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「ただ居る」ことをする。水曜どうでしょうがぼんやり照らした医療の未来。

病気も水曜どうでしょうも「戦況」として考えていく

T木:
それでは後半を、始めさせて頂きます。ヤンデル先生と嬉野さんです。

2人:
おはようございま~す。


嬉野:
あのぉ、ヤンデル先生は、お医者さんなんでしょう?(笑)

オレさ、舞台袖で(藤やんとの話を)ずっと聞いてたんだけどね。あなたの分析がさ、随分面白いっていうかさぁ。

『水曜どうでしょう』っていう番組を観てると「番組まるごと、(藤村さんは)自分の家にしている」みたいな話をしてたよね。それぞれの担務に分けた個室を持つとかじゃなくて。原付カブの旅だって、ずーっと「家ごと」ついて行ってるみたいなこと言ってたじゃない。そこは、オレも全く同感。確かにそうかもしんないと思ったんだよね。

ヤンデル先生:
まぁぼくがお話しした内容は分析というより、おふたりがかつて言った言葉を組み立ててるだけなんですけどね。

嬉野:
その分析力はさぁ、病理的な職種に関わっているところがあるんじゃないの? あなたの今回出した本(『病理医ヤンデルのおおまじめなひとりごと』大和書房)を読んでると、文章のなかで戦争用語が出てくるんだよね。「彼我の関係」、「撃破」とか出てくるわけよ。病気や病院、医者と患者の関係を話すときに、わりと戦争で例え話をしている。

それはさ。普段から仕事に対して「一体どういう病気で、どういう風に体内で戦っていて、どこをどう刺激すると免疫が活性化するか?」っていう順序や構造で物事を考えることが当たり前になっていて。だからあなたは、どんな物事でも、分析するときには頭の中の構造が「戦況を見る」ようになっていくってことでしょう?

ヤンデル先生:
確かに、わりと「戦況に例えること」は好きです。

嬉野:
うん。そういう「流れ」とか「関係図式」を用いて事象を読み解くっていう頭で語られた分析とかはさ、なんか医者とは思えないような番組解説だよね。

ヤンデル先生:
おおおおぅ。褒められるとやりにくいなー。

会場:(笑)

ヤンデル先生:
あのですね、多分……僕の書いた本を読んでない方が大半だと思うんで(笑)、あれに書いた「群像劇の例え」という分析手法について、少しお話ししますと、僕は、自著の中で、病気とか医療という物事を捉えるために「いろんな登場人物がいる演劇」とか「戦場」みたいなものを見てるつもりで考えてみよう、と書きました。

嬉野:
あぁ、なるほど。

ヤンデル先生:
僕らは演劇を観にいくと、はじめに、主役に目が行くんですよね。

嬉野:
そうね。

ヤンデル先生:
例えば、戦場であれば「大将」です。その戦さ場には、兵士がいっぱいいるんですけど、一番目立つその場の主人公にスーッと目がいくわけですよ。意識の中で、それが勝っちゃう。

嬉野:
そうだね、劇だからね。

ヤンデル先生:
そうなんです。大河ドラマにしたって、やっぱり主人公であるとか、その主人公の奥さんが気になってしまう。だけど、本当は、主人公だけじゃなくて、色んな風景があるんだよっていうのを書きたかったんです。

嬉野:
うん、うん。

ヤンデル先生:
だけど、そういう色んな風景に目を向けることは、医者がこれまで、あんまりやってこなかったことでもあります。

嬉野:
どういうこと?

ヤンデル先生:
通常の治療っていうのは、ピンポイントで治すことを目的としている。例えば、1つの病状を診て「ここに異常があるから、この箇所を潰そう」となる。これが僕らの日常なんです。

嬉野:
あぁ、なるほど! 治療ってそうだよね。

ヤンデル先生:
はい。患者さん側も医者に対して「ここが痛いから、この痛みを取ってくれ」と言います。

嬉野:
なんだか大工仕事とかに近いよね。

ヤンデル先生:
そうですね!徒弟制度で培った熟練の技術を、ピンポイントに打ち込むのが「医者っぽい」。でも僕は、ちょっと違う視点で話をしたかった。職人仕事の専門性を語るのではなく、群像劇としてとらえるやり方。……それが「医者っぽくなかった」ですかねえ。

嬉野:
いや、医者っぽくないとは思わないんだけどさ。番組っていう物に対する分析、評価的な見方がなんとも興味深い。オレも番組に対して、あなたと同じことを感じてるもん。「どうでしょう」っていう番組を取り巻く、この内輪感は一体何だろう?って。

例えばさぁ。オレはね、初対面の人に会った時に「はじめまして」って挨拶するんだけど、向こうはオレの事を知ってるケースが結構多いんだよね。

ヤンデル先生:
結構多いというか、ほぼ100%じゃないですか?

嬉野:
いやいや、そうでもないんだよ(笑)。オレは、ファンの人のすぐ近くにいても、見つけてもらえずスルーされることだってある、存在感のない男だから。

ヤンデル先生:
あはははは。でも、今日のお客さんの中にも常連さんというか、嬉野さんを追いかけてやってきた方がいらっしゃいますよ。

嬉野:
うん、いるよ。中にはさ、出番前にトイレ入って用を足してたら、後ろから「先生!」なんて肩を叩いてくる人もいてさ。それだけはヤメてくれって、オレは言いたいよ(笑)。

会場:(笑)

どうでしょう班「4人」を、俯瞰で見下ろす嬉野カメラ

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