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見落としているかも。フィッシュマンズの制作メンバーが参加した名盤について (前編)

こんにちは。今回はフィッシュマンズの楽曲制作に携わった方々が参加した名盤をご紹介します。

平凡なリストにならない為に

①フィッシュマンズ好きに響くものであること
②ある程度知名度が高い作品は省くこと

という縛りを設けました。独自基準による選盤ですので、ご期待に添えなかった場合は申し訳ありません。また、紹介の文量はオススメ度により増減しているのでご容赦下さい。

では、どうぞ。

1.MariMari『耳と目そしてエコー』(1997)

参加: 佐藤伸治 (guitar, backing vocal, arrangement, mix, produce, recording他)、茂木欣一(drums)、柏原譲(bass, arrangement)、HONZI (violin), ZAK (mix,  recording)、MariMari (writer, vocal, piano)など

※( )内はアルバム内での担当を表しています。

『耳と目そしてエコー』

最近は中古も値上がりしてきた(昔はワンコインでした)上、ここ数年でRateYourMusicにもページが出来て認知度が高まってきた感がありますが、まだ有名でないと看做してご紹介するのがMariMari『耳と目そしてエコー』(1997)です(その代わり出来るだけ色々な情報を盛り込んで紹介します)。

本作は、フィッシュマンズの外伝的な作品といっても過言ではありません。

全8曲中1,3,4,5,7曲目の楽曲で佐藤がほぼ全ての演奏を行っていますし、茂木・柏原やHONZI、ZAKといったフィッシュマンズの主要メンバーも参加しています(クレジットに載っているその他の面子もフィッシュマンズに関連している人が多いです)。

ライブでもがっつり後ろでフィッシュマンズが演奏しています。

※↑はMariMariのメジャーデビューシングル『Everyday, Under the Blue Blue Sky』の収録曲、「Day in, Day out」のライブ映像(1998)。楽しそうです。

まず、MariMariとはどんな人物か。というと、フィッシュマンズと関連付けて説明するなら"「いかれたBaby」の歌詞の元になったとも言われる、佐藤のパートナー的存在"になるかと思います。出会ってから佐藤が亡くなるまで仲睦まじかったそうです。

おそらく作詞のインスピレーションにも貢献しており、フィッシュマンズの歌詞に与えた影響は計り知れません『Long Season』にもbacking vocalで参加しています

佐藤とMariMariの出会いは1992年夏~秋。『KING MASTER GEORGE』が完成した頃だと言われています。アーティスト写真を撮るためにMariMariの飼い犬を借りた際、交流が始まりました。

そのまま良好な関係は続き、(その前も佐藤の手伝った楽曲がコンピに載る事はあったそうですが)1994年『米国音楽』付録オムニバスに、MariMariが歌うStrawberry Switchbladeふたりのイエスタデイ」(名曲ですね) の日本語カバーを載せることになった事から音楽活動が本格化し始めます

許諾無くフィッシュマンズの名義を使うと契約面で不都合があるので、フィッシュマンズのメンバーは、例えば佐藤なら「イヒダリ・フジ」(佐藤 → イ 左 藤 という発想らしい)といったように偽名を考えた上で覆面的なバンドMariMari rhythmkiller machinegun」(この名義は後々も使用します)として、この収録に参加しました。完成した曲は付録オムニバスに収録された中でも評判が良く、1996年にカーディナル・レコーズからシングルでリリースされています。

以降、1996年3月にシングル『Everyday, Under the Blue Blue Sky』でメジャーデビュー。同年12月にシングル『Indian Summer』をリリースした後翌1997年11月にリリースしたアルバムが本作です※。

※世田谷三部作の時期を考えるとかなり被っています。

このアルバムのお勧めしたいポイントは、音と構成の妙です。例として一曲、デビューシングルにもなった収録曲「Everyday, Under the Blue Blue Sky」を聴いてみて下さい。アレンジは柏原が担当しています

※単体の音源が無かったので、シングル↓の動画(0:00~7:49まで)を視聴して下さい。

静かな湖面を思わせる(スカパラで知られる)沖のキーボードで立ち上がり木暮のギターが差し込まれ場が整ったところにHONZIのバイオリンが寄り添うように乗る1:55までのこの流れでもう堪りません

そのまま音に身を委ねているとトドメを差してくるのが”これぞHONZI"な5:42頃からのバイオリンソロです。その凄まじい解放感はシングルにもなったライブ版Weather Report("WALKING IN THE 奥田イズム"ツアー最終日,新宿リキッドルームでのライブ。1997年12月12日)後半部の演奏を彷彿とさせる出来になっています。

このように構成と空気感、音の配置や質感などいずれの要素もハイレベルに纏まっていて、一聴の価値有りといえるアルバムが本作です。MariMariのボーカルについても当時流行っていたウィスパーボイス系の典型に近いですが、そこまで悪くはありません。少しネックなのは歌詞でしょうか。

フィッシュマンズは、(佐藤が下ネタを嫌悪しているためか)歌詞に性的な匂いが少ないのはご存知だと思います。一方でMariMariの歌詞は結構暗示しがちで、例えば「Everyday, Under the Blue Blue Sky」では「私の体のオブラートなめて溶かしてもらったら…」という歌詞があったりします。

また、アルバム全体を通して歌詞から持つ印象は「多感な少女の恋心を等身大な筆致で描いた」というものが主です。私小説的といっていいかもしれません。収録曲の1つ「Indian Summer」は曲調も歌詞の表現も秀逸な名曲ですが、佐藤が風邪を引いてばかりだった事などを念頭に置いて歌詞を読むと生々しかったりします。この点でもフィッシュマンズのような、シンプルかつ深みのある歌詞が好きな人には賛否両論だと思います

聴き方のアドバイスとしてはFLAC(ALAC)以上の音質で取り込んだ方が良いです例えば収録曲のIN THE FLASHでノイズが使われている箇所は耳障りに聴こえがちですがこれで分離や音の配置がハッキリして大分意図が分かる様になるかと思います

CDの入手が難しい方は、レコチョクで販売しているので是非そちらで購入されては如何でしょうか。

2.LaB LIFe『食卓の花』(1997)

参加: ハカセ (keyboards)

『食卓の花』

フィッシュマンズフォロワーと呼ばれるバンドの音楽を思い浮かべてください…と言うと、大体の人が『Neo Yankees' Holiday』(1993) 的なものを想像すると思います。

後期は独特すぎて真似しづらいというのもありますが、それでも意外な程『ORANGE』(1994)のような路線のバンドがおらず、「もっとこういうのが聴きたいのに…」と欲求不満に悩む『ORANGE』好きも少なくないはず。そんな方々に紹介したいのが、LaB LIFeのミニアルバム『食卓の花』(1997)です

本作では全5曲中3曲でハカセのキーボードが楽しめます。1997年11月発表ということで、ハカセはフィッシュマンズ脱退(1995年9月)から2年程度しか経っていません。早速ですが表題曲「食卓の花」を聴いてみてください。

※単体で上がっている良音質の音源が無かったので、アルバムの動画↓(0:00~5:23まで)を視聴して下さい。

お聴きいただいた通り、楽曲から醸し出される『ORANGE』感は中々のものです。特にハカセのキーボードを聴くと、彼がいかに『ORANGE』のサウンド面に貢献していたか思い知らされます (大舘が演奏するベースも少し柏原リスペクトを感じます)。

ユニットの説明からしますと、LaB LIFeは大谷友介大舘健一で構成されています(他はサポートミュージシャンで補っていて、ハカセは参加率高め)。大谷は、後に柏原とPolarisを結成する人物として聴き覚えがある方も多いかと思います。

『ORANGE』的なサウンドからテクノポップまで揺れ動く微妙な楽曲の振れ幅の広さが特徴で、その捉え所の無さがセールスに結び付かずそのまま解散になってしまったのでは…と悲しき背景を想像させたりもします(2000年に解散済)。が、楽曲それ自体のクオリティは軒並み高く、アルバム・シングル全て聴く価値がある良いユニットです。代表曲はおそらく「ステレオ」 。彼らの良さが凝縮された名曲です。

音楽性だけでなく、歌詞にも魅力は潜んでいます。大谷の書く歌詞は佐藤の詩世界にやや似ているものの、あそこまで達観していません。

より一般人に近い視点から日々感じているボンヤリした感覚を巧みに手繰り寄せ、優しく提示するのが大谷の歌詞です。程よく気付きがあって、押し付けがましくもないので好感が持てます。

顕著なのが代表曲「ステレオ」です。この曲には「悲しいのは今日まで 楽しいのは今日から」と繰り返し歌われる印象的な歌詞があります。ここの箇所は一見「さっきまで"明日はきっと良い日になる"と幸せになることを先延ばしにしてしまっていたのに、ふとした瞬間に"今日こそ良い日になるはずだ"と調子良く考えてしまう」という日常的な感情のアップ&ダウンをシンプルに表現しているだけのようにみえます。

しかし、歌詞全体を俯瞰して考え直すと「ものの見方はステレオのように在る位置で変わるから、日常の中で細かく考え方を変えるのも良いじゃないか」という前向きなメッセージや、「細かい気分の浮き沈みを繰り返す中で日々は着実に過ぎ去ってしまう」という生活の儚さが滲んでいることに気付きます。

これが大谷作詞の良いところです。Polarisでもこの魅力は変わりませんね。

さて、そんな「ステレオ」が収録されたアルバム『Planet Headphone』(1998)。こちらも非常に良い作品なんですが、なぜこちらを選盤していないのかというと『食卓の花』の方が先程言った『ORANGE』感からフィッシュマンズ好きに勧めやすい、というのと単純に纏まりが良いからです。

4曲目収録のユニット名を冠する楽曲「Love Life」は「IN THE FLIGHT」とメッセージ性が似ていて不思議な共時性があり(『食卓の花』と『宇宙 日本 世田谷』は同年発表)、ファンとしては興味深かったりもします。単に世紀末だからかも知れませんけどね。

ちなみに、僕が一番好きな曲は『Planet Headphone』収録の「Piano」です。

3.Audio Sports『Era Of Glitterring Gas』(1992)

参加: ZAK (recording engineer)、恩田晃 (programming)

『Era Of Glitterring Gas』

いつしか恩田晃によるプロジェクトと化してしまいましたが、初期はBoredomsで御馴染み山塚アイや、『ソングブック』(2001)などのソロ作品で知られる竹村延和、そしてZAKも在籍していた超豪華グループがAudio Sportsです(ZAKはソースが少ないものの一時期籍を置いていたらしいです)。

恩田晃と言えば、シングル『Go Go Round This World!』(1994)の3曲目「Go Go Round This World! (naked funk mix)」のプロデュースや4曲目「Future (remix)」のリミックスを担当した方※ですね。

※関連する面白エピソードとして、リミックスなのに歌を原曲とは別に録り直した…しかも歌録りは恩田宅の部屋にあるベッドの上に(何故か)佐藤が立って高らかに歌い、それをZAKや恩田らが取り囲んで録音するという謎手法で行われた…というものがあります。

特に「Go Go Round This World! (naked funk mix)」は1996年後半位から演奏される「Go Go Round This World! 」ライブバージョンの元になっており、中々重要。音源では『LONG SEASON '96~7 96.12.26 赤坂 BLITZ 』(2016)2曲目で演奏されるのはこのバージョンです。

現状聴けるこのバージョンで凄いもの、というとYouTubeでも再生回数が多い1997年5月31日のライブが有名ですけど、未だ2000回程度の再生ではあるものの1997年9月10日のライブバージョンが一番ぶっ飛んでると思います(Radio Fishmans Nightで流された音源ですね)。

話を『Era Of Glitterring Gas』に戻しますと、本作の目玉は山塚アイと初期TwiGyのラップの掛け合いを楽しめる、というところにあります※。

※勿論参加している面子が面子ですから、ジャズヒップホップとしてのトラックの素晴らしさにも大きな魅力があります。

本作にはTwiGyが2、5曲目で参加、ラップを披露しています。1992年リリースなので、TwiGyはMICROPHONE PAGERをやっているかいないか、という位の活動初期です。さんピンCAMP周りの黎明期日本語ヒップホップ好きには堪らないのでは(あのイベント自体にTwiGyは出ていませんが)。

↓は山塚アイからTwiGyの流れでラップが披露される楽曲「Eat & Buy & Eat」です。

トラックに魅力を感じた方はリミックスを収録したシングルもありますので、そちらもお勧めします。

※↑は動画の概要欄及びコメント欄でも詳しい説明がありませんが、シングル『Eat & Buy & Eat』の2曲目「Eat & Buy & Eat (Bad Taste Mix)」と3曲目「We've Got You (Sweetie Mix)」を繋げた動画です。特に3曲目「We've Got You (Sweetie Mix)」(3:51~)のトラックが本当に好きなので時間指定でリンクを貼りました。

4.Spiritual Vibes『Spiritual Vibes』(1993)

参加: ZAK (recording engineer) 、HONZI (violin ,melodica)

『Spiritual Vibes』

Spiritual Vibes竹村延和や、『どうぶつの森』に登場するキャラクター「とたけけ」のモデル(あとヨッシーの声優)として知られる戸高一生が在籍したバンドです。

このバンドにはハカセ脱退以降のフィッシュマンズに欠かせない存在であるZAKHONZIが参加しており、良い仕事振りを堪能できます。

1993年11月発表なので、既にZAKはフィッシュマンズと関わっている頃ですね(レコーディング期間が分からないため、仕事の時期が重複しているかは不明です)。

ジャンルは大枠で言えばアシッドジャズに分類できます。ただ、部分的に環境音を使っていたりと何処かリラックスした空気を備えているのが魅力です

竹村ソロでいうと発表時期もほぼ同じ『Child's View』(1994)に近い雰囲気もありつつそれとは少し異なるこの適度な「遊び」の感覚が差別化を可能にしています

同バンドであれば、ZAK・HONZI不在ながらもミニマル音楽等に手を出した意欲作『ことばのまえ』(1996)もお勧めです。歌詞が日本語(『tender blue』(1995)を境に英語詞から日本語詞に切り替えています)の上多様なジャンルが咀嚼されていて聴き易い一品に仕上がっています



以上、続きは後編でご紹介しようと思います。お読み下さりありがとうございました(モチベーションが上がるので、役立つ情報がありましたらスキ等押していただけると嬉しいです)。

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