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まめ。

白文鳥のまめ。

まめとの出会いは、娘と行った 町のホームセンターの片隅にある 小さなペットショップだった。

ガラス越しに見えた生後間もないまめは、その中で1番貧相で 手にしたら直ぐに死んでしまいそうな感じがした。
元気よく口を開けピャーピャー鳴いている雛鳥たちの中で、一羽だけ自分の身体を支えられずヨロヨロと頭を垂れていたのだ。

「あの子 直ぐに死んじゃうね…」
「そだね。このお店で死んじゃうなら、家に連れて帰ってもいい?」と娘が聞いてきた。
ああ。そうだね…よく気付いたな。と思ったので、連れ帰ることにした。

雛鳥用の籠と餌と、餌を食べさせるための道具を買い、掌にポンと納まるほどの小箱に詰められたまめを、娘がそっと抱き抱え車に乗り込んだ。
「家に帰る前に死んでしまったら嫌だよね」
「そだね。せめて可愛がってもらったと記憶に残るくらい生きたらいいよね。でもお店で死んじゃうより家の方が絶対いいと思う。」
なんて話していると、小箱の中から、カサカサ、カサカサと音が聞こえた。箱が滑るのか爪が擦れる音。それが生きている証だった。

家に着き、買ってきた籠を用意して 小箱を開けた。まだ毛も生え揃わない 可愛いとは言い難いよれよれの雛が 箱の中から必死にピーピー鳴いている。嘴の付け根に黄色いカスみたいなモノを付けて これ以上開かないってほどの口を開けて。必死に鳴いている。

雛から育てるのは初めてだから、飼育の仕方をネットで調べ、見よう見まねで餌を作り与えててみると、決して上手とは言えないが、ウゲウゲしながらも一生懸命食べるその姿に、生きる力を感じた。

「なんか生きそうだね!」娘が言った。

その日から死なせてなるものかと必死になった。慣れない雛鳥の飼育には餌付けも大切で、細いストローみたいな棒に餌を詰め、それを大きく開いた口に向かってズボッと差し込む。この時に喉の奥まで思い切り押し込まないと 雛は上手く飲み込めない。より一層ウゲウゲするのだ。生き物の口に思い切り棒を差し込むなんて、初心者には酷く怖く感じた。

夢中で世話をしているうちに、どんどん毛が生え揃い、一丁前に止まり木に止まるまでになったまめは、人を怖がることもなく凄くなついて皆んなに可愛がられた。あんなによれよれのヘロヘロだったはずなのに、いつしか心配もしなくなった。

あれから何年経つだろう。

1カ月程前に、お腹が膨れているような気がして、受診するとエコーに映ったのはたまごだった。小鳥に多いたまご詰まりという症状で、癖になると体力的にも良くないからと、その場で処置をしてもらうはずだった。でも余りにも殻が柔らかくてできなかった。このままお腹に入れていると死んでしまうとも言われた。
時を置きながら4回程通院しチャレンジしたが、やはり出なかった。
先生に「手術のリスクを考えると、後は見守りましょう」と言われた。
今のところ元気にしているまめを見ると、もどかしい。このまま何もしてあげられないなんて。。。

落ち込んでいると、娘が
「まめちゃんお家に来たから長生きできたんじゃないかなぁ?」って。
そう言ってくれた。

あんなに小さな身体から人間を見たら、凄く大きな怪物に見えてるんだろなぁ。その得体の知れない大きな手に、無防備にちょこんと身を預けるなんて、信頼関係がなきゃ出来ない事だと思いたい。
安心して手の中で膨らんでたのは、好きでいてくれたんだよね?そう思ってくれたらいいなぁ。

1日でも長生きできますように。


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