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知っておきたい応急手当:気道異物除去の手法について

こんにちは。

去る2/26日の出来事ですが…福岡県みやま市の小学校で、給食に出てきたうずらの卵をのどに詰まらせ、1年生の児童が亡くなるという、痛ましい事故がありました…

報道などによれば、現場での初期対応はそれなりにされていたようですが、残念ながら…という事のようです。ご冥福をお祈りいたします。

さて、喉の詰まりによる窒息というのはいわずもがな、一刻も早い対処が求められる事態です。

救急車の到着までの間、じっと待っているだけでは、助かる命も助かりません。現場でできること、一般人でもできることとは何なのでしょうか。

一人でも多くの命が助かることを願って、今回は「気道異物除去の手法」について、コラム形式で作成しました。

いつものものに比べ、ちょっと分量が多めではありますが…それなりに気合を入れて作ったものということだと理解してもらえると、嬉しいです(^^)

それでは、どうぞ!

===== テキスト版です!=====

知っておきたい応急手当:気道異物除去の手法について


〇窒息対処は、時間との勝負!

 喉に物が詰まると、当然ながら息ができなくなりますよね。そうすると、人間の体内では、血液中の酸素濃度がどんどん低下(また、二酸化炭素濃度が上昇)することで、脳をはじめとした内臓組織が機能障害を起こし始めます。このことを「窒息」といいます。
 
 もちろん「早期に対処したほうが良い!」ということは、皆さん理解しているかと思います。では、もう少しシビアに、どのぐらいの時間で対処しなければならないのか、下図を見ながら考えていきましょう。

図1:窒息事故発生後のフロー
(出典:内閣府大臣官房政府広報室「政府広報オンライン」HPより)

 まず重要なこととして、何も対処しなければおおよそ5分で呼吸が止まり、10分もしないうちに心停止となるという事です。(※時間はあくまで目安)いかに早く119番通報をしたとしても、救急車の到着を待つだけでは、非常に危険なのです。

 このことからも、救急車が到着するまでの間に、その場にいる人間が、1分1秒でも早く、何らかの処置を開始することが望ましいという事が分かります。

〇窒息の兆候は?

 おおよそ5歳以上の子ども~大人の場合であれば、喉に物が詰まった際にはほぼ間違いなく「チョークサイン」という、首に手を当てる仕草をしてしまいます。過去に色々と調査された事があるようですが、人種や国を問わず、人間というのはこの仕草を取ってしまうという事が分かっているようで、「ユニバーサルチョークサイン」とも言われます。誰かが喉の詰まりを起こしていることを発見するときは、この仕草によって気が付く…ということがほとんどです。

 ただ、それより小さい子では、明確なチョークサインが出ない場合も多々あります。乳児や幼児の場合、喉をおさえたり、口に指を入れる仕草をとったり、声が出せなかったり、呼吸が苦しそう…と、そういった症状が出るケースが多いようです。乳幼児からは目が離せないとは言いますが、こと窒息の初期発見に関しては、まさにその通りだといえるでしょう。


図2:チョークサイン
(出典:内閣府大臣官房政府広報室「政府広報オンライン」HPより)
図3:乳幼児のに見られる窒息の初期症状の様子
(出典:内閣府大臣官房政府広報室「政府広報オンライン」HPより)

〇発見したら、まずは通報(119番)を!

 窒息の初期症状を発見したら、まず何をすべきでしょうか。

 この後に喉の詰まりを除去する手技として「咳をさせる」、及び「背部叩打法」「腹部突き上げ法(ハイムリック法)」「胸部突き上げ法」をご紹介していきます。ただ、注意点として一つ頭に入れておいていただきたいのが、『まずは通報(119番)を!』ということです。

 もっと言えば、異物除去の試みと並行して、同時に通報をしてほしいのです。周りに誰かいれば、その人に119番を依頼してほしいですが、いなければ自分で両方やるしかありません。

 理由は単純です。それは、これからご紹介する手技を実施したからといって、絶対に異物が除去できるという保証がないからです。運よく取れるのが一番いいですが、実際にはそう簡単に取れないケースも多いです。何度も挑戦したもののダメだった時に…その間の時間をロスしてしまうことが、非常に危険なのです。通報した後にすぐ取れたなら、それはそれでいいじゃないですか。ためらってはいけません!

 さて、この後は救急隊到着までの間に救護者たちが行うべき、具体的な手法をご紹介していきます。

☆手技1:咳をさせる(自発的に咳をさせる方法)

 患者が喉に物を詰まらせて間もない場合では、まだ患者に意識がある(意思疎通ができる)状態であることが多いです。こちらが「どうしたんですか?喉に何か詰まったんですか?」と問うと、声は出せずとも、ウンウンと頷いてもらえたりします。

 この場合では、まず患者に対して「咳き込んでください!!」と指示してください。実は、自発的な咳ができる状態であれば、この「自分で咳き込む」というのが、一番効果があると言われています。

 ただ、数回咳き込むも除去できない場合や、そもそも指示が伝わらない小さな子どもの場合には、あまり時間をかけず、次の「背部叩打法」にトライします。

☆手技2:背部叩打法(強制的に咳をさせる方法)

 いわゆる「背中を叩く」というという方法ですが、いくつか覚えておくべきコツがあります。

 まずは叩く位置です。背中という言葉は結構アバウトな言葉で、人によって想像する場所や範囲が異なる言葉かと思います。この「背部叩打法」に関しては、「肩甲骨の間」であると覚えてください。

 次に叩き方ですが、手のひらの根元部分(手掌基部といいます)を使って、ドン!と行います。力加減についてはきちんと講習を受けていただきたいところですが…結構しっかり叩かないと意味がありません。また、立位で行う場合は可能なかぎり、叩く方と反対の手で相手の体を支えながら実施するのが好ましいです。これは、肺の中に残っている空気を、外から無理やり押しつぶすことで、強制的に咳をさせる手法であるため、ある程度の力を込めて叩かないと意味がなく、また、そのぐらいの力を込めると、患者が前に倒れることが予想されるためです。

 患者の姿勢に応じて、立位以外にも、座位、四つん這いなど、さまざまな姿勢で行うことができます。特に乳児や小児の場合は、救護者の大腿をつかった姿勢を取らせることもできます。参考までに、様々な姿勢をイラストでご紹介します。(※興味を持った方はぜひ、きちんと講習を受けることをお勧めします)

図4:背部叩打法(左:立位、中央:側臥位、右:座位)
(出典:左図及び中央図は、東京都「東京くらしWEB」より
右図は、厚生労働省「救急蘇生法の指針2015市民用」より)
図5:背部叩打法(左:乳幼児向け、右:少し大きい子ども向け)
(出典:消費者庁「食品による子供の窒息事故に御注意ください!」より)

☆手技3:腹部突き上げ法(強制的に咳をさせる方法)

 先に紹介した「背部叩打法」を4、5回チャレンジしてもダメだった場合は、これからご紹介する「腹部突き上げ法(別名「ハイムリック法」)」を実施したいところです。

(※しかしながら、この方法は難易度が高い手法になります。自信がない人は、前述の「背部叩打法」を続けてください。願わくば、いざという時に「腹部突き上げ法」が使えるように、ぜひ講習を受けておいてもらえれば…と思います。また、「腹部突き上げ法」は、乳児や妊婦、高度肥満者には
実施できません。この場合は「背部叩打法」及び、後述の「胸部突き上げ法」を行ってください。)

 まず救護者は、患者の後ろ側にまわり、後ろから前方に手を回します。次に患者のへその位置を確認し、そのやや上方の位置に片手で握りこぶしを作り、もう片方の手でそれを覆います。注意するのは、このときに握りこぶしが、みぞおちよりも十分下側にあることです。この位置で両手をセットできたら、救護者は脇を絞り、両手を手前上方(※手前だけではなく、上方にも引き上げる)に引き上げるように、腹部を勢いよく圧迫します。

図6:腹部突き上げ法の位置
(出典:美濃良夫「高齢者介護急変時対応マニュアル」より)
図7:突き上げ方向
(出典:MSDマニュアルプロフェッショナル版より」)

 連続して行う回数は、6回~10回程度が一つの目安となります。これでもなお異物が取れない場合は、前述の「背部叩打法」に戻り、これらを繰り返します。

☆手技4:胸部突き上げ法(強制的に咳をさせる方法)

 最後に、「胸部突き上げ法」をご紹介します。これは、前述の「腹部突き上げ法」が使用できない人(乳児や妊婦、高度肥満者)に対する手技です。
 

 この方法は、心肺蘇生法における胸骨圧迫と同じ位置を圧迫するものとなります。この位置はよく「胸の真ん中」と表現されますが、目安としては両乳頭線の真ん中(※乳児の場合は、もう指一本分足側)と覚えておくとよいかと思います。

図8:胸部突き上げ法の位置
(左:1歳以上の場合、右:乳児の場合)
(出典:厚生労働省「救急蘇生法の指針2015市民用」より)

 大人の場合(この場合は、妊婦や高度肥満者)ではこの位置を、腹部突き上げ法の姿勢で行います。つまり、患者の背後にまわり、握りこぶしをこの位置に当て、もう片方の手で包み、素早く圧迫します。なおこの時は、上方向に突き上げず、まっすぐ救護者側に引けばよいです。6~10回行い、異物が取れなければ「背部叩打法」に戻り、これらを繰り返します。

 また、乳児の場合であれば、床もしくは膝の上にあおむけに寝かせ、突き上げ位置を指2本で突きます。深さは胸郭の1/3程度は押さなければなりません。これを5~6回行い、異物が取れなければ「背部叩打法」に戻り、これらを繰り返します。

図9:妊婦及び乳児に対する胸部突き上げ法(左:妊婦の場合、右:乳児の場合)
(出典:左図は、福岡博多トレーニングセンターHPより
右図は、内閣府大臣官房政府広報室「政府広報オンライン」HPより)

〇途中で意識が無くなった時は…心肺蘇生法に切り替え!

 ここまで、気道の異物を除去する方法として「咳をさせる」「背部叩打法」「腹部突き上げ法」「胸部突き上げ法」の4つをご紹介してきました。この4つには、共通した重要事項があります。それは、「患者の意識がある状態にしか行ってはならない」という事です。

 気道異物の除去を試みても、取れない時は取れません。その場合、段々と患者の意識が薄れていき、意識が無くなる場合があります。この時は即座に、気道異物除去の手法をストップし、直ちに心肺蘇生法(胸骨圧迫や人工呼吸、AEDの使用など)に切り替える必要があります。

(※心肺蘇生法については、紙面の関係で今回は割愛します。これについてはまた別の回でご紹介したいと思います。)

 実際に気道異物除去に当たる場合には、万一患者の意識が無くなることを考慮して、同時並行的にAEDの手配までしておくのが理想的です。一人ではできませんが、二人以上ならこれが可能です。こういった緊急事態の時はとにかく、一人で頑張るのではなくって、大声で助けを呼び、可能な限り複数人で立ち向かいましょう!

ご覧いただきありがとうございました!
文: 防災士/保育士/応急手当普及員 牛尾崇彦

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・・・おわり


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