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【SNK】王虎の時代【侍魂】

 思えばタムタムって、最初は南米グリーンヘル出身だったのに、いつの間にか中南米グリーンヘル出身にサイレント変更されたような気がしなくもない。マヤ・アステカ文明とインカ文明を混同していたのかもしれないが、とりあえず今回は真の漢を捜す漢、王虎の話。

『令サム』をプレイしたかたならご存じだろうが(といっても王虎はDLCなので追加購入しなければ遊べないのだが)、王虎はとてもカッコいい。ちょっぴり横幅はあるが、だからといってでぶちんというわけではなく、がっちりとした筋肉質の巨漢である。まあ、辮髪や赤いふんどしがマイナスポイントと考える人もいるかもしれないが、言動は誇り高い武人という感じでとにかくカッコいい。
 ところがこれが『真サム』になると、「ぶどらっ!」だの「豚クソ」だの「んごら」だの、知性がやたら低い暴言メインの下品で粗暴な男になってしまう。もはやあの重厚さのかけらもない。

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キャラは立ってるとは思うよ、うん……。

 わずか1年でなぜこんなに変わってしまったのか? まさか脳腫瘍か何かで人格が急変したのか?

 初代『サムスピ』が1788年を描いていることから考えて、王虎生まれたのは清の第6代皇帝、乾隆帝が存命だった時代の清帝国である。この皇帝はやたら在位期間が長く、60年以上にわたって帝位にあり、積極的な拡大政策を進めて帝国の最大版図を築き上げた。清の最盛期といえばこの皇帝の治世、いわゆる乾隆年間ということになるだろう。
 ただし、かならずしもすべての政策がうまくいったわけでもなく、領土拡大の戦いの中では手痛い敗北を喫したり、少数民族が反乱を起こしたりもした。王虎が生きた『サムスピ』の時代は、この乾隆年間(1735~1796)の、およそ終わりの頃にかさなる。

 公式ストーリーやプロフィールによれば、王虎はさる王家の末裔であるという。そして、中国大陸はいつかかならず正当な王家によって統一されなければならないと考えており、それは自分以外にいないと信じている。
 また、王虎は正当な王家の証を持っているが、彼がそうした血筋の人間だということが皇帝の側近たちに知れれば即座に命がなくなると考えているため、ひた隠しにしている。そうでなくとも文武に長けた王虎は奸臣たちにとっては面白くない存在であり、王虎は彼らにおとしいれられることのないよう、忍従に忍従をかさねて、いつか立ち上がる日のために有能な人材の発掘に余念がない。
 ……ということから考えるに、王虎はほぼ間違いなく明帝国の皇帝の末裔だろう。歴史に無理矢理はめ込むなら明の最後の皇帝、崇禎帝の娘である長平公主の子孫と考えることもできるかもしれない。
 いずれにしろ、王虎は明の帝室、朱一族の末裔であり、大陸の正当な支配者である漢民族の王朝を再興しようと考えている。もちろん、そのような事実が発覚すれば命はない。だから王虎はそれをひた隠しにし、蜂起の日に備えて人材を集めようとしている、ということになるのだろう。反清復明、滅満興漢、カンフー映画でいうなら『少林寺三十六房』の劉家輝が身を投じたアレである。
 そういった事情を勘案すれば、あの王虎の変貌も判らなくはない。あれはまず間違いなく、

「……あれ? もしかしてワシ、有能すぎて周囲から妬まれてる? もしここで前の王家の生き残りってばれたらまずいのう……。そうじゃ! ここはとりあえず粗暴な馬鹿のふりをしてごまかそう!」

 という深謀遠慮から出た演技であろう。
 ……いや、ホントはたぶん、スタッフのほうでもちょっともてあましてるんだろうなという気がする。王虎はこれまで5作品に登場しているのだが、初代=まあまあカッコいい、『真サム』=んごら、『天サム』=んごら寄りのまあまあカッコいい、『閃サム』=んごら、『令サム』=カッコいい、という感じで紆余曲折はなはだしい。
 ただ、結局、んごら要素のない『令サム』路線が一番いいので、このまま落ち着いてくれるとありがたい。

 最後に豆知識。
 実はこの時代、すでにアメリカのニューヨークと清の広東の間では交易が開始されていた。ただし、以前の記事でも触れたように、この時代のアメリカはまだ東部13州だけであり、要するに太平洋に面した港を持っていない。また、スエズ運河もまだ掘り始めていない頃なので、太平洋横断航路ではなく、大西洋から喜望峰を回ってインド洋を経由で太平洋に向かうかなり遠回りなルートだった。
 要するにガルフォードもアースクェイクも、密航さえできれば、アメリカ大陸から中国大陸経由で日本に来ることは可能だった、というお話。

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