プロ野球選手のセカンドキャリアについて考えてみた

 増田俊也のスポーツアンソロジー「肉体の鎮魂歌」で沢木耕太郎のスポーツノンフィクション集「敗れざる者たち」に入っている「三人の三塁手」が取り上げられています。「三人の三塁手」とは、長嶋茂雄と同時期に巨人でプレーした、長嶋と同世代の三塁手二人と長嶋本人についての、ノンフィクションです。

 長嶋以外の二人はプロ野球では成功せずに引退するのですが、その一人が「少し儲かっていても、居酒屋チェーン店の店主じゃ恰好が着かない」とボヤいたところ、それを聞いていた友達が「バカ、商売で利益を出すのは凄いんだよ」と諭すシーンがあります。増田俊也はそれを「華やかなプロの世界でしか得られない興奮と熱狂に比べたら、実社会でのささやかな成功なんて取るに足らないのだろう。それは今わの際までわからない」と書いています。

 ある日本チャンピオンまで取ったプロボクサーは引退したとき、「『日本チャンピオンまでなったのだから、どんな世界でも通用するよ』と励まされて、一般の仕事に就いたけど、ボクシングの能力と一般で勤める能力は全く別だと気づいた」と言って、ボクシングの世界に戻ってきたそうです。

 プロ野球に限らず、プロアスリートがセカンドキャリアを歩むときは、過去の栄光を捨てて、一般とプロスポーツの違いを受け入れないといけないと思います。それは想像以上に難しいでしょう。もしそれが出来るなら、先に例に出した二人は苦労しなくて済んだはずです。

 プロに行く理想のコースは社会人を経由して行くことだと思うんですよね。例えば社会人野球の選手は、業務に就くのは半日と聞きますが、それでも一般の仕事をするし、給与も多いものではないでしょう。プロを辞めても「一時の夢だった」と割り切って、一般の世界に戻りやすいと思うんですよね。社会人としての礼儀作法は身に着けているので、一般の世界に戻っても戸惑うことはないでしょうし。

 社会人の経験がなく、プロ入りした人は元ライオンズの大﨑雄太郎のようなバイテリティを持った方がいいと思います。大﨑は引退後球団や後援会から仕事の紹介が来たのですが、「まともな就活をしたことがないのに、一般社会に出るのはどうかと思う」と断って、履歴書、職歴書を作成して、面接を受けるという一般の就活を実践したそうです。就活では苦労したと思いますが、「プロは一時の夢で、一般が現実」と割り切って、次に進むことができたと思います。

 トライアウトも終わり、NPBからオファーが来ず、独立や社会人でプレーする意思のない選手は野球以外の生き方を考える時期だと思いますが、いい第二の人生を送れるようにエールを送ります

追記
 「三人の三塁手」でもう一人の選手が引退後、「プロ野球なんて嫌だった。日曜日に電車で球場に向かうとき、ピクニックに行く親子連れを見ていると『いいなあ、俺なにやっているんだろ』と思ったしね」と言うのを聞いた沢木耕太郎が「それでいいんですか、悔しくないんですか」と言いたいのを堪えたという熱さが好きです。当時沢木さんは二十代だったというのが信じられない。

 数年前に執筆した小説「春に散る」が今年映画になったので、まだ現役の一線で活躍している沢木さんには尊敬しかないです。

 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?