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映画『トップガン マーヴェリック』レビュー

【戦車道の世界選抜戦にコーチとして復帰した西住しほの運命は?】

 1度目の廃校の危機を全国戦車道高校生大会の優勝でしのぎ、2度目の廃校の危機を大学生選抜相手に勝利してしのいだ大洗女子学園。今度は廃校の危機ではなく、戦車道の総本家を駆けた戦いが海外で同じような競技をしている国々から日本戦車道連盟へと持ち込まれ、絶対勝利をかけて世界の高校選抜を相手に戦うことになった状況の下、西住流家元の西住しほが抜擢されて日本の高校選抜チームの教官となり、昔取った杵柄を見せる物語だと言って良いのかもしれない。

 そこでの見どころは、間にどれだけ時間が経って結婚して2人の子供を産み育ててもまるで衰えの見えない西住しほのボディスタイルであり、そして戦車を操り勝利へと導く技術。チームの隊長を務める娘の西住みほとの関係もどうにか修復し、身を出身校の黒森峰学園のタンクジャケットに包みティーガー戦車に乗って全体を指揮し、世界選抜が繰り出す物量に任せた攻撃をかわしてチームを勝利へと導く。

 実に興味深い。そうとしかいえない設定の物語を、アメリカ海軍のジェット戦闘機乗りたちが主役を張る映画の中で、60歳に迫るトム・クルーズが西住しほと同じ役どころを西住しほ以上の若々しさで演じきっている映画が『トップガン マーヴェリック』だとしたら、いったいどれだけの興味をかき立てられるだろう。なおかつ地を走る戦車どころか空を超音速で飛ぶジェット戦闘機を、自ら操り空を駆け抜けるのだから凄まじい。

 地表の9倍ものGを身に受けながらも気を保ち、表情もしっかりと見せる演技をこなしてみせるその頑健さ。加えてマッハ10に挑む有人の実験機に搭乗し、革のフライトジャケットでバイクを走らせ、荒れた海でヨットの操舵にも挑む“乗り物好き”ぶりを発揮しているトム・クルーズなら、西住しほの替わりに戦車道のコーチに就いたとしても、高い適応力を見せてすぐに西住みほらを凌駕する操縦の腕を持つに至って、日本の高校選抜を勝利へと導いてくれるだろう。

 少したとえが長くなった。そもそもの『トップガン マーヴェリック』について言うなら、初見の興を削ぐのを避けるために簡潔にまとめるなら、バビューンでドバーンでグオーンでズダダダダでドカーンとなる映画だった。その瞬間にヒャッハーと叫び、そして別の瞬間にヒャッホーと拳を振り上げたくなる最高の映画だった。以上。

 いや簡潔すぎるだろうと言われそうだが、多少肉付けを加えたとしても、超音速機でバビューンがトバーンといった具合に、ディテールがちょっとだけ加わる程度だから意味がない。36年前の『トップガン』との繋がりもあって感慨を誘うが、それすらも圧倒的な空戦の映像の前にはささいなことでしかない。

 言えるのは劇場で観ろ、そして体感しろということだ。

 劇場の大きな画面で観た方が、全身にGを帯びて表情を歪ませるジェット戦闘機乗りたちの苦闘ぶりを、よりくっきりと目の当たりにできるし、そんなジェット戦闘機乗りたちが操るジェット戦闘機が空を舞いポジションをとりあって戦うシーンを、モニターの中でただ動き回る点としてではなく、ジェット推進によって大気を切り裂き重力に逆らって飛行しつつ、その大気や重力を時に利用し速度を変えてポジションを奪う操縦の極意を、爆音とともに体感できる。

 意識を失い、操縦不能となったジェット戦闘機が墜落を始めて地表が迫る恐怖も、狭いルートを地表すれすれで飛び続ける緊張も存分に味わえる。普通ではない状態を強いられる戦闘機乗りたちの心理にシンクロできるからこそ、ミッションが成功した際の興奮と感動もとてつもないものになるのだ。

 女性との旧交をベッドで温めた後、帰ってきた女性の娘に鉢合わせしないよう窓から逃げ出して起こった悲喜劇の気まずさと、気安さが入り交じった過剰も同様に増幅されるのかは人それぞれかもしれないが。(タニグチリウイチ)

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