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Die Kunst der Fuge / J.S.Bach

表題はドイツ語で、英語だとThe Art of Fugue(フーガの技法)となる。ヨハン・セバスティアン・バッハの作品(BWV1080)だ。

僕はこの曲が10代のころからずっと好きだ。静謐でありながら活力があり、知的でありながら情熱的でもある。真理は一つだと言っているようでもあり、世界の多様性こそ真理だと言っているようでもある。対極の両義性を示してくれているように感じるのだ。

フーガの技法と言うタイトルだけあって、フーガの展開をこれでもかこれでもかと畳み掛けてくる。対位法の細かな原則と音楽的な魅力というのがどのように関連しているのか、頭ではよく理解できないけれども、バッハがこの作曲技法の美しさと興味深さに取りつかれたのは伝わってくる。面白い。

分かりやすい盛り上がりはない。しかし、悲しい音楽というのでもない。数学的な緻密な建造物が持つ「威容」に近い感覚を受ける。さりとて無味乾燥な静けさではなく、崇高な力強さを湛えている。

古楽演奏ムーブメントの火付け役でもあったグスタフ・レオンハルト指揮の演奏を長く愛聴してきた。グレン・グールドのバッハへの深い愛情を感じる演奏も大好きだ。
(バッハの曲ではゴールドベルク変奏曲が好きだが、こちらは割と活動的な時間に聞くのが好き。一方、早朝や深夜に聞きたくなるのはこのフーガの技法だ。この音楽が耳障りに感じる時間はない。)

その演奏が、最近大変刺激的で面白い形で聞けるようになった。オランダ・バッハ協会による古楽演奏だ。しかも、YouTubeで無料で聞ける。音楽監督兼ヴァイオリニストとして日本人の佐藤俊介さんが活躍されているのも嬉しい所。


とんでもない時代になった。こんなに美しい音楽が聞かれないのはもったいないので嬉しいばかりだけれど、サブスク時代の音楽家は大変だ。これほど透き通った音とアンサンブルを作るために、いったいどれほどの苦労を重ねて来られたことだろうか。

僕はPCをスピーカーにつないで、この信じられないほど美しい音楽を聞きながら、コーヒー片手に仕事をしている。

贅沢極まりない……有り難や。

良ろしければ、聞きながら食器洗いとか家事でもしてみてください。難しいことは考えずに、ただその響きの行方に思いを馳せながら流れに身を委ねたら大丈夫です。体に合う人には合うと思います。「こんな音楽があるんだなぁ」と、誰かの新しい良き出会いになったら嬉しいです。



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