見出し画像

【統計学】確率論を知ってさえいればテロに勝つことができる?

総合的な思考基盤を養うことをテーマに、読書した知識を引用・解説していくnote。

本稿では「賢く決めるリスク思考  (著:ゲルト・ギーゲレンツァー」より、統計知識におけるナレッジを紹介していく。

【読んでほしい人】
・直観物事を決めがちな人
・確率統計に苦手意識がある人

本稿の引用書籍

人間には多くの無意識のバイアスがある。対処法はその存在を理解しておくこと。それができていることで不適切な選択は避けられる。それではみていこう。



#1恐怖リスクという考え方


2020年、コロナという未曽有のウイルスにより世界的パンデミックが起きたわけだが、いつの時代も人々の心に恐怖というのは大ダメージを与える。

9.11で知られるアメリカで起きた同時多発テロのあと、アメリカ人の多くは飛行機に乗らなくなった。一方でテロ攻撃後の数か月間は車の走行距離が著しく増えていた。

なぜだろう?簡単だ。飛行機に対する恐怖感情が強くなったからだ。テロというのは心理的不安を煽り、行動を制限させてしまうことで計画通りに事を運ぶことを目的にしている。

まず物理的な力で攻撃し、それから被害者の脳の力を利用して2度目の攻撃にかかる。

すなわち「恐怖リスク」は、心理が無意識に従う原則を発動させる。

しかし冷静に考えればテロが発生し、また発生した時の航空機に乗り合わせる確率と自動車事故に遭遇する確率を比較すると断然後者の方が高い━━━なんてたって令和3年の交通事故は30万件を超える

ヒトの心理として、

強烈な印象をもつ、かつ、自分でコントロールできないリスクに対してはひと際強い恐怖感情をもつ

ようにできている。その方が生存率を高めるのに有効的だったからだ。

━━━強烈な印象というのは、1年を通して毎日3人死亡(365*3=1,095人)するよりも、年に1回1,000人が死亡する事象の方が危ないと結論づける。

たとえば、われわれの祖先の狩猟採集時代、狩り仲間がA区域でライオンに襲われて致命傷を受けたとする。

自分はA区域に近づかない方が賢明と考えるだろう。なぜならB区域やC区域に比べてA区域で襲われた実績があるということはライオンの縄張りの可能性が高く、自分も襲われるかもしれないからだ。

このリスクに対する心理的メカニズムは現代人においても共通する。だからテロが起きた→そこには近づかない→自動車を利用する

という安直なリスク回避の行動をとることになる。

腕を這うクモの姿に父親が恐怖の叫び声を上げるのを観察した子どもにとっては、その1回の経験だけで恐怖を学習するのに十分である。

でもわれわれは確率統計という便利な思考法を使って、その行動が本当にリスクが高いのか考えることができるではないか。


          ***


#2恐怖リスクへの対処


恐怖リスクに対する危惧の正体を理解すること、理性が通用しない場合には対立する感情を呼び起こして恐怖心をコントロールすること、そして飛行機に乗る場合の実際のリスクを知ることだ。

直観に流されてしまってはいけない。何万年前の先祖たちにとって有利だった心理メカニズムが現代においてもいつも有利とは限らない。

e-Statという政府統計のサイトでは毎年の交通事故・死者数の統計を出している。

ニュースでは毎日高齢者の逆走やブレーキとアクセルの踏み間違いによる衝突、小さな子供が亡くなる悲惨なトピックが大きくとりあげられるが、実は年々かなり死者数は減少している。

これが自動車の機能進歩によるものか、高齢者の免許返納によるものかは一考の余地があるが、

少なくとも日々ニュースを見ていて感じる「毎日毎日交通事故が起きて誰かが亡くなっている、状況は変わらない」という直観には程遠い。

もう一つ騙されがちな例をとりあげてみよう。

テクノロジーがかかわってくると、確実性の幻想は増幅される。

どういうことかというと、われわれは何かとんでもなく”凄そう”なものを何も調べずに凄いと認識してしまうのだ。

たとえば友達に職業適性のアドバイスをもらった時の納得感と、最先端かつ世界の権威が集まり20年かけて開発した職業適性解析システムが導き出したアドバイスのどちらがより正しそうに感じるだろうか。

20年もかけて作られてるんだから・・
科学的権威の結晶なんだから・・
きっと膨大なデータを解析して統計とってるんだから・・

理由は様々あれど、多くの人が後者の方が信ぴょう性があると回答するだろう。

でも、どのように適性が導かれているかロジックを理解せず妄信するのは危険だ。そんな時は幾つか本当に確かなのか見極めよう。

・どれくらいのデータ量を解析しているのか
・結果に基づいて職業を決めた場合上手くいった実績はあるのか
・そもそもどのようなデータにより適正を見極めているのか

━━━凄い機械なのだからきっと効果が高いだろう

という短絡的な思考ではなく統計として状況を理解することがリスクに騙されない強力な武器だ。


ちなみに余談だが、e-Statには以下のようなダッシュボードもあって面白いのでぜひみてみるといい。


#3確実性と不確実性


ここまで、恐怖リスクという概念について、その回避法について話してきたが、全事象がちゃんと答えを出せるわけではもちろんない。

計算された知性は既知のリスクに対しては役割を果たすかもしれないが、不確実性に直面した場合には直感が不可欠となる。

たとえば、不確実性の高いリスク━━━起業が失敗するかどうか、新卒でどの会社に入るのがベストか等━━━については数式をならべてみるよりも自分の人生経験を頼りにした方がいい場合もある。

計算して統計を出すことにこだわり過ぎると未知のリスクに対応できず立ち往生してしまい取り残されかねない。


過去に事例がある、ぐぐってみれば近似値が見つかる場合はしっかり確率を頼りにする一方で、どうにもわかりそうにない時はとりあえず決めてしまって、あとあと正解になるように行動してしまう方がいい。

地球の自転速度は変わらないのに、現代の概況は目まぐるしく変化しているからだ。直観と確率を上手く使い分けて生きるのが賢明ではなかろうか。

この世に確実と言えるものなど何もない、死と税金のほかには。

━━━ベンジャミン・フランクリン

━━━FIN

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?