なぜプロ野球選手は代理人を着けないのか

 先日ドラゴンズ(当時)の又吉がFA宣言しましたが、そのときのコメントにあ然としました。

―FA交渉では代理人をつけない。理由は「よりお金が高い方に、という考え方があるのは分かります。ですが、大切にしたいのは出会い。これまで出会った方が喜ぶかどうか。『よくやったな』と言ってもらえるのが、僕なりの恩返し。突然、『お金。お金』と言い出しちゃったら、今までの生き方と違っちゃう。宣言残留を認めてくれているドラゴンズはもちろん、もしも手を挙げていただける球団があるなら、自分のスタイルをありのままに、膝と膝をつき合わせて交渉したいです」

 その後又吉は4年総額6億でホークスと契約します。年俸の高さからわかるとおり、又吉にとって野球人生を左右する重要な決断になったわけです。ところで、又吉はこのこととを誰に相談したのでしょうか?もし誰にも相談せず、又吉本人で決めたのなら、彼は相当なビジネスマンですね。6億も動く契約を一存で決められるほど判断力が高いビジネスマンなんて、一般社会にはまずいないでしょう。仮に決められる立場にあっても、金額の高さに怖くなって誰かに相談するはずですから。

 中島大輔「プロ野球FA宣言の闇」を読んで、プロ野球選手は代理人を着けないのではなく、代理人は着けづらいということを知ってあ然としました。NPBでは「代理人は弁護士資格を持つものに限る」という決められています。弁護士は法、交渉のプロですが、野球知識という部分には疑問があるわけで、査定項目の意味が分からず選手に聞くこともあるようです。これでは選手が代理人を着けたがらないのもわかります。事実、代理人を着ける選手は10~20人で、全体(800人)の2%にすぎないようです。

 代理人を着けるメリットとして、「交渉は代理人にまかせておけるので、選手はオフを楽しんだり、トレーニングをすることができる」や「プロ野球選手は交渉事においてはプロではないので、交渉の場では言いたいことが言えずに、フロント有利で交渉が進む」が挙げられますが、一番のメリットとしては、「年俸交渉で揉めると選手がヒールになりやすいが、代理人を使うと代理人がヒールになるので、選手はヒールにならなくていい」が挙げられると思うんですよね。プロ野球は人気商売なので、できるだけイメージを落としたくないじゃないですか。

 MLBでは選手会が認めたものなら、誰でも代理人になれるそうです。それぐらい緩くしたらプロ野球選手も代理人をもっと使うようになるはずです。鹿児島ユナイテッドに堤俊輔という選手がいましたが、引退後代理人に転身したようです。代理人になれる条件を緩くすることで、代理人もセカンドキャリアに入るので、選手にとってもありがたいと思うのです。

 プロ野球選手がMLBに移籍するのは珍しくありませんが、そこには「ちゃんと代理人を着けられるMLBの方がビジネスとしてやりやすい」という理由があるのなら、プロ野球界にとって不幸なことだと思うのです。よりよいプロ野球界にするなら、もっと代理人を使いやすくするようにした方がいいでしょうね。

 いずれ「僕は野球のプロですが、交渉事においてはプロではないので代理人と相談しながら、チームを決めていきたいと思います」というプロスポーツ選手として、まともなコメントが出るようになったらいいですね。そうなったら、選手もプレーに専念できるので、ファンもますますプロ野球を楽しめるようになると思います。

追記 年俸交渉で揉めるとネットスラングで、「銭闘」、「銭闘士」というのを見ますが、「センスがないなあ」とウンザリします。MLBでは「ドラキュラ」、「スネーク」、「リーチ(蛭)」と言われるそうですから。MLBの方がセンスがいいよね


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