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トークゲームと野良マッチ

闇鍋人狼に野良マッチが無い話をします。リリース以来、様々なフィードバックをもらうんですが、中でも特に「一緒に遊ぶ人を探すのが大変」という意見が多く、同時に「野良マッチを実装してほしい」という要望を受けます。

たしかに、ボードゲームである以上人と遊ぶことを前提に設計されており、いくらCPUが代わりに入ってくれるとは言っても人と遊ぶ楽しさには及びません。また、同じジャンルのゲームで野良で参加できるオープンな部屋を建てられるタイトルはいくつもあります。

ただ、闇鍋人狼ではゲーム内で野良マッチを実現する手段を用意していません。今回はその理由と、代わりに何をしたかの話を通して「一つの機能を実装しない」という判断の前後にどんな議論があったかを紹介します。

野良マッチの問題点

技術的・法律的な話を除けば、主に2点あります。

  • チャットが荒れやすい

  • マナーの悪いプレイヤを防げない

一般的に見ず知らずの人との匿名コミュニケーションは揉め事が起きやすく、正体隠匿系ゲームだとその傾向がさらに顕著です。口撃し合うデザインなのである程度は仕方ないですね。

また、マナーの悪いプレイヤが部屋に入ってくる可能性があるのも問題です。わざと無茶苦茶なプレーをしたり、突然回線を落としてゲームをやめたりなどがあります。例えばAmongUsではインポスターが引けなかった時点でゲームを放棄して部屋から出る、といったプレイヤが存在します。

闇鍋人狼も他のゲームと同様にこれらの問題を持ち得ます。なるべく雰囲気が悪くならないよう工夫されているものの、嘘をつく・疑うといったプレイがある以上避けては通れません。人狼のように歴史あるゲームはプレイヤも理解ある人がいるでしょうが、リリースされたばかりのゲームだとそうはいきません。

また、闇鍋人狼がスマホ向けにアプリストアに無料公開されているというのもネガティブな要因です。基本無料で公開されているゲームである以上、まだネットリテラシーが十分ではない方もプレイヤの中には含まれます。

ゲームの面白さは一緒に遊んだ人次第

上記のような問題は既存のタイトルでもよくある話で、例えば不適切なユーザーを通報・ブロックできるようにしたりなど、対策も講じられています。そもそも、迷惑なユーザーは全体からしたらごく一部のはずなので、運悪くそんなユーザーとマッチした場合をレアケースと割り切って遊ぶ機会が増えることを優先するのは妥当な判断です。

例えばFF14ではめっちゃ細かいガイドラインが公開されていて、大変そうですが最も正攻法です

ただそれでも、闇鍋人狼では野良マッチを実装しません。それを理由にストアで低評価が付いたり、課金アイテムが活躍する場を無くすことで商業的にもマイナスになったり、なにより遊んでいる人からの要望がある、にも関わらずです。

身も蓋もない話をすれば、ゲーム体験は一緒に遊んだ人に依るところが大きいです。これは場合によってはゲーム内容より大きく、例えば仲の良い友達同士で遊んだクソゲーは、迷惑な人が1人いた神ゲーより面白いです。

初めてゲームを遊んだ人が野良マッチに参加して不快な思いをしたとき、「相手を通報すれば良い」というのは解決になっておらず、闇鍋人狼がやさしい正体隠匿系ゲームを目指している以上、これを許容することはできません。

代わりにやろうとした案

野良マッチを実装しないことは苦渋の決断ではあったんですが、代案もいくつか検討していました。

定型文とスタンプ

ゲームであらかじめ用意されたテキストのみ投稿できる機能です。例えばAmongUsではこんな感じになっています。

以前見たときよりかなりUIが進化していて、熱量が高いんだなと思います

ゲームで発生する会話はおおよそ決まっているはずなのでそれらを固定化し、プレイヤは用意された選択肢から選んで会話するという体験になります。スタンプにするとさらにグラフィカルで楽しそうですね。

素直な解法ではあるんですが、制限されたことに対して上がる体験の良さがコスパに合わないと思い断念しました。

正体隠匿系ゲームは論理パズルとトークアクションに分けて考えることができ、トークの楽しさは創意工夫できる自由度の高さにあると思います。

選択肢から選んでいるだけなのであればそれはパズルの延長にしかなりえなく、であればCPUが人間らしく振る舞えるよう精度を上げる方向で検討すべきなので、これをもって野良マッチを実現しようという判断にはなりませんでした。

紳士度マッチング

一般的に対戦ゲームのレートマッチでは、ゲームに勝つとレートが上がり負けると下がります。これを勝敗ではなく相互評価の結果に置き換える案です。例えばマッチ終了時に同卓の誰かをランダムに評価するフォームを表示します。

ゲーム終了時に匿名で相互評価するときの例

他にも「強引に意見を押し付けてきたか」や「全然喋ってくれなかったか」など様々な尺度で匿名評価されるようにして、その値を元にマッチングさせるようにします。便宜上これを紳士度とします。

紳士度が高い人は同様に他の高い人と遊べ、結果的に快適な卓でゲームできるようになります。ゲームのプレイ回数も考慮するようにすると、初めて遊ぶ人はなるべく紳士な人達とマッチできて卓の雰囲気をキャリーしてもらえる、なども実現できそうです。

対戦ゲームと同じように、レートに応じて称号を付与してあげるのも良いでしょう。他人との卓を楽しく過ごせた結果がプラチナランクやマスタークラスのように評価され、周りに自慢できる要素になると良いですね。実際、同卓した人達を楽しい雰囲気にさせるというのはボードゲーマーにとって何より重要な能力なので誇っていいと思います。

圧倒的な紳士度で一緒に遊ぶ人を次々とおもてなしていく人がいたのなら、それはもうプレデター紳士と呼べるでしょう

これは良い案だと思ったんですが、評価基準をどう設計するか?ということが困難でした。ゲームの勝敗というのは客観的に評価できるんですが、態度の良し悪しは難しいです。

例えば、真剣にゲームに勝つための強引なプレーやラフな振る舞いが他の人を不快にさせてしまったり、逆に良い評価を得るためわざと接待プレイをするなどの態度はどう評価すべきでしょうか。

真の紳士はゲームプレイに手を抜かない上で相手を快適にさせるものだと信じていますが、それを客観的なシステムに落とし込むのが困難でした。

なによりゲーム毎にウザい広告みたいなやつがポコっと出てくるのはちょっと嫌だなあと思い断念しました。

発言できる数をインゲームの要素にする

発言できる文字数に制限があって、それをゲーム内の要素で緩和していける案です。例えばゲーム中にこんな食材が拾えるイメージです。

いざ疑われたときのために、メチャシャベールを沢山集めておこう!

これも面白い案だと思ったんですが、他のゲーム内要素とバランスを取るのが困難でした。ゲーム内で1点取るのが発言数で何文字分の価値になるのか?店員陣営とスパイ陣営それぞれで価値は同じか?など調整が必要です。

そもそも、仮に発言数をとにかく増やすビルド、というものができてある程度自由に発言できるようになったとすると、大本の問題意識を解決できていないので、この案はボツにしました。

ゴーストマッチ

最終的に闇鍋人狼ではゴーストマッチを実装しました。これは、プレイヤがゲームを遊んだときの特徴量を数値化・共有し、それを元に振る舞うCPUと遊ぶゲームモードです。レースゲームなどで使われる用語からゴーストと名付けました。

中身はCPUですが、元になった人と似たような振る舞いをします。また、一部のテキストを自由に設定できるので、ボトルメッセージのような遊び方ができます。

野良マッチでの体験を分解したとき、プレイヤは「実際に人間が生み出したであろう要素」に個性を感じ、逆にそれ以外の部分はCPUで置き換えても体感は特に変わらないだろうという仮説でデザインしました。

ゴーストマッチはこの記事を書いている時点では未公開なので、お客さんにどのように受け入れられるかは不明で、もちろん大スベりしてる可能性もあります。どのような結果であれ

  • 誰かと一緒に遊んでる感を模倣できたか

  • 野良特有の不快感がなかったか

あたりを評価していけばまた次の企画に積み上がる知見が得られそうです。

ゴーストマッチはSteam版のリリースに合わせて解禁される機能で、この記事も宣伝の意図で書いています。ぜひウィッシュリスト登録お願いします。

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