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公共施設の再編を読んで-社会教育施設について-

 本書は、日本建築学会出版の「公共施設の再編-計画と実践の手引き-」の社会教育施設について記載した内容である。かなりの情報量が掲載されているので、是非、公共施設に携わる方には読んでいただきたい。
https://www.morikita.co.jp/books/mid/055331

1.公共施設再編の枠組

 既存の公共施設の評価手法は、ファシリティマネジメントの分野で確立されている。その視点とは、施設単体評価のみではなく、自治体内の施設群全体を機能面から評価する視点を導入することが、最適な再編方針に繋がるという。その手順は、①既存施設の評価(建物、コスト、サービスの評価)、②公別再編方針判定(サービス面と建物面)、③再編計画、④再編手法の流れである。
 ④再編手法として、A:施設改善(運営等の効率化、長寿命化)、B:既存施設の利活用(用途変更、跡地活用、民間活力)、C:従来手法再編(複合化、集約化、分散化)

2.社会教育施設

 社会教育施設とは。社会教育法と公民館条例を根拠とした生涯学習施設や公民館を指す。その社会教育施設が以下のように変わってきている。

図 社会教育施設の機能からみた分類

 広島県三次市では、公民館に貸館業務の機能だけでなく、まちづくりサポートセンターという地域活動を支援するセンターを設置する「まちづくり拠点機能複合型」としている。これにより、地域の諸団体・住民の情報がネットワーク化されることで、地域の実践活動を協働できるという。

3.感想

公共施設の再編においては、様々な手法や評価があるが、それを体系的に整理しているのは、非常に参考になった。
 中でも、社会教育施設においては、集約化・複合化する流れの中で、「地域のまちづくり」に寄与するためにも、どのような機能が必要か、という中で、「まちづくりサポートセンター」の取組みは面白いと感じた。
 一方で、通常の貸館業務の稼働率は高くない社会教育施設が多い中で、その稼働率を上げる取組が必要になると感じた。
 具体的には、①日常利用化、②効率的運用化、③計画段階から担い手の発掘の3点が考えられる。

①日常利用化

日常的に利用する施設化されていない実情があるので、日常利用に即した機能(カフェや団欒スペース(図書館のような)、シェアブック)等を付与することも重要である。
 一方でカフェ機能を導入する際は、行政財産であることから、目的外使用が一般的かと思われるが、その期間は1年間と設定している自治体が多く、減価償却出来ないこともあり、積極的な投資が困難なこともあることから、貸付(定期建物借地)を設定し、20年間等の長期利用も可能にすることも考えられるが、現時点ではPFI法の合築特例を使わない限り、困難である。

1堅固な建物その他の土地に定着する工作物を所有し、又は所有しようとする場合の貸付け(法第18条第2項第1号)
2合築(一棟の建物を国と国以外の者が区分して所有するための建築)に係る土地の貸付け(法第18条第2項第2号及び第3号)
3庁舎等の余裕床等の貸付け(法第18条第2項第4号)

財務省「行政財産を貸付け又は使用許可する場合の取扱いの基準について」

②効率的運用化

運営者により民間ノウハウを活用するいう視点で、指定管理制度の利用料金制度を導入することで、民間活力を活かした稼働率の向上、SNS等の広告運用等が考えられる。広告運用という観点では、近年、運動施設等の運営事業者コンソーシアムの一員に広告代理店や地元の新聞社・ラジオ局等が参画するケースが増えている。評価指標の1つに、地域経済への配慮ということで、議員等に力がある建設会社にフォーカスされることが多いが、運営事業者(特にメディア媒体等の運営事業者)が地元ということがより重要ではないかと思われる。例えば、DeNAは、川崎市アリーナの指定管理者として、TikTokで認知させ、Youtubeでファン化。チケット購入者の約40%がTikTokからの参入ということで、運営DX化が重要な観点である。

③計画段階から担い手の発掘

 社会教育施設は、地域住民の活動の場としての役割が強いことから計画段階からワークショップ等を開催し、計画に意見を取入れつつ担い手組織をつくっていくことが重要であると考える。その事例の1つが「茅野市:市民会開館」であり、基本計画の作成段階で50回のワークショップを経て完成している。一方で、それがきちんと運営段階においても市民団体の関わりが続いているか、という視点では疑問である。分離発注では、①計画→②設計→③施工→④維持管理・運営、と各個別に分かれた事業者が関与することから、関わり度合が不明瞭になっていく可能性があると思われる。それを解決するためには、①分離発注されてもトータルマネジメント事業者といった、各段階を束ねることが出来る事業者の位置づけ、もしくは②一括発注方式にして、1コンソーシアムが関わり続ける方法である。①の場合は、設計・施工・維持管理運営と専門分野が異なる段階を専門的に把握可能な事業者の位置づけが必須であるが、かなり専門性の高い。②の場合は、計画付公募等(前橋市道の駅)の公募方法か、要求水準に市民団体との関わり方を示すことが重要で、その期間も考慮する必要がある。


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