ザ・バットマンの愛されバットマン

ザ・バットマンを観てきた。
観てきたのでつらつらと感想を書き連ねていくが、ネタバレに配慮などしないのであなたは自分の身を自分で守る必要がある。
ただ、この映画はネタバレを踏んだからといって面白さが大きく減衰するような映画ではないので気にせず読んでも良い。
兎としてはさっさとブラウザを閉じて映画館に行き、ザ・バットマンの次の回のチケットを買うことをお勧めするが、全てはあなたの選択だ。人生は選択の連続だ。

始めよう。

とにかく暗い

あなたはザ・バットマンのポスターなり予告編なりを見た時に何を思っただろうか。
あれこれと思うことはあるだろうが、「暗い」と思ったやつは多いだろう。
果たしてこの映画は暗い。
まあ、暗い。ほぼ画面が黒。家のモニターで観た日には、うまくやらないと映り込んだ自分の顔を3時間近く眺める羽目になるのではないか。
そういう意味でもさっさと映画館で観ることをおすすめしたい。
そしてブルースだ。ブルース・ウェイン。こいつも暗い。
笑顔も見せないしジョークも言わないし愛想もないし女も口説かない。
客にも合わないし電話も出ないしバットマン活動以外じゃ外にも出ない。
こいつは歴代バットマンの中でも一番友達いないバットマンに違いない。
それが第一印象だ。

バットマンを愛する人々

ところが、だ。ザバのバットマンは愛されている。それはもう愛されている。
アルフレッドはもちろん、ゴードンやキャットウーマン、下っ端警官まで彼のことを好きになってしまう。

アルフレッドはいつもブルース大好きなので特に言うことはない。
ブルースを愛してくれてありがとう。
バットマン活動や引きこもりに小言を言ったり父親面するなと言われたりしても、朝になったら一緒に暗号を解き始める親子のような安定した関係がいいよね。
父親の衝撃の真実が発覚した時もブルースはあっさりとアルフレッドの話を信じた。
それはアルフレッドとの関係がいかに強固かを示している。
アルフレッドをもっと大事にしろブルース。

今作のゴードンはバットマンに無限の信頼を置いている。
事件現場に連れてくる、自分が泥を被ってでもバットマンを逃す、誰も信用できない状況でお前(バットマン)のことは信用していると言う、「俺が」というバットマンに「俺たちが、だろ」と訂正する、等々。
とにかく欠片もバットマンに不信を抱かない。正体不明のマスク野郎にもかかわらず、だ。
それは2年間の付き合いがあるからだが、一体どんな2年間を過ごしてきたのやら。少なくともゴードンから見たバットマンは「狂った復讐鬼」ではなく「正義のために悪と戦う男」であり、バットマンの2年間はそう確信させるにたる活動だったのだろう。
バットマン本人は復讐復讐言ってても、それだけの男じゃないことがゴードンを通して伝わってくる。

そしてヒロインたるセリーナ……ではなく、マルティネスの話をさせてくれ。
誰かって?何を言ってるんだ。あのマルティネスだよ。
市長殺害現場に入ろうとするコスプレ野郎を止めようとした(当然止めるべきである。)けど、ゴードンに「通してやれ、マルティネス」と言われてしまったマルティネス巡査だよ。
悪の手先じゃない警官のひとりで、リドラーアパートの裏でリドラー逃走の目撃証言を得て報告し、最後にリドラーを取り押さえた今作のMVPである髭のマルティネス巡査だよ。
マルティネス巡査は最初バットマンのことを胡散臭く見てて現場に入るのを止めようとしてたのに、終盤では現場に侵入したバットマンを見つけても「なんだあんたかよ。脅かすなよ」という態度をとるようになるんだ。
「入っちゃダメ」「触っちゃダメ」とは言うけど結局許してしまうし、雑談まで振るくらいに心を許すようになってしまう。
作中でもっともバットマンへの接し方が変わった人物であり、バットマンを見る善良な市民を代表する人物だと言えるだろう。

なぜバットマンが愛されるのか。
その原因はきっと彼の誠実さと弱さにある。
嘘だらけのゴッサムシティだが、バットマンの行動には嘘がない。
保身も躊躇もなく、悪を追ってまっすぐ進む。殴られようが撃たれようが目の前に爆弾があろうが決して立ち止まることがない。
と同時に、今作のバットマンは弱い。
馬鹿げた防御性能の鎧を身につけてはいるが、基本はただ殴るだけ。たまにワイヤーとスタンガン。ハイテク兵器の支援はなく、バットモービルもクソデカエンジンを載せただけの乗用車だ。
装備だけでなく立ち回りも弱い。不器用なのか何なのか、とにかくまっすぐにしか進めない。だからいつも殴られるし撃たれるし爆弾にも吹っ飛ばされる。
バットマンを知れば知るほど、敬意を抱くとともに「あーもーしょうがねえな。あんただけじゃ危ないからちょっと手伝ってやるよ!」という気分にさせられるんじゃないだろうか。
バットマンは強いが、バットマンだけに任せておくのはちょっと不安になるのだ。だから誰もがついつい手を差し伸べてしまう。

ラストバトルは正にそれだ。
銃で武装した集団相手にバットマン大ピンチ。
助けられて助けて止めてもらってなんとか解決だ。

結局、バットマンひとりでは街は救えない。
じゃあ、バットマンに意味はないのか。ヒーローに意味はないのか。
そんなことはない。
たったひとりの行動でも、他人に影響を与え変化をもたらす。
ひとりでは救えないものをそれでも救おうとする姿は、希望だ。
人間ひとりがちっぽけに思える広大な世界の闇の中で、小さな希望の火を灯し人々を導く。それこそが本作の示す現代のヒーローの形なのだ。

(おわり)

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