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#16 和田誠のこと

 先日、機会があって千葉県市川市を訪ねた際、市川市文学ミュージアムを見学することができた。正直に言うと時間潰しで入ったのだが、たまたま特集展示「和田誠展」をやっており、紙巻たばこ「ハイライト(hi-lite)」のパッケージデザイナーという点で興味を持った。というのも、筆者の父親が吸っていた銘柄であり、それなりの思い出あるデザインだったのである。妻の父も長らく吸っていたといい、まさしくハイライト世代なのだろう。
 展示で初めて知ったが、週刊文春の表紙や映画スターの似顔絵、絵本、星新一の小説本の装丁など、筆者もよく目にしていたデザインを多く手掛けている。その人物像を調べてみると、デザイナーやイラストレーターばかりでなく、エッセイスト、映画監督と本業が分からないほどに芸術関係の幅広い活動をしている。筆者が知らなかっただけで大した有名人であり、ミーハーで申し訳ないが、和田誠の妻は料理愛好家でシャンソン歌手でもある平野レミ、長男はTRICERATOPSのボーカル和田唱、その妻は俳優の上野樹里、次男の妻はタレント・モデルで美容料理研究家の和田明日香である。もっと言うと和田誠の父は「ラジオの神様」と呼ばれた和田精であり、演劇や音楽、映画、文芸の世界とはもともと縁があったようだ。
 横尾忠則らと東京イラストレーターズ・クラブを結成したり、NHK「みんなのうた」のアニメーション制作でも知られる。エピソードには事欠かないが、書籍のバーコードが印刷された裏表紙を嫌い、ISBNの数字のみが表示されたデザインを採り入れている点は共感できる。本やデザインに対する偏愛は、理屈では説明できないが、大局に立った有益性を凌ぐものである。
 余談だが、筆者のいる考古学の世界では、発掘調査報告書の巻末に奈良文化財研究所の指定する「抄録」を付けることになっている。かかる抄録により全国で刊行される報告書の全容が把握できるわけだが、はっきり言って官僚的な発想でもあり、行政文書の臭いが隠し切れない。これが一冊の単行本であれば、そのような取り扱いが許されるものだろうか。
 話を戻すと、和田誠は一つの肩書では形容しきれない昭和時代を彩った人物であり、その膨大な仕事は人々の記憶に残り続ける。残された資料の一部は、出身校である多摩美術大学に寄贈され、アーカイブ展示されているという。また、蔵書関連は渋谷区立中央図書館に寄贈され、「和田誠記念文庫」として公開されている。

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