朝焼けを飲みたい

バンドの深夜練習を終え、疲労困憊で重たい身体を引きずりつつ、新宿からの始発に乗った。20分も各駅停車に揺られていると、誤魔化しが効かなくなった吐き気によって途中下車をする羽目になった。

降りたのは、「花」という字が入る綺麗な名前の駅。思い返せばあの駅に吐き気を催した私はかなり不釣り合いだったが、そんなことを考える余裕もなかったので、エスカレーターを駆け上がってトイレを探した。

死人色だった顔にも赤みが戻り、呼吸も楽になったところで、次の電車を待とうと再度ホームに降りた。人1人いない朝5時過ぎの静寂。いつもの癖で開いたSNSでさえ、人の気配などある訳がなかった。イヤホンをつける気力も湧かず、1人音のないホームで暇を持て余していた。小説を持ち歩かなかったことを後悔した。

次第に空が明るくなっていることに気づく。
知らなかった朝焼けの色。夏休みの朝、実家でよく飲んでいたブルーベリースムージー色の朝焼け。
向かい側のホームには、新宿方面を目指す人々がちらほら登場する。
右側に見える踏切が、年季の入った整体の広告が、ブルーベリースムージー色に染まる。
そういえば、久しくまともな朝ごはんを食べていない。実家で定番だった朝食、菓子パンのパッケージを思い出す。

朝ごはんをひとつの楽しみにしよう。
昼夜逆転かつロングスリープな生活の改善策はこれに尽きると思う。母の作ってくれるブルーベリースムージーを飲むために、毎朝6時に起きる私がいたのだから。

ブルーベリースムージーの中から現れた電車に乗り込む。座席の端、帰宅したらスムージーを飲もうと心に決め、眠りにつく。

一人暮らしの家にミキサーがないという事実に、眠い頭でたどり着くはずもなかった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?