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二次会

「ドレス持ってないから、同窓会には行かない」

去年の1月、成人式の後の集まりに、君は来なかった。普段からボーイッシュな服装を好む君らしい理由だなと、変わらないなと思った。

ホストになった男の子も、ママになった女の子も、私と同じようなボブヘアの男の子もいたけれど、彼らのどんな話よりも君の話が聞きたかった。
恩師たちからのビデオメッセージが流れ、笑いと感動の熱が冷めないまま会は閉じた。二次会のカラオケにはこれっぽっちも惹かれなかったから、君と会うことにした。

駅前の安い個室居酒屋、私はドレスで君はスウェット。ちぐはぐで笑えてしまうような光景だったけれど、私たちにはそれでよかった。

中学2年で同じクラスになって、違う高校に進学して、違う恋愛をして、全然違う大人になった。それでも、ずっと連絡を取り続けてきた。いちばん長い付き合いの女の子。
大学のことも家族のことも恋人のことも自分のことも、何でも話せる仲だった。たまにしか会えない付かず離れずの距離だったからこそなのかもしれない。

その日は久々の再会を祝して乾杯をして、近況報告から生き延び方のことまで、とにかくお互いに話したいことを話した。当時どうしようもない生き方をしていた私を肯定しつつもさりげなく叱ってくれて、救われた気分になった記憶がある。
田舎の早すぎる終電(たしか21時すぎ...?)を恨んだ程には、話し足りなかった。

それからしばらくは、2ヶ月に1回程のペースでご飯に行った。代々木で飲んで小さな公園で夜桜を見たり、夜カフェと称されるお洒落な空間に背伸びして乗り込んだりした。君は私と違って働いているから遅くまではいられなかったけど、限られた時間で沢山のことを話した。

会う度に君は綺麗になった。
メイクもダイエットも頑張っていると言っていた。私も見習わないといけないと思っていた。

異変を感じたのは、去年の秋だった。夜ご飯を食べようと言って集合したのだが、なかなかお店が決まらない。私の提案もやんわりと却下され、サラダバーのあるお店がいいと街を歩き回った。

ダイエットを頑張っているのは知っている。
痩せて綺麗になった君が目の前にいる。
私も綺麗になりたいと憧れた。
そのはずだったのに、一緒にいるのを楽しくないと思ってしまった。

結局望んだような店は見つからず、近くの商業ビルに入っている定食屋さんで夕食を済ませた。
いつも通り話していても1度抱いてしまった違和感が抜けず、もやもやした気持ちのまま解散した。きっと、君も同じだったのだと思う。

あれから数ヶ月連絡を取り合っていない。
きっと私から連絡すれば君は優しい返事をくれるけれど、その勇気はない。
また会っても、大きくずれてしまった価値観を更に鋭く突きつけられるだけなのだと、互いにそれをなんとなく予期している。

今の君は私よりもダイエットが大事だし、
それに気づいた私は、君よりも大事なものを幾つも作ってしまった。

2人だけの二次会を開いたあの夜が綺麗な思い出であってほしいから、しばらくはまだ君を思い出さないように過ごすのだろう。

もう少し大人になったら、
一緒にいる時だけでも君をいちばん大事と思えるくらい大人になったら、きっとまた連絡をするね。

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