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舞台『言の葉の庭~The Garden of Words~』レビュー

【映画よりも奥深く描かれた登場人物たちとの関係から強く浮かんだタカオとユキノの出会いの意味】

 ぴあスペシャルデーで購入してあった舞台『言の葉の庭~The Garden of Words~』をステラボールの2列目で見る。舞台に向かって上手側。真ん前にOHPが設置してあって、何に使うのかと思ったらそこに張られた水に絵の具を垂らしたもの舞台の背景に投影して揺らぎを見せたり、タカオが描く靴のスケッチを大映しにして観客席から見られるようにしたりといった使われ方をしていた。

 舞台装置を移動して場面は転換できて背景もプロジェクションで変化させられてもその上から情景を表すようなエフェクトをかける、あるいは手元を映すアニメ的なカメラワークができないところを会場に見せるといったところで、大いに役立っていたOHPを演出家がどのような着想から使おうと考えたのかが気になった。

 そんな舞台『言の葉の庭~The Garden of Words~』はもちろん新海誠監督の映画『言の葉の庭』を舞台化したもので、ストーリー的にも映画に概ね沿っていたけれど、映画ではタカオとユキノの出会いから交流、そして……といった流れをメインにしていたところを舞台では、ユキノの悪口を広めて学校にいづらくさせた相澤祥子の変遷であったり、ユキノがつきあっていた体育教師の伊藤であったり、タカオの兄とその彼女との関係であったりをもうちょっと深掘りして、それぞれに物語がしっかりとあってその関係性の中にタカオとユキノの出会いもあることが描かれていて、物語世界の奥深さが増していた。

 映画だとただのビッチなギャルといった相澤祥子が、さらに屑な先輩に翻弄されて自分を見失って本当は大好きだったユキノ先生を陥れてしまうこと、物わかりが良さそうなタカオの兄が付き合っている彼女に疑心暗鬼になったり、母親との関係に引っかかっていたりしていたこと、体育教師の伊藤が軽薄なだけではなくいろいろと考えながらも1歩が踏み出せないで後悔していたことがちゃんと分かって、それらも含めてフィナーレへとつながっていくところが見事だった。

 演じる役者も相澤祥子役の山﨑紫生が黒髪を縛っていたのが染めたり色を入れたり化粧をしたりと翻弄されていく様を体現していて人間、こうやって変わってしまうのかというのを目の当たりにできた。そんな祥子の不良めいた行動を見て叱らず諭す伊藤もそれはそれで良い教師って感じ。それなのにどうしてユキノには冷たかったのかが分からないところが、ずれてしまった人間関係の難しさって奴だと思えて興味を喚起された。

 そんなサイドの面々に支えられてタカオを演じた岡宮来夢も、ユキノ役の谷村美月もともに映画で入野自由や花澤香菜が演じたような少年と女性教師の迷い壊れていたところから落ち着き、だんだんと快復していく様を演じきって見ていて映画のシーンが思い出されつつ、舞台という空間に引き込まれていく感じがした。何よりパンツスタイルで闊歩する谷村美月が、パンツスーツ好きにはたまらなく良いものだった。良いものだった。大事なことなので2度言った。

 カット割を多くしたようなところがあって、映画で舞台となった新宿御苑にある四阿がタカオの家になったり、ユキノの部屋になったり、学校の教室になったりとめまぐるしく変わり、周囲にもセット代わりのフレームやら椅子やらが現れてアンサンブルも大変そうだった。兼ね役の人もいて演じたりアンサンブルに参加したりと出し入れの激しい舞台を、よくもまあ間違えずに演じきったものだとアンサンブルも含めたカンパニーの人たちに喝采を贈りたい。

 映画『言の葉の庭』よりも広がっていたことで、映画で描かれたユキノのどこか浮世離れしたところ、タカオの血気盛んなところにノれなかった人でも敷かれたレールめいたものに苦悩する兄であり、演劇をしつつバイトもしながら将来を模索するその彼女であり、夫に家を出て行かれて女手ひとつ兄とタカオを育てながらも自分に正直な母親であり、学校教師という体面を突破できずユキノを守れなかった伊藤であり、そして本当の自分は何だろうと探し続けた挙げ句に隘路にはまりこんで苦悩する祥子でありといった他の面々に感情を添えて、自分はこの人だといった気持ちをもらってその苦悩に共振し、たどりついた場所に共感できるようになっていた。

それが舞台『言の葉の庭~The Garden of Words』だった。

 そうした舞台でも、新海誠監督のフェティシズムが炸裂した四阿のベンチ上でのタカオによるユキノの足型取りを、四阿を回して左右にもしっかりと見せる演出家もなかなか映画の見所が分かっている。そう思った。強く思った。とても大事なことなので2度言った。(タニグチリウイチ)

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