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茨城県立自然博物館:地衣類 -木を、岩を、地面を彩る身近な生きもの-

わたしがコケや菌類、地衣類を観察するのが好きな理由は、確かに身近にあるのに意識しないと存在を認識できない生命だから。地衣類は都心でもちょっとした林があれば樹幹に丸くはりついていたり、壁に黄色い粉状でくっついてたりする。でも、暮らしていくうえで邪魔になったり役に立ったりしない。意識せずに共存しているものを見つけるのが楽しい。
一説によるとコケやキノコよりもはるかにファンが少ないという地衣類。もうすぐ会期終了ですが、自分との約束を果たすために茨城まで行ってきました。

普段は大きなカメラを持っていくのですが、この日は所用にて全てiPhone

いまちょうどみすず書房から出た『地衣類、ミニマルな抵抗』を読んでいるところです。

どちらかというと人文学を主たる人に向けて書かれており、文学と地衣類の関わりを元に(かなり強引な)暗喩が出てくる作品。正直ちょっと理解しづらいけれども、ヨーロッパにおける地衣類の受容がしっかりおさえられているので、歴史や文化の位置づけを知りたい人に薦められます(わたし以外にそんな人がいるのか?)。フランス文学のピエール・ガスカールが地衣類愛好家だったり、イタリア文学のイタロ・カルヴィーノのお母さんが著名な地衣類研究家だということが分かるだけでも読む価値あります。

一方、茨城県立自然博物館の方は初心者から専門家まで多くの人が楽しめることまちがいなし。会場では「地衣類かわいいかも」「こういうのけっこう好きだわ」という声が聞こえてきて、正直びっくり。
基本灰色で目立たなくて専門用語むずかしいし薬品かけないと正確な名前も分からない。そんな地衣類が見せ方によって発見され好感をもたれる瞬間に立ち会っているというのはかなり新鮮な悦びがあります。

乾燥したりレジンで固められた地衣類たち

だいたいこういう標本をきっちりじっくり見てるかどうかで地衣類への関心度が分かります。地衣類に興味がない人はこういうところで立ち止まらず、何人もの人がわたしを追い越していきました。地衣類の多くには○○ゴケという名前がついており、その中に本当の蘚苔類と微妙にかぶっているものも。
地衣類はテリハゴケ:コケはテリハラッコゴケ
地衣類はミョウギウロコゴケ:コケはウロコゴケ
和名、なんとかならなかったんでしょうか。コフキメダルチイのように語尾をチイにした方がよかったのでは?

一番好きな名前のナヨナヨサガリゴケ。ナヨナヨ。

展示は科学的な視点から、意外にも暮らしの中で地衣類が使われていることを発見していくフェーズへ。
香水にはオークモスと呼ばれるツノマタゴケ(ヨーロッパではメジャーだそう)が使われてきたそうですが、最近は自然破壊につながるということで自然香料はあまり使われないとも聞きました。
秩父や長野ではイワタケと呼ばれる地衣類が食用になっているとか。見たことないんですよねイワタケ。会場に展示されていたイワタケの寿司はすごく気になる! 魚や肉以外の寿司ってあまり見たことがない。

まあでも、東京には国立科学博物館や科学技術館があるからわざわざ茨城まで行かなくても、とちょっと侮っていたところがありました。
しかし、実際におりたってみると、空気がきれい。茨城県立自然博物館には庭になっている部分があり、土のおかげで空気に湿度が含まれて、マスクを外すと樹や土の香りが気持ちいい。東京だとちょっと休憩と思っても同じ館内にいるしかないけれど、一度外に出られるというのはかなりステキな要素だと思います。

硫黄の結晶。うつくしい!

特別展以外の常設展もすばらしくて。
多種多様の岩石と宝石! 高さ50cmくらいの大きな紫水晶は必見です。
茨城の自然にも重点をおいていて、各地の石で山の形をつくり、ここではこんな石がとれるというのが一目で分かるジオラマも見応えがあります。
あと、博物館といいながら魚や両生類なんかも飼育されていて、3時間でも回りきれないくらい。かつ館内が迷路のようで何度も道が分からなくなりました……。

空が広い

つくばエクスプレス守谷駅からバスで20分以上かかり、周りには正直何もないような場所ですが、正月明けだというのに家族連れを中心にかなり混雑していました。
2024年最初のうれしい驚きであふれた1日になりました。

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