噺の話〜後生鰻〜

久しぶり。
定本艶笑落語「艶笑落語名作選」(全3巻)と言う本を手に入れまして。
コレがまた、知らない噺が山ほど載っている…まぁ高座で演じられない、お座敷で限られた常連相手にひっそり語られてきた〈バレ噺〉が中心、音として残る事が滅多にないので知らないのも当然だけど。
そして巻末に艶笑噺入門と言うか廓噺やバレ噺が生まれた背景なんかが解説されているのですが、「表に出せない色っぽい噺」ってわけで当然戦中の禁演落語にも話題が及びます。
今回はその禁演落語のリストの中にあった「後生鰻」のお話。マクラが長い。
…しかし何でこの噺が引っかかるのかわからないんだけどねぇ。

ある川沿いの鰻屋。店先で主人が鰻を捌こうと錐を振り上げると、そこに御隠居が通りかかる。「ちょいと、何をしてるんだい」
「へぇ…注文が入りましたんで、鰻を捌こうかと」
「私は信心の帰りなんだ、そんな残酷な事は見過ごせないよ!」
御隠居は鰻を生きたまま買い取ると、裏の川へ「もう捕まるんじゃないよ」、とドボン。
「あぁ、良い後生をした」満足した御隠居は去っていく。
それからしばらくそんな事が続く…鰻屋は何もせずとも金が入ってくるので笑いが止まらない。
しかしある日を境にピタッと御隠居が来なくなる。あれももう長くはないか、次に来たときにゴッソリふんだくってやろう…と、鰻屋が悪巧み。
しばらくすると久しぶりに御隠居が歩いてくるのが見える。しかしあいにく、この日は店を閉めていて鰻を仕入れていない。せっかくの儲けのチャンス、どうにかならないか…と、鰻屋の主人は赤ん坊をまな板の上に乗せ、錐を振り上げた。
「な、何をしてるんだい!」
「へぇ…注文が入りましたんで、捌こうかと」
「馬鹿言っちゃいけない、赤ん坊を注文する奴がいるかい!有り金はたくから私に売っておくれ」
赤ん坊を抱いた御隠居、「まったく酷い奴もいるもんだよ…もうこんな所に生まれてくるんじゃないよ」…と、裏の川へドボン。
「あぁ、良い後生をした」

※赤ん坊ではなく女房を買い取らせて、川に投げ込まれたのを主人が見て「良い後生をした」とサゲるパターンもあるみたい。

ブラックかつシュールで好きな噺の1つなんだけど。
自分の行動に絶対的な基準があるが故に行いに狂気が宿ると言うか…「自分が正しいと思う事をするのなら、どんな結果になろうとも気にしない」と言うか。
現代の環境テロリストになんかも通じるところがあるんじゃないかなぁ。

#喜多濱亭

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?