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#30 芍薬と石楠花

 これからの季節の花に芍薬(シャクヤク)がある。ボタン科の多年草であり、近隣種の牡丹(ボタン)によく似た大きな花弁で咲く。花期は初夏(5~6月)だが、近年は桜が散ると躑躅(ツツジ)と同じ時期に咲いているようだ。都都逸で美しい女性の形容詞として「立てば芍薬、座れば牡丹、歩む姿は百合の花」というが、東洋における花の王、花王たる牡丹に極めて近い花として花の宰相、花相と呼ばれ、人気を集めている。原産地は中国東北部からモンゴル、シベリア周辺であり、寒冷地を好む。日本列島は高温多湿のため環境的にはあまり良くないのだが、多くの園芸種が開発されている。茎頂に1個の花をつけ、一重咲きや八重咲きがある。日本では一重咲きが多く、牡丹よりもすっきりとしたイメージが好まれたようだ。
 その名が示すように、もともとは牡丹とともに生薬の原料とされ、薬用として我が国に招来されたらしい。茎と根から得られる生薬には、止血や鎮静作用がある。女性の焦燥感(いらだち)を抑える効果があるとされ、前述の都都逸は各花の薬効を示すという俗説もある。その花の美しさから観賞用としても供された。特に茶席の花として人気が高い。
 対して石楠花(シャクナゲ)は、花の姿は芍薬に似るが、ツツジ科の低木である。同じく大きな花弁で咲く。ちなみに、植物には大きく分けて草本(草)と木本(木)があるが、芍薬は草本、石楠花や牡丹は木本に属する。厳密な分類ではないが、年ごとに硬化した細胞組織(木部)が形成され、年々成長するのが木本であり、形成層を作らず、生きた細胞組織のみで大きく成長しないのが草本である。
 石楠花の花期は4~5月とされるが、常緑広葉樹でありながら寒冷地でも育つため、高山植物の石楠花は夏に咲くものもあるという。おおむね西日本に多いが、北海道や東北地方では高山植物の石楠花が優勢である。明治以降、西洋石楠花も多く輸入されている。園芸種も多数あるが、野生種にも変種が多く、数百種では済まないと考えられている。
 実は筆者が子供の頃、我が家の狭い庭に、石楠花の小さな木があった。父親が自慢げに「これは高山植物の石楠花で、貴重な…」と話していたのを覚えている。知らぬ間になくなっていたが、不思議なことに花が咲いているのを見た記憶が全くない。おそらく株をどこからか持っては来たが、花が咲くまでは育てられなかったのだろう。

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