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創作

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主に逆噴射プラクティス置き場
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記事一覧

アタック・オブ・リキシャーク

大きな背鰭が土俵面に現れた。 「出たぞ!!今だ!」 薄茶色の土俵越しに、リキシャークの髷や背が見える。 力士らは真剣な面持ちで網を放った。 「回り込め!そっち回り込め!ああっ……」 リキシャークは網を避け、水中……いや、地中深くへ潜っていった。 「行ったか?」 幕下が、円の中に足を踏み入れる。 土が吹き上がった。 「リキシャークだ!!」 幕下の悲鳴が響く。 (暗転、親方の部屋) 「あれは元の横綱じゃない」 「彼は彼よ。土俵の下から私を見る目は変わってない」 迫る本場所

ゆけ、荒野はまだ遠い

指輪は無い。 目指す塔も無く銃も無いおれには、それでも使命があった。 鞄、スーツ、革靴。左手には携帯端末。 アスファルトの上を歩いて何日経ったろう。 ギラギラと照りつける太陽。 真夏の梅田を思い出す。 「ちがう!」 俺は荒野を見たい。サボテンの影からトレホが飛び出してくる荒野! メキシコ!メキシコ! おれは叫んだ。 違う?いや……此処こそが、おれのメキシコか? この梅田が? ※ メキシコなら酒場でコロナだが、ここは大阪だ。茶髪の女性店員が冷コーを運んでくる。 思いの

処刑機械・上昇降下(サンソン・エレヴェーター)

エレベーターに挟まれて死ぬことは稀にある。 紐が挟まったまま動いて、とかね。 でも、この会社で流れる噂は少し違う。 ギロチンよろしく挟まれて、下はエントランス、上は役員エリア。 なんてこともあったとかないとか。 まあなんだ、都市ならぬ会社伝説。 平成一桁時代に生まれた私は、父親と同じ年の上司、瀧園にその話をされた。 3軒目の飲み屋で。 話がクドい以外は、ま、そこそこ良い上司。 別部署の齋藤遙が言うには、部長にチークダンス(今時)を強要されたとか。 さっきまではそうだったね。

鴨川等間隔ゾンビ 夏編

BLAM!!銃声に驚いてカモが逃げる。 「ヴァーー!!」 BLAM!!おれは引き金をもう一度引いた。 「ナイッショッ!」 農家めいた麦わら帽子を被った田島がサムズアップする。 対岸に等間隔にゾンビが並んでいる。カップルだ。 9月初旬の京都、三条〜四条大橋間の鴨川遊歩道。田島と俺は、ボランティアでゾンビ退治をしていた。 「この暑さなのに、いるなんてなあ、さすがカップルゾンビ」 6月。突如鴨川に現れたゾンビは、並ぶカップルを次々と襲った。カップルがゾンビとなり、またカップルを襲う

ゴールデン・ガーデン・ガーディアン

サイラスは小型ガトリングガンの熱が収まるのを待ち、頭を変形させた。 俺はそれを見て、ハイスピードカメラの映像を思い出した。花が咲くやつだ。 「怪我はありませんか」 「無いよ。あんたのおかげ」 「それは良かった。しかし、昨年より"時期"が早い」 時期。俺は空を見上げた。黄金色の葉をつけては落とす木々の枝。 サイラスはガトリングガンだった手でティーポットを拾い、鋼鉄の立方体でしかなかった顔を歪めた。 「それ、高いのかい」 「高い、という次元ではないですね。値はつけられない」 ヒュ