いちご同盟

高校生のときにみんなから人気のあった物理の先生が、担任を持っているクラスの子たちに「どんな本が好きですか?」と聞いたら、多数の生徒がこの本の名前を挙げていた、という話を友人から聞いて、じゃあ私も読んでみようと思ったのが読んだきっかけでした(今思うと先生から直接聞いたわけじゃなかったんだな……)。
三田誠広さんの本を読んだのは、これで二冊目だったのかもしれません。一冊目は『僕って何』でしたが、これは主人公がなにやら情けない感じの人でええっ!? と思ううちにはまっていき、最後の方では思わぬ展開になったりで、とても面白く読めました。
中学校のときに、当時とっていた進研ゼミのコラムにもおすすめの本として載っていたのですが、題名がなんとなくわざとらしく思えて読んでいなかったのでした。
ここで言ういちごはフルーツの名前ではなく、十五歳のいちごであり、苺は一度も出てこなかったはずですが、なんだかそういういかにも青春っぽい話なのでは、という先入感を抱いてしまっていたのでした。

高校生のときにも好きな本で、当時、この小説に出てくる亡き王女のためのパヴァーヌをカセットテープに録音してエンドレスで聴いていたくらいでしたが、、大人になってから改めて読むと、当時よりもぐんと身に迫ってきました。

高校生のときは、どちらかというと、主人公の男の子は「自分には友達がいない」とか言ってるけど、私から見たら十分友達がいるように見えたこと、音楽を目指すために恵まれた環境(金銭的な問題とか、周りに音楽関係者が多いとか)にいること、また、当時の私から見てお小遣いも十分もらっているように見えて、行動範囲が広いこと(公共交通機関が自由に使えている)などをうらやましく思っていました。私は物欲はさほどありませんでしたが、音楽の環境と、公共交通機関が自由に使えていれば、自分にももっと違った世界が広がっていたのではないか、と思っていたのです。
なんだかんだ言いながら、なんだか自分よりもランクの高い世界で生きているように見えたのでしょう。これがあまりに自分の生活とかけ離れているようであればまるっきりよその世界と思うこともできたのかもしれませんが。

しかし、そういう妬み(?)やらを取り除いて見てみたところ、なんだかものすごく様々なシーンに打ちのめされてしまって、何度も涙が止まらなくなってしまいました。
彼が周りの世界とうまくやっていけなくていつも世界に対して違和感を覚えているような場面だとか…、

特に暗いというわけではない。無理に明るくはふるまえないというだけのことだ。それに、子供たちの間に流行してきるさまざまな物語に、ぼくは興味がもてなかった。コンピュータ・ソフトのロールプレイング・ゲームの物語、チョコレートおおまけカードで展開されている物語、あるいは、日曜の夜に放送している時代劇ドラマの物語、そういった、誰もが知っている物語を、ぼくは知らない。クラスで交わされている会話に、ぼくは参加できない。
(P153より)

やはりこれは、子供を主人公にしていつつも、大人が書いた話であり、どちらかというと大人がより共感できる話なのではないでしょうか。

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