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KGB ~世界はお前の復活を待ち望んでいる?~


かなり昔であるが、ある著名な国際ジャーナリストがこんな文章を書いていた。

「その男は私を快く受け入れてくれた。無言のまま重い扉を開け、私を中に招き入れる。場所はモスクワ・KGB本部。長官室へと続く廊下は薄暗く・・・」

KGBへの潜入取材を装っているが実はこれ、誰でも参加できるKGB本部見学ツアー。ソビエト連邦崩壊後も、ロシア国内の情報が鉄のカーテンを超えるにはかなりの時間を要した。氏は自らの貴重な体験をうまく「脚色」し、ミステリアスな一文に仕立てたのであろう。

当時、ソ連の外国人向けのホテルの各フロアーには「デジュルナヤ」と呼ばれる接客係がいた。たいていは年配のおばちゃんで、頼めばポット入りのお湯などを持ってきてくれた。しかも無料。チップもいらない。早朝・深夜といつでもちょこんと椅子に座っていた。おそらく24時間体制だったのであろう。

朝であれば「ドーブラエ ウートラ」、夜であれば「ドーブライ ヴェーチェル」と気軽に挨拶してくれるデジュルナヤさんだが、KGB所属だと噂されていた。メインは接客係ではあるが、こっそりと部屋を抜け出す外国人客を監視し、KGBに通報する・・・真偽は定かではないが、あながち間違っていないような気がする。


泣く子も黙るKGB。正式名称はソ連国家保安委員会。キリル文字では КГБ(カーゲーベー)。ソビエト社会主義共和国連邦の情報機関・秘密警察。軍の監視や国境警備も担当していた。

初代長官はフェリックス・ジェルジンスキー。KGB本部のあるルビャンカ広場には立派な銅像が建てられていたが、ソ連崩壊時に市民の手によって引き倒された。

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 KGB本部とジェルジンスキー像( the moscow timesより)


ソ連崩壊後はロシア連邦保安庁 (FSB) 、ロシア対外情報庁 (SVR) などに権限を移行し、KGBの歴史は1991年に幕を閉じた。


現実の世界だけでなく、映画の世界でもKGBは大きな役割を果たしてきた。007シリーズをはじめファイヤーフォックス、ロシアハウス、レッドブル、RED/レッド、コードネーム U.N.C.L.E. など、KGBなしでは映画は成り立たない。KGBと聞くだけで誰もがおののき、絶望のどん底に落とし込まれ、あきらめの境地に陥った。

敵であろうが味方であろうが、KGBとはそういう存在だったのである。ではKGB亡き後、現在の映画界でのロシア・スパイの存在感は?

残念な事に映画界でのロシア・スパイの価値は地に落ちた。元ロシア軍大佐、元KGBといった肩書はよく耳にするが、その「敵対組織」としての地位はテロリストにとって代わり、CIAと対等に渡り合える諜報組織の座はMI6、モサド(イスラエル諜報機関)などに明け渡してしまった。


CIAではジャック・ライアンが頑張っている。
CIA外局ではイーサン・ハント(IMF)やマクガイバー(フェニックス財団)が世界を救っている。
MI6にはジェームス・ボンドが、モサドにはジヴァ・ダヴィード(米ドラマNCISに登場する美人捜査官)がいる。

それに比べてロシアのスパイは・・・頑張れ、ロシアのスパイたち。自爆テロや誘拐事件といったスパイvsテロリストの「現実的な対決」ではなく、国家の威信をかけたスパイvsスパイの「壮大な戦い」を巨大スクリーンで見たいのである。007だって宿敵スペクターがいなくなって困っているはずだ。

世界はロシア・スパイの復活を待ち望んでいる。ハリウッドやパインウッド(英国の映画スタジオ)にはロシア・スパイが必要なんだ!

ただし活躍するのは映画のなか限定でお願いします。


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