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赤穂の牡蠣の思い出

海のミルクとも称される、滋養豊富で美味しい牡蠣。
旬の時期に赤穂で食べる牡蠣は絶品、というお話。

牡蠣好き予備軍の時代

ここ数年、街に牡蠣小屋なるものが増えた。

牡蠣小屋というくらいだから勿論メインは牡蠣。
生、焼き、蒸し、フライなどを楽しめて、牡蠣欲を満たすには最高。お店によってはそれ以外の料理も充実している。

しかし世の中には貝類、とりわけ牡蠣を苦手とする人が多い。

特にその見た目を敬遠されがちで、ありのままの姿をグロテスクなどと呼ばれるのだから牡蠣にとっては気の毒な話だ。

見た目はさておき、私は牡蠣がとても好きだ。
生もフライも美味しいけれど、焼いた牡蠣が特に良い。

しかし、牡蠣を好きになったのは30代に入ってからのことだった。

子供の頃、時々母が牡蠣フライを作ってくれたが、当時は好きでも嫌いでもなかった。
田舎のスーパーに売っている平凡な牡蠣は、海の香りより生臭さが勝つし、味そのものがぼんやりしたものだったと思う。
そんな牡蠣を入れたグラタンがあまりにも生臭く、子供ながらに絶望した覚えがある。

牡蠣について良い思い出がないまま大人になった私は、その後も牡蠣を積極的に食べることはなかった。

絶品の牡蠣との出会い

写真を撮ることが好きで、もう10年近く和歌山のカメラサークルに所属している。

サークルのメンバーは30代・40代が中心。
心と懐に余裕があり美味しいものを知っている世代なので、しばしばグルメとセットで撮影会を企画する。

その企画のひとつとして、2年に1度くらいのペースで兵庫県の赤穂市(あこうし)へ牡蠣を食べに行く。
その日は牡蠣好きのメンバーだけが集まり、車に乗り合わせて現地へ向かうのだ。
ぜひ一度、本当に美味しい牡蠣を食べてみたいと思っていた私も参加を決めた。

日本にはあちこちに牡蠣の産地があり、赤穂もそのひとつ。

牡蠣は一般的に冬が旬の真牡蠣(まがき)と、夏が旬の岩牡蠣(いわがき)に分けられる。

赤穂の牡蠣は真牡蠣だが、一年中美味しく食べることが出来るため「一年牡蠣」と呼ばれ、その中でも特に美味しいのが11月から4月の寒い時期だ。

和歌山から赤穂までは、高速道路で2時間ほどの道のり。

赤穂の街へ入ると、いくつもの牡蠣小屋がのぼりを立てている。
この時期、特に週末は牡蠣を目当てに訪れる観光客でにぎわうため、人気店は予約が必須となる。

多くの牡蠣小屋は60分か90分制限の食べ放題形式だ。
生牡蠣や牡蠣フライは別注文で、焼き牡蠣だけが食べ放題というスタイルが多い。
調味料や食材を自由に持参できるお店もあり、仲間同士で様々な調味料を持ち寄れば、焼き牡蠣だけでも飽きずに楽しめる。

基本的に店員さんは牡蠣の補充と殻の片付けのみで、牡蠣を網に置くところから焼き上げるまでは全て自分たちで行う。

殻付き牡蠣を焼いてみる

牡蠣はまず平らな面を2~3分焼いてから、ひっくり返す。
さらに2~3分焼くと、殻の隙間から牡蠣エキスがふつふつと沸騰してくる。やがて殻が少しだけ開くので、そうなったら食べ頃だ。
しっかり焼くのが好きな人は、ここでもう少しだけ待つのがおすすめ。

焼き専用の牡蠣を生で食べることは禁止されているし、おそらくお腹を壊すので、ルールはきっちり守りたい。

焼きあがったところで、お店から借りた軍手とカキナイフを使ってパカッと殻をひらく。
スーパーで目にする牡蠣とは比べ物にならない、ぷっくり艶々とした乳白色の美しい牡蠣が姿を現す。

お箸でやさしくその身をすくい上げ口に入れると、口の中いっぱいに潮の香りと牡蠣のうまみが広がる。

ぷりっぷりでふわっふわ。

海の塩気を帯びた、甘くて濃厚な牡蠣は悶絶する旨さ。

次々と網に乗せては焼き上げて、口の中をやけどするのも構わず、息つく暇もない勢いで平らげていく。

各自持ち寄った調味料で色んな牡蠣を楽しんでいる内に、コンテナいっぱいの牡蠣もあっという間に空となる。

旬の食材を味わうこと

日本人は元々旬の食材を大切にする民族だが、ぼーっと生きていると旬なんてあっという間に過ぎる。
そもそも、旬を知らないことのほうが多い。

あるいは苺のように、本来は春から初夏が旬であるにも関わらず、クリスマスケーキによって冬が旬であると錯覚する場合もある。

昔から旬のものは身体によいとされている。
旬の食材は味や香りが良いのはもちろん、栄養も高い。

年中どんな食材でも手に入ることは大変ありがたいが、旬の食材の美味しさに感動したり、その味や香りで季節の移ろいを感じることは大切だと思う。

牡蠣豆知識

牡蠣は日本以外の国でも食される。
品種、産地、養殖方法で分類すると世界には150種類以上の牡蠣があるらしい。

意外なことにヨーロッパでも生の牡蠣を食べるそうだが、カレンダーで「R」がつかない5月~8月は食べないそうだ。
産卵期の牡蠣は身が痩せて風味が劣ることと、海水温度が高く食中毒の恐れがあることなどが主な理由だ。

日本は夏が旬の岩牡蠣があるし、真牡蠣も養殖技術や輸送技術の発達により一年中美味しく食べられる。
日々美味しい牡蠣を育ててくれている生産者様に感謝。

因みに、岩牡蠣は日本海側、真牡蠣は太平洋側で養殖されることが多いらしい。

個人的に牡蠣といえば冬のイメージだったが、今年の夏は美味しい岩牡蠣を食べたいな。


オリジナルのイラストや写真と共に、旅やグルメについて語ります。サポートしたいと思えるようなコンテンツを生み出せるよう、コツコツ楽しみたいと思います。