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30代、会計初学者、寿司職人が米国公認会計士をストレート合格した勉強記

板前という会計実務とは無縁なバックグラウンド、深夜にも及ぶ飲食店勤務のハードスケジュール、30代という体力面でのハンデと、世間一般から見れば特殊な受験生でしたが、後続の学習者にこんな境遇でも合格できるんだという励みにして貰えればと思い記録に残します。


受験概略

  • 予備校入会(アビタス): 2020年10月

  • 必要単位取得: 2020年10月〜2022年7月

  • 本試験勉強: 2022年8月〜2023年10月

  • 受験日•結果: FAR (2022年10月) 79点 / AUD (2023年2月) 80点 / BEC (2023年6月) 78点 / REG (2023年10月) 82点

※海外(アメリカ)在住のため、講義は全てe-Learning。予備校が提供する教室やオンラインでの補講もリアルタイムでの参加が難しかった為、収録動画の視聴のみ。

なぜ寿司職人から会計士?

なぜ寿司職人から公認会計士を目指そうと思ったのかとご質問いただくこともありますが、もともと数字管理は好きな方で、今後5年10年のライフプランを考える上でも「好き」を客観的な「武器」に変えたいと思い勉強を始めました。

新卒の頃は漠然と海外で働きたいという思いの方が強く(まだ自分の中での適性や得意不得意も見えていなかったのもありますが)、たまたま海外展開をしていた某寿司屋に就職。日本で職人としての下積みを経て、毎年のように出していた異動希望が叶い米国出向させてもらえることになりました。(現在は現地の和食店に転職)

“海外に出る”という思いだけで来たのもあり、いざ目標が達成されて果たして自分は“海外で”何をすべきかと問うようになりました。そこでこれまでの人生の棚卸をし、数字管理やシステム作りに尽力してきた、組織のバックボーン的な働き方であったと気付きます。最初は会計に興味を持つなんて微塵も思っていなかったのに、経験を通して見えてくる世界があるものですね。

実務経験のなさは受験には不利か?

会計らしいバックグラウンドと言えば、大学生時代に簿記3級を取得していたくらいです。その当時は「就活に有利になる」という生協の売り文句に乗って夏休みの講座を受講した記憶があります。それから10年、仕訳の「し」の字も絡まない仕事人生だったので、今さら簿記の知識がアドバンテージになったとは思いません(笑)。ただ少なくとも簿記の講座を苦痛に感じたことはなく、数字に関して特に苦手意識はないと言う事が分かったのは良かったと思っています。

結論として、会計士を目指すからといって基礎的な簿記の勉強をかじった方が良いとか、会計事務所でインターンをする必要があるかということは全くなく、未経験でも十分に挑戦することは可能です。ただ数字に対するアレルギー反応の有無を知るという目的で簿記3級レベルに触れてみるのはアリかなとは思います。

学習戦略

会計学専攻などでない限り、受験要件を満たすために本試験対策を始めるにあたって追加単位の取得が必要となる方が多数だと思います。年単位でのスケジューリングとなる学習ですので、頭からがっつかず、しっかりと計画を立てることが大切です。

特に社会人は仕事や育児の合間を縫ってちまちま進めていくことになるので、達成可能なペース配分や理解度を鑑みながら微調整を繰り返していくことになります。加えて各科目合格にも有効期限があるため、一度タイマーを作動(1科目目の合格)させてしまうと一定期間のうちに全科目クリアすることが求められるのも悩ましいところです。

僕はストレートに1科目目から学習・受験・合格が難しいと判断したので、フェーズ1で単位取得を兼ねて全科目を網羅的に学習、フェーズ2で本試験対策として肉付けしていく作戦にしました。(実際にフェーズ1は前半で学習のペースが掴めず2年弱かかってしまいましたが、フェーズ2で短期集中的に取り組めたので、必要以上に焦ることもありませんでした。)

時間管理

一般的には①ケツ(試験日)を決める、②逆算して月・週・日単位の目標を立てる、③進捗確認•微調整、がプロジェクトマネジメントの基本でしょうか。ただ、学習開始から全科目合格まで3年というのは決してスムーズとは言えませんし、今さらここでスケジューリング法を論ずるつもりもありませんが、大事なのは自分を知ることかなと思います。

自分が集中できる時間帯や場所をうまく活用するのもさることながら、どのくらい集中してコミットできるのかを知ることも戦略の一つです。休日7時間やるぞと意気込んだは良いものの、前日の仕事疲れや休日の所用で時間を取られ3時間しかできなかった、というのは日常茶飯事でした。それで自己嫌悪に陥り、焦りだけが募る繰り返しではメンタル的にも不健康です。3時間しかできないなら3時間を前提としてスケジューリングし成功体験を積んでいく、という方が現実的だし継続できる秘訣でしょう。

ちなみに自分は、仕事後に自宅に帰るとそのままリラックスしてしまうので、閉店後の職場に1〜2時間残って勉強して帰っていました。また、隙間時間の積み重ねが重要とは言われますが、体力仕事で休憩時間まで勉強に充てるのはしんどかったので普通に昼寝していました(笑)。無理なく習慣化できる学習パターンを確立することが何より大切です。
休日は専らカフェで勉強、日用品の買い出しとジム、時間帯によっては別のカフェまたは図書館に移動して勉強の続き、というルーティンで3年間ほぼ固定でした。

学習の流れ

タイトスケジュールで日々業務をこなす社会人にとって、分からないものを黙々とやるのはイライラするし、定着までに時間もかかり苦痛です。大丈夫、これが普通です。山場はインプット期の終わりからアウトプット期にかけて。全体像が見えてきて論点理解も進むと、解ける感覚の方が増えてきて学習の勢いも増してくるものです。(その頃には試験日も迫ってきた危機感から、より学習に集中できるという相乗効果もあると思います。)

  1. 講義視聴 (インプット期)

    • 初見で理解できない論点でも、とりあえず一巡して全体像を掴む

  2. 練習MCは、正解した問題の解説にも目を通す (インプット期)

    • 覚えたつもりでも微妙に理解が違っていたということも。テキストにない補足解説がなされていることも。2巡目以降は疑問を放置しない。自分で調べる→仮説を立てる→質問サービスを利用する。その細かい理解の上で派生論点対応力が磨かれる。

  3. 練習MCで8〜9割正答できるレベルから、TBS・RQに着手 (深掘り期)

    • 一問一答で答えていた論点を、複合論点・類似論点を絡めながら学習することで、論点の違いが改めて整理される。RQで本試験のレベル感を知る。苦手だと思う論点も実際の試験での頻出度は低かったりなど、学習強弱の戦略に役立つ。

  4. テキストの隙間を埋める (深掘り期)

    • ③で整理された論点の背景、類似点、相違点、例外、参考情報をテキストの該当箇所に書き込み肉付けしていく。直前期には、補足情報が書き込まれたテキストを読み返すだけで、試験に求められる考え方が全て網羅できる。※後述のテキスト精読法で詳しく解説

  5. 直前対策講義、模試

    • 順番はどちらが先でも問題ないみたいですが、本試験3〜4週間前を目安に、④までのベースがしっかり構築できて問題自体は解けるという前提で、試験のレベル感、直近の出題傾向、解答時間も含めた対応力の確認。

  6. 試験直前

    • 一週間を切ったくらいの文字通りの「直前」の過ごし方。テキストにないマイナー規定等を直近の過去問で拾えたりもするので、時間が許す限り詰め込むのがベストですが、難しい初見問題に手を出しすぎで自信喪失に陥ったり試験までに疑問を解消しきれないのでは本末転倒。ある程度見切りをつけて覚えたことの整理・復習、生活リズムの調整等、当日のコンディションを100%に持っていく着陸体制。

※他校の直対教材を薦めている学習者さんをネット等でも見ていたので、不合格だったら利用も検討していましたが、結局アビタス教材のみで十分対応できました。

インプット期

基本的に講義・問題集・その他気づきなどのメモや補足はテキストの該当箇所に書き込み情報の一元化。その時、見出しはピンク、説明は黄色など自分なりのカラーマーカールールを決めておくと情報に一貫性が出て読みやすくなります。同様に付箋ルールも補足情報は黄色、要約は紫、参考情報は緑などとしていました。


一巡目は概略を掴む程度でもOK、後のユニットを経て点と点が繋がってきます。ただサラッと流したテキストをサラッと復習しても深まらないので、講義は聞き流さず、しっかりメモ取りながら。二巡目くらいまでは時には疑問を調べつつ、論点の背景まで理解。ある程度濃度の濃いテキストに仕上げた状態で、復習•精読することで理解の密度が高まります。

深掘り期

応用問題で論点整理

論点単独で覚えた気になっても、TBSやRQなどの応用問題の中で違う問われ方をすると途端に解けない、類似論点とごっちゃになる、そもそも何の論点のことを聞かれているのか判別できない等、脆弱性が露呈するものです。こうした論点横断的な問題を解く中で、一つ一つの論点が多面的に磨かれ、他論点との違いや繋がりも整理されてきます。またテキストで難しいなと思うような論点も、実は試験での出題頻度は低かったり、基本的な用語が理解できていれば(計算までできなくても)十分ということも多々あるので、演習の中で力加減を調整していきます。

論点の立体構造を意識

結論だけ暗記して理解した気に陥らないこと。いわゆる深掘りと言われるAUDの鍵となる学習法ですが、論点の背景や根拠まで意識した学習の基本的なアプローチは他科目でも同じだと感じています。具体例としては、管理会計のCVP分析において、P=(S-V)Q-FCの公式だけ暗記して終わるのではなく、式に数字を当てはめつつも売上とコストの関係性をイメージできているか。AUDにおいては、監査報告書発行日以降に確認が取れた後発事象の扱いをどうするか。テキストで例示されていることが基本ですが、それ以外の事態も起こるのが実務の世界。細かいケースまで想定する疑問力を大切にしましょう。

極論を言えば、テキストを一字一句完璧に暗記したとしても合格できません。論点同士がどう絡んでくるか、初見のシチュエーションに対して知っている論点をどう応用できるか、という論点横断的な網の目構造を頭の中で構築。難しい変化球問題というのは、原則・違い・例外をストーリーにして落とし込めているかといった、この論理構造の理解力が問われます。試験会場では頭に叩き込んだ論点の結論だけをサッと取り出して解答していく必要がありますが、演習の段階では論点を取り巻く思考回路を大切にして下さい。

最後に、テキストでFASBやIRCの規定が全て網羅されているわけではなく、あくまで試験対策上プライオリティの高い論点に絞ってあるという認識の上で、テキスト外のことも自分で積極的に調べていく意識づけは大事です。「テキストにはないけれど、実務ではこの細かいケースはどう処理しているのだろう?」といった疑問も、予備校の質問サービスが利用できるのであれば積極的に活用してほしいですし、概略を理解する程度であれば最近では回答生成AIで手軽に調べられるようになりました。こうした日々の疑問の積み重ねで、気づけば試験で求められる遥か上のレベルまで仕上がってくるイメージです。

模擬試験のタイミング

理解度にもよりますが、個人的には試験2~3週間前がベストかなと思います。力試しといっても1カ月以上前だと早すぎる感。「出来なくてもしょうがない」と割り切れてしまうような完成度で臨むのはもったいないです。基本の徹底や細かい論点理解を通してスラスラ解けるようになって初めて時間配分も洗練されてくるので、そのレベルまで持って行った段階で、応用力や時間感覚の確認として受験する方が模試を最大限に活用できるでしょう。
(単に敵を知るという目的であれば、とりあえず過去問を齧ってみる程度でよいので。)

まとめノートは作るべきか

論点の量も多く領域も多岐に渡るCPA科目。攻略にはテキストを高速で回すとか、演習量を多くこなすといった力技もある程度は求められますが、いかに効果的に論点を整理し覚えるべきことをコンパクトにできるかで、学習効率も大きく変わってきます。個々の論点の理解もさることながら、全体の繋がりの中で複数論点の関係性、類似論点の違いを整理して体系化していけば芋づる式にグッと覚えやすくなります。

テキストで何ページにも渡って解説してあったり、論点横断的に登場する概念を物理的にページを行ったり来たりして確認するのは混乱するし時間も取られます。そこで、概要だけサクッとまとめられるものは付箋1枚にしてテキストに添付、仕訳処理なども含めて少し複雑なものはiPad等で図式化、論点比較などmentionで済ませられるものは参照ページ数をテキストのサイドに書き込むなど、テキスト全体をチャンクにまとめる工夫をしてきました。

全てにおいて最初からまとめノートを作ろうとすると、情報も固まっておらず何がポイントなのかも見えず効果が薄いです。一通り学習を通して全体像を掴んだ段階で、覚えにくいものに絞ってまとめていくことで、直前期には複雑な論点が手早く復習できる状態に仕上がってくる感じですね。

テキスト・問題集・補足プリント等あらゆる学習媒体がありますが、「インプット期」でも触れたように、基本的に得た情報はテキストに集約させるのが大前提。その上で、どれだけ簡路化、圧縮化できるかが鍵になると言えるでしょう。

テキスト精読法

初めて学習する論点のテキストを読むと、何となく分かった気になるものです。ただテキストレベルではA論点に対して“A“問題、B論点に対して“B“問題とシンプルですが、実際には応用演習を通して“AB“や“ab“のような複合問題、派生問題をこなす中で、テキストで扱いきれていない論点の隙間を埋める作業や、テキストの論点の再解釈を行なっていく必要があります。

この過程で学んだ補足知識をもれなくテキストに書き込んでいくことで、最終的にテキストを読むだけで、今までに解いた全ての問題に対応できる情報が網羅されているという状態になります。(実際には、ある問題を解く際に必要な情報を必要な形で思い出せているか?というのはまた別のスキルにはなりますが、少なくとも“そもそも知らないから解けない”というケースは無くなります)

「テキストを読む」というとインプットをしていると思われがちですが、テキストの行間を理解し、問題を解くためのアウトプットの思考回路を確認する作業です。テキストの素の情報をそのまま暗記するのではなく、どの情報を使って答えを導けばよかったのか?他の選択肢だとどの情報のことを言っているのか?と、自分なりに整理し、噛み砕き、時には補足して、どんな敵にも立ち向かえる武器に作り変えるのです。

時間ベースよりタスクベース

時間管理アプリには賛否両論ありますが、僕はStudyplusというアプリで学習記録をつけていました。ただし何時間できたかは結果論であって、肝心なのは覚えるべき内容をしっかり理解できているか。「◯時間やるのが目標」ではなく、理解できるまで勉強した上で◯時間やったぞ!というのが自分のモチベーションになればベストです。

英語

もともと英語は好きで大学でも専攻していましたが、CPA学習では会計用語とかも登場する為、当然馴染みのない表現も多いです。ただこれは会計を齧ったことのないネイティブでも同じことが言えるので、会計英語を知らないことをdisadvantage に感じる必要はないかなと思います。むしろCPA学習においては会計英語に偏っているので、何度も出てくる言い回しにはすぐ慣れますし、TOEFLのように英語力そのものが問われる訳ではないので、ある程度文構造が理解できる英語力があれば大丈夫です。(TOEIC600点くらいでしょうか。)

その上で、問題文を読む中で分からない単語が出てくると思います。知らなくても推測できる単語ならスルーして良いですが、たまにその単語を知らないと状況が理解できないというのもあり、状況をしっかり把握する必要があるAUDでは意味の取り違えが致命的になることもあります。自分は、そういう問題文をコピペして、キーワードのみ訳をつけて簡単な例文集にしていました。一般的な意味と会計上の意味が違うこともあるので、CPA試験での使われ方を意識して問題文のまま理解してしまうのがピンポイントだし早いと思います。

受験手応えの考察

手ごたえと結果が必ずしも一致しないと言われるCPA試験。体感的にズタボロでも実際には合格だったというケースも割と聞きます。自分自信、1科目目のFARではMCでフルボッコ、メンタルをやられながらTBSをこなし、50点取れてたら御の字だろうという手応え感で、蓋を開けてみれば79点での合格でした。この辺りの理由というか考察をしてみました。

  1. ダミー問題

    • 今後の作問の参考用に採点対象外のダミー問題が一定数含まれるが、こいつが難問奇問だったりすると言われる。採点されないので解けなくても問題ないが、解きながらどれがダミーなのか分からない為、点数には響かないながら手ごたえとしてはフルボッコにされたような後味が残る。

  2. 心理的バイアス

    • ”全然できなかったー”とか、”今思えばあの問題の答え間違ってたかも?”とか、後々思い返して不安になるもの。特にこういうネガティブな印象の方が時間が経つほど記憶の中で強調され、実際の出来栄えを過小評価してしまう原因になる。

  3. 採点の技術的システム

    • 問題の中には簡単な基本問題もあれば、難しい応用問題もある。CPAのようなコンピュータ試験では、受験者全体で統計的に点が取れていない難しい問題には傾斜配点がなされ、配点が高くなる。大雑把なイメージとしては、難しめの問題に2~3問正答できれば、簡単な問題10問くらいの得点に匹敵するので、実際の正答数の割に意外と点数が高くなることがある。

手ごたえって、あくまで感覚的なものですが、勉強してきた自分というのは紛れもない事実。自分を信じて出し切れば結果はついてくるはず!試験後は後味の悪さから、再受験に向けた復習に取り掛かりたくなる気持ちも分かりますが、意外と受かっていることを考えれば、無駄になりかねない復習時間より、どのみちやらなきゃいけない次の科目をウォームアップ程度にでも始めてしまう方が、スケジュール全体で見れば効率が良いかなと思います。

※余談ですが、採点システムにおいて問題レベルと受験者の正答率に関するデータが出揃うのに時間がかかるということで、過去の試験制度の大幅改定の際にもスコアリリースまで数ヶ月間の余裕を持たせていた時期もあったようです。2024年からの新制度においても、必要なデータが出揃い次第スコリリまでのインターバルは解消されていくものと推測しています。

おわりに

あとは「学習そのものを楽しむ」ことでしょうか。社会人になると勉強を強制されることもなくなり、自分で主体的に動かなければ新たな見識は身につきません。だからこそ、自分が必要だと感じるスキルを意欲的に学ぶインセンティブは大きくなります。必要に迫られての切迫感もある意味でモチベーションにはなりますが、”好きこそものの上手なれ”の精神こそ、経験の無さ、時間の無さ、年齢等のハンデすら乗り越えて、継続し結果を出せる秘訣かなと思います。

※科目別学習法については、別記事にまとめています。

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