RIPS

きみが視聴覚室の先の廊下で見ていた夕陽は 未来にさよならするときの最後の映像だ

きみがぱたぱたと足をばたつかせているのに
振り返るともういない 静かな部屋
レコードの方を向いて 回転を見守っているのに
きみがふざけてなんか言うんだ
ひやかすような言葉 人差し指をぼくに向けて
Bang!
季節がきみの服を変えていって洋服ダンスのなかはドレスでいっぱいだ
きみに買ってきたアネモネ きみの好きな菓子店のフィナンス
レコードの回転できみはなにを想起するだろう
頭の隅できみのスカートが揺れる フラッシュバック
きみの足もとから少し上 きれいなフレアを余裕にとって揺れるきみのスカート
四角な枠のなかでデザインのように切り取られるスカートの三角
きみが視聴覚室の先の廊下で見ていた夕陽は 未来にさよならするときの最後の映像だ
きみの髪は高いポニーテイルで 黒くつやに見えて 毛先がきちんとくるりしている
きみの髪はト音記号みたいで ピンクとオレンジの夕焼け空に 残像する
きみの髪が画面から消えて音楽が始まるんだっけ エンディングの
そういえばきみの友達の最初の言葉も時間に関することだった
規律に厳しい子でさ、「ちこくちこく」ってウサギみたいにうるさいんだ
もちろん、時計のデザインは船のロープさ 決まりでね
なにもかも決まってるんだよ
きみは皮肉に笑うのがうまいな やになるよ/おしゃれなまんがの口ぶりを真似てるだけ
夕方、踊るように部屋に入って来てあの時分のきみは アメリカ文学みたいでかっこいい
ああ フラッシュバック
きみがぼくという世界があって人差し指をあっちこっちに向けては
全時代をAからBへ飛び、金時計のネジを最後まで堅く回し、
緯度と経度を正確に計っては
用意が出来たらすぐにBang!
ああそうだ 部屋でレコードを見てたんだった
きみのスカートから始めてかけめぐっていた/ストーリーなら箇条書きでじゅうぶんだろ
フラッシュバックでだめになりそうだよ!
タイトルがくるくるして読めないし/むりやり読もうとしてきみはうなずいてるみたいだ
ぱらぱらまんが! きみがまぶたをとじてあける宇宙の一瞬を捉えて スピード!
きみのまばたきは宇宙がまだ終わっていないので堅く閉じられている スタート
夕方、暗くなってきてもきみがいるので灯かりはつけている でも抱きしめようとすると
きみは灯かりの半径の外にいるから小さな顎だけがうすく浮かんで表情が見えないんだよ
ぼくはひるんで躊躇してしまうきみが暗がりのなかで人差し指を用意してそうで恐いんだ
目を凝らしてどうにか見えるきみの口もとが 微笑みなのか、すまし笑いなのかわからない
ソファにいて 暗い部屋で こんな近くで きみがくつろいでいるのに
いやに行儀の良いきみの装い 察知されているぼくの思い
いやに誘うきみのドレスのきれいな腰のあたり 砂時計のデザイン
ぼくがほしいのはきみなんだよ、と言っても それは信じてくれやしないよ
ぼくにキスを置くきみの冷ややかな爪 しいっ
人差し指の動き メトロノームのリズム きみの可愛いくちびるが少し開いて
――――――抱きしめようとするときみが消えそうでぼくのくちびるはふるえてどうしようもない、
フラッシュバック


ジョン・バースによると時間はすべての舞台の主役だそうだ QED.