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木の匂い

連休中にやろうと思っていたことの一つは、高さ二メートル以上、床面積一メートル四方ほどの角柱型収納スペースに棚を取り付けることだった。ここに棚があれば便利だろうなと思いながらも後手後手になり数年経ってしまっていた。せっかくの収納も床から積み上げるように物を置いてしまうと上部空間が無駄になる。重ねられた下の物、後ろの物は見えなくなり忘れられて埃をかぶってしまう。妻より「連休中に棚つけて!私は草抜きするから!」と前もってご所望があり、そうだなぁとぼんやり構えていたのだ。

こちらに引っ越してきた時にDIYには挑戦していた。もともとあったコンクリの土台を活用して二メートルほどのウッドフェンスを作った。その時にそろえた丸鋸やドリル、サンダーなどの工具一式に抜けはない。ただ、やり始めたら楽しいのだけれどやり始めるまでの腰が重い。いつやる気が出てもいいようにと、ちまちまと採寸していき棚の設計図だけは描き上げておく。

連休前半に妻の実家へ帰省し、中日(なかび)は私が仕事のため2人を残して一人で自宅へ帰ってきた。そしてこの静かな一人時間に日曜大工をやってのけてしまおうという算段である。

静かな我が家。久しぶりである。もともと静かなことや一人で過ごすことが好きだったけれど、息子が生まれてからその時間は無くなったのだなぁと感慨深い。「静か」というのは文字通りの音がないという意味ではない。家で過ごしている時の「思考の静けさ」である。大人が二人いて、二人とも仕事があれば、それぞれのペースで程よく暮らしているので基本的に思考は穏やかで静かで整理されている。たまに微調整が必要になるくらいだ。そもそもお互いに口数が少ないほうだし、二人ともゆるゆると面倒を避ける性格だ。

しかし赤ちゃんというのは、想像以上の求心力がある。泣き声だけでなく、一挙手一投足に目も気も奪われる。興味深いということもあるが、なにより危険なのである。一緒にいると気が休まらない(し、休ませるわけにはいかない)。トイレに行くにもタイミングを見計らう。集中して作業というのが出来ないのだ。

それに加えて、妻の心配性というかこだわりの傾向がかなり細かく強く出ている。一人目の子どもに対しては誰でもそうなるのだろうけれど、この子どもへの対応に関する話し合いというのがなかなかに気を使う。

賛成意見を言うにも反対意見を言うにも、気を使う。
一番いいのは、彼女の母親か、子育て経験のある妹とワイワイ話すことだ。経験者と話すと楽しそうだし、角が立たないし、「確かに、私、神経質かもしれない…」と自然に素直になれる。
基本的に、母たるものの流儀にあまり口を挟みたくないのが私である。でも、意見を言わないなら言わないで「もっと積極的に考えて意見してよ」と来るので工夫がいる。「そうだねぇ…」とお茶を濁しながら「私の意見を言っても、すでにだいたい心は決まってるじゃない…」と思いつつ言い方を考える。

子どもの機嫌と妻の機嫌は波のように連動している。一人だけ傍観しているわけにはいかないのだ。母熊と子熊が機嫌よく過ごせるように……逆らわずに一緒に波に乗るしかない。

そんなわけで、誰も悪くないのだけれど、息子と、息子といる妻といると、頭がいつもフル回転しており、静寂がない。
そんな変化にも慣れつつあるが、間違いなく部屋は混とんに向かいつつあり、物は増え続けている。体力気力がいつも削られるので、整理整頓も掃除も思うように進まない。

ーーー

仕事が済んだら、残りの時間は実に神聖な静寂だった。(大袈裟)そして、静寂は私に久しぶりのやる気を呼び戻してくれた。

仕事後、夜に材料の予想を立てて、翌日ホームセンターで木材を計算しながら購入。採寸、切断、サンダー、ビス打ち、気持ちいい風が吹き抜ける春の陽気の中、黙々と取り組む作業が心地よかった。
そうだ。私は子どもの時から図工が好きだった。木の匂いや磨かれた表面のツルツルした手触りも大好きだ。桧の角材を撫でながら思い出していた。
物を整理しつつ、掃除もしつつ、一日かけて棚が完成した。間柱も探して木枠をがっちりと嵌め込んだので、耐荷重も問題のないしっかりしたものが出来た。

もう一度ものを詰めて、掃除機をかける。スッキリとした収納を眺めて満足した。

さて、母子熊を迎えに行き、帰ってくると速やかにいつも通りの賑やかな我が家に。

思い通りに進まないことも多いけれど、まあ棚が上手く作れたので、気分は上々だ。残りの連休も、子熊ちゃんがぐずらず、母熊ちゃんもにこにこ過ごせるといいなぁ。

#DIY #自作棚 #熊


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