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私が絵を速く正確に描くために気をつけていること9選〜座学編③〜

先日こんなDMをいただきました(要約)。


初めまして、Aと申します。
絵を描く時に関しての質問があってdmさせていただきました。

ushiwakaさんは最近毎日投稿をされていて、どれも信じられないクオリティと速さで絵を完成させていてすごいなと思います。

私はtwitterでいいねやRTはある程度もらえる絵は描けるものの、平均して一枚の絵を完成させるのに一週間、合わせて30時間もかかってしまいます。

ushiwakaさんが絵を描く際の早く描くコツや考え方はあるのでしょうか?
個人的な悩みをここで打ち明けることをお許しください。


その方にはnoteで近いうちにまとめますと答えて、今回その記事を書くことにしました。

確かに私は自分で言うのもアレですが、平均4〜5時間ほどで書き上げることができるので、大分速筆ではないのかな、と自負しています。

万バズしたウマ娘バニーシリーズのカレンチャン、ゴールドシップのイラスト。
制作時間はどちらも4時間半

結論から言うと、私は絵を描く際に明確に気をつけていることがあります。

思えば私は昔からサボり癖がありました。
ただ、一般的な何もやらないサボり癖ではなく、「工夫して効率化を極める癖」でした。

小学生の頃に学校の宿題でノートに3行同じ漢字を書いてくる宿題が出されていたのですが、硬い棒に対して直角に等間隔で三本鉛筆を接着し、一回書いただけで3回書いたことになる装置を作っていたくらい、昔からその癖が身についていました。(笑)

ただ絵に関してもそのようにテクニックや機材で解決できるものばかりではなく、ちょっとした考え方で作業時間を大幅に短縮できることがあります。

今回はそんな私が速く絵を描く時に気をつけていることを紹介していきます。


-はじめに-「速筆は絵が上手くなってから」という考えに対しての個人的な見解

某お絵描きyoutuberさんなどよくこう言っているのを見かけます。

「絵を速く仕上げるのはある程度上手くなってから考えるといい。
ろくな技術も身につけていない状態で速筆を目指すと低クオリティの絵が完成してしまう。
速く描くのは満足に一枚の絵を仕上げられるようになって後から身につくものだ」

私はこの考え方にいくつか疑問を感じます。

まず、絵が上手くなったと言えるのはどんな状態を指すのでしょうか?

この問いに対しての主な答えはほぼ明確で、「絵の基礎がしっかり身についていて、かつそれを正しく描写できること」であると言えます。
つまり、私達に絵の基礎がしっかり身についていると高クオリティの絵を描くことができると言えるのです。

しかし、いくら基礎が身についていて絵が上手だからといって、それが果たして絵を速く描くことに繋がっていくのでしょうか?

絵を速く描くには、これから挙げるいくつかのテクニックや考え方を応用するだけでも十分速く描くことができます。

また、彼らが言う「満足の行く一枚を描くこと」や「いい絵を描くこと」が「描く物全てを全力で描くこと」と同義ではありません。

いかにして「工夫して効率化を極める癖」を身につけるかどうかにかかっています。

数学の参考書を一周じっくり読み込むよりも何周も素早くそのサイクルを回す方が記憶の定着が良いと言われているのと同じで、
絵もある程度の質を保った状態で何枚も描いていく方が上達します。

彼らの言葉の本質を捉えないでそのまま鵜呑みにしてしまい、完成に二週間や三週間、中には二ヶ月もかかっている方がいるのは彼らの言っている意味を少し履き違えていると思います。

よって絵の知識が未熟な私たちでも、速筆を意識することは間違いではないのです。

さて、これからは順に私が速く描くために気をつけていることを一つずつ説明していきます。

先ほど「上手く描くこと」と「速く描くこと」は同義ではないと言いましたが、残念ながら少なからず互いに影響し合っていることは間違いないですので、

①〜⑤【全員が応用できること】と

⑥〜⑧【基礎が身についている人が応用できること】

の二つのカテゴリに分けて説明していきます。

①なるべく両手を活用する

ペンでそのまま戻るボタンを押していたり、メニューバーからわざわざ拡大縮小をしている方は割と多いと思います。

ただ、それらの工程を描いている手だけで行おうとするとどうしても手が忙しくなりますし、いちいちめんどくさい工程を踏むことになります。

・タブレットで描く人
片手で描いて、もう片方で「戻る/進む」を押す。等
(普段ipadで描いてないのでちょっとしか挙げられません、、、)

・パソコンで描く人
汎用ショートカットキーを隅々まで頭に入れておく。
wacom付属のリモコンなどではなく、キーボードや20個以上のショートカットキーを割り当てられる片手キーボードの購入もアリ。
ushiwakaはRAZERの片手キーボードを使っています。

【Macを使用している方】
こちらのキーボードは元々mac非対応製品であるため、かなーりややこしい段階を踏まないと使用できません。
技術者の方が使用方法をまとめてくれていますので、ぜひこちらのページを参考にしてください。

②資料を徹底的に集める

人やモノ、背景を書く際はなるべく最初に資料を集めて描くといいです。

普段はPinterestなどを使って収集しています。好きな作家さんや写真をお気に入りに入れておくだけで自分の好みの画像を流してくれるので、創作のインスピレーションを得るためにもかなり最適です。

私は絵を描きながら行き当たりばったりで資料を集めている時間がかなりもったいないと思ったので、下書きの段階で押さえておくべき資料をほぼ完璧にまとめています。

Vや二次創作モノを描く時などは服やその色は必ず押さえないといけないので、三面図などキャラの資料も集めておきましょう。

私のipad版のpinterest画面。
ヒール、ファッション、デッサンなどの資料がズラリ。
たまに知らない絵師さんの画像も流れてきます。

③「ながらお絵描き」をやめる

これは勉強とかも同じなんですが、なるべく「ながらお絵描き」はあまり推奨しません。

ただやっていいものとやってはいけないものがありまして…

やっていいものは主に音楽・ラジオ系です。歌詞の有無問わずあった方が飽きずに集中できます。

やってはいけない(クレーゾーン)は動画視聴、作業通話です。

動画は本当に時間を持っていかれます。
ついyoutubeを開けてしまいがちですが、かなり注意散漫になるので絶対にやめた方がいいです。

通話は慣れれば大丈夫なんですが…動画視聴同様注意散漫になるのでやる場合はちょっとずつ慣れていきましょう。

余談ですが、不定期で絵師さんが募集しているdiscord絵師サーバーとか、結構中毒性高いです。

サーバーの話が盛り上がって作業に手がつかないとかはやめておきましょう。

あと、絵を描き始める前にタイムリミットを決めていたりしています。
私の場合下書きまで最大1時間、完成まで7時間を目安にしています。

そしてそのタイムリミットよりも大幅に時間がかかってしまった場合は思い切って没にしたりしています。

これは個人的に時間がかかったラフの絵は色塗りにも時間が多くかかってしまうことが多くあったので、後のことを考えての早切りをするためです。

④色パレットを作成しておく

これは私はあまりしていないんですが、やってる人結構見かけるので紹介だけしておきます。

人物を描く際、肌の色など普段使う色があると思います。
あらかじめ使う色を集めて資料にしておくと結構作業が捗る,,,らしいです。

色が決まらない人などは作ってみるのもアリかも。
肌パレット集はこちらから↓↓

⑤AIを活用してみる

これはかなり人によってはグレーゾーンだと思いますので、「へー、こう言うやり方もあるんだー」ぐらいに捉えておいてください。

最近AIイラストの品質が向上してきて、プロの方とも劣らないレベルにまで成長しています。
それゆえAIイラストに対しての批判が日を追うごとに増していく一方です。

しかし、AIイラスト自体に問題があるわけではないため、使い方を誤らなければ強力な武器になり得ます。
例えば私のこの2枚のイラスト、これはこれらの背景の一部にAIイラストを使用していました。

約4ヶ月前の100日チャレンジイラストより金田とユウカ。
いろんな表現に慣れる練習のためにあえてジャンルを絞っていませんでした。
金田/8h  ユウカ/4h

ただ貼り付けるだけではなく、ある程度上から加筆をしてぼかしを入れています。
今の所AIを試験的に活用した絵はこの2枚だけなので、もっと性能が向上して活用の機会が増えるといいのですが…

実際ポージング資料として活用を始めている絵描きの方はすでに何人もいらっしゃいますので、ポージング等で悩んで時間をかなり浪費してしまう方には有効だと思います。

ただそれらは何かしらのトラブルになりかねないため、自分が生成したAIイラストのみにとどめておきましょう。

⑥無駄に塗り重ねない

厚塗りを始めてすぐのころは「あーでもない、こーでもない…」と一度塗った絵を初めから塗り直したり、「この色じゃないな…」と何度も色調補正したり、とにかく私の筆には明確な「無駄」が存在していました。

そういう時が続いた時はもちろん大幅に時間がかかってしまいますし、完成しても微妙です。なぜなのでしょうか?

少し昔話を挟みます。


塗り直しの多さに困っていた時期に、所属していた美術部の展覧会でアナログ絵を描くことになりました。

塗り直しが効かない、ほとんど一発勝負。いつもよりかなり慎重に一線一線塗り進めていったのですが、4日間というとても短い期間で書き上げることができました。
その絵はその展覧会で特別賞をいただけたので、クオリティもある程度の水準まで保てていたと思います。


速筆状態で完成させることができた理由は、恐らく普段より「一本一本の線の働きに気をつけて描いた」からだと思います。

なんとなくのフィーリングでなんとなく描き進めているとミスタッチも多くなるし、絵全体を見渡した時に雑な部分が強く目立ってしまいます。

何度も描き直しが効くデジタル絵においても、「この色を塗ったらもう元には戻れない。どう塗ろうか?」と自分に語りかけてみてください。
筆はゆっくりになってしまいますが描き直しが少なくなって結果的に速く書き上げることができると思います。

プロのイラストレーターのメイキングを見ていても、「えっ、ここまでで1時間しか経っていないの!?」とびっくりすることがありますが、これは一本の線を塗る速さが早いのではなく、描き直しが少ないからです。

描き直しをなるべく減らす、これを意識してみてください。

⑦できるだけ「引き」を意識して描く

線画の際に、画面ドアップで作業して丁寧に描いている方を結構見かけます。
でも、実際画面ドアップで描くよりも思い切って「引き」の画面で描いた方が綺麗で安定した線と色を描けます。

ここでプロの方のメイキング画面を見てみましょう。

さいとうなおき先生のワンドロ禰󠄀豆子
線も色もざっくり塗って、上から修正して整えている。
速筆を重視しているためか全体が見渡せるくらい引きを意識されている。
かかげ先生のドローイング
肌の色などや服のテカリなどざっくり塗っていく塗りが特徴。
線は何度も書き直すが線を引く速度と戻る速度がかなり早い。
モ誰先生の100日チャレンジ
線の書き直しが少なく、緻密かつ確実に引いていく。
着彩にも澱(よど)みがなく塗り直しが少ない。

写真からそれぞれの絵師さんごとに作画工程は異なるものの、画面を引いて極力全体を見ながら作業しているという共通点が見られます。

これなら線を引く際に手を動かす範囲が狭くても良くなりますし、長いストロークも腕全体を使って引けば問題ありません。

ipadで描いている人はだいぶ引きで描くことは難しいと思いますが、常に絵の全体を把握して頭の中で展開してみると良いでしょう。

ついつい力が入りすぎて「押し」で描いてしまっている人も、一旦力を抜いて見下ろすイメージで気楽に描いてみましょう。
きっと滑らかで安定した絵が描けると思います。

⑧「手を抜くところ」と「力を入れる」所の棲み分けを立てる

絵を完成させるまでの時間が長い人は、「手を抜く」ことに億劫になっている方が多いと感じます。

「手を抜く」とは、文字通り描き込みを浅くするという意味ですが、「見せたいものを際立たせる」という意味でもあります。

背景絵師の吉田誠治先生なども、一枚絵の中であえて手を抜く部分の重要性についてよく説かれています。

見せたいものでも「手を抜いていることを誤魔化す」ことも必要です。

ウマ娘バニーシリーズより。制作時間/5h
バニー服を評価して頂いていますが、よくみるとかなり雑に処理しています。
暗いものの描き込みを増やすより目立つ白の光沢を丁寧に描いて上手く見せています。

もっと精度を増して描こうと思えば描けるのですがグレーの部分はそもそもあまり目立たない部分なので、
かかってしまう時間と人物全体の重要度を考えて少ない手数かつ大雑把に塗って時間短縮を図っています。

あと注意して欲しいのが、目立たせない部分は何でもかんでもぼかしを入れてもいいわけではありません。
そして、ぼかすからと言って描き込みを極端に減らすのもよくありません。

上の絵は、左側の服と尻尾にぼかしを入れています。
元々これらはぼかさずそのままにしておこうと思っていましたが、手とかぶってしまい前後感が出なかったため作画工程の最後に調整しました。

【ぼかし=遠くにあるものや見せたいものから離れているものに使うテクニック】という考え方を持つのは絵の持つ魅力を消してしまいかねないので、ぼかしの使い所は臨機応変に判断するようにしましょう。

↓ぼかしのダメな例(自分の過去の作品です)

かなり前の作品。
【情報量が少ないところはとりあえずぼかす】という間違った考え方のせいで
ソファーの持つ魅力や、右足を前に伸ばしている意味を打ち消してしまっている。

⑨ラフはなるべく綺麗に

絵を描いたことがある人なら、一度は「ラフの時は神絵ができると思っていたのに、いざ完成させてみると微妙な絵になってしまったな…」と感じたことはあると思います。

この現象の原因は脳が自動的に雑なラフから理想の完成図を補完してくれるからです。

いいことのように聞こえるかもしれませんが、これは別の言い方をすれば「描き込みが甘く雑な部分でもよく見えてしまう」こともあるということです。
ラフが雑ならアドリブを効かせないといけない部分が出てきたり、ここでも描き直しが増えてしまったりとかなり非効率です。

私がラフを描く時は
・なるべく勢いでラフを描かない
・ゆっくり正確に
・ベルトや髪の毛など流動性のあるものは束で描く
の3つに気をつけています。

冒頭2枚のラフ。
体のラインはなるべく一本の線で描くようにし、
髪の束やぬぎ掛けの服など、線で描きにくいところはカタマリで考えている。

ラフの正確さ、クリーンさがしっかり整っていれば線画の際に悩むことがなくなり、かなり早くラフ→線画の工程を終わらせることができます。

ラフを描き進めてついつい気分が上がってしまうのはあるあるだと思いますが、グッと堪えてゆっくり正確に描くことを心がけましょう。

いずれ環境が整えば0からイラストを完成させていく配信も行いたいと思いますので、ぜひよろしくお願い致します。


まとめ

いかかだったでしょうか。

公開前に見てもらった絵描きの方にfanboxで公開してお金とっていいレベルと言ってもらえましたが、少しでも皆さんの役に立ちたい思いからnoteで公開しました。

自分が絵を描いている中で考えていることがうまく言語化できたかなと思います。

冒頭にて「上手さと速さは別物だが、互いに影響し合っている」と言いました。

ゲームのRTAなどと同じように、
何枚も絵を描いていく中で少しずつ効率を追っかけているとだんだんと画力もそれに伴ってついてくると思います。

今、早く上手く描けなくてもあれこれ考えながら描き続けてみてください。

それでは皆さん、たくさん描いて楽しいお絵描きライフを!

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