぁ、と思ったのだった。
髪を乾かす間も、ずっとじいじに怒ってきて!と言うので、
「鐘であそんでごめんねって言ってた」と伝えに行き、
息子には
「じいじ謝ってたよ。」
と嘘をつく姑息な手を使ったのだけど、
双方満足そうだったのでよしとする。
その話を母にすると笑いながら
「まぁどう考えてもじいじが悪いわ。(息子くんより)65年も長く生きとるのに。」と言っていて、ふたりで笑った。
子育てしていると、たまに小さな頃の自分が浄化される。
息子が、あの頃の私に、きみは悪くないよ、僕が守ってあげる!と言ってくれる瞬間がある。
本人はそんな気持ちは全くないのだけど、面白いなぁと思う。
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