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"世界は時々清潔で、正しさばかりを圧しつける"


 太古の昔、人間は現在とは違う存在でした。
まず人間には、男の種族、女の種族、そして両性を備えた種族(アンドロギュノス)の三つの種族がありました。
その姿は、円い背、円筒状の横腹をそなえ、四本の手および四本の足を持ち、円筒形の首の上には似通った二つの顔。
この顔は互いに反対側を向いていました。
顔の上には一つの頭があり、耳は四つ。
性器は二つでした。
それゆえ、一つの個体がそれぞれで充足した一つの全体をなしていました。
その姿が丸いのは、それぞれ男が太陽、女が大地(地球)、そして両性を備えた男女は、月に由来しています。
この太古の人間は力強くそして傲慢な意志を持った存で、神々に叛乱を企てるので、神々は困っていました。
ある時ゼウスは「人間を滅ぼしてしまうと人間からの捧げ物がなくなってしまう。
さりとてこのままの状態を見過ごすわけにはいかない。
なんとか人間を滅ぼさず、しかも人間の力を弱めたいものだ」と考え、「人間を真っ二つに両断しよう」と決断しました。
その言葉通り、人間は一人残らず真っ二つに切断されました。
そして、ゼウスの命を受けたアポロンが、彼らの傷を癒し、頭の向きを変え、臍や胸をつくり、現在の人間の姿に仕立てていったのです。
ところが、いずれの半身も、もう一方の半身に憧れ、これを追い求め、一緒になろうとしました。
そして、腕を絡め合って互いに抱擁したまま何もできなくなってしまいました。
半身のままでは、働くことも生きていくこともできなかったのです。
そこで、ゼウスは、彼らの性器を身体の脇から前に移動させ、男と女は抱擁のうちに2つの者から1つの者をつくることができるようにしました。
これで、人間は欲を鎮め、再び仕事をして人生の営みを続けることができるようになったのです。
それ以来、人間は己の失われた半身を焦がれ求めるといいます。
これが、いわゆる恋心なのです。

ーープラトン「饗宴」より

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