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不思議の国の豆腐

6時に仕事場に戻らないといけないのに、すでに6時を回っていた。私は自転車をどこかに置き忘れたのを思い出して、来た道を戻った。思うように前に進まない。田んぼの畦道を通って、野菜の直売所を抜けようとした時、前につんのめって、台の上に手をついた。私が左手に持っていた豆腐が台の上に美しく着地して、初めから売り物だったみたいに見えたから、「これは私の豆腐」、と言って持ち上げた。私の豆腐。間の抜けた響きに苦笑した。

近道を探していると、行き止まりの家のせっかちなご婦人が、私の事情を知って自転車をカスタマイズしてくれた。改造された自転車はものすごいスピードが出て、操縦を誤って事故った。スタンドのようなところに突っ込んでいく私を、俯瞰で見た。私は、死んだんだろうか。そういえば今晩、6時半から宮本浩次のコンサートを見に行く予定だった、と思い出す。次の瞬間、私は交通量の多い大通りの真ん中を、会場目指して彷徨い歩いていた。

今日は色々ツイてないし、どうせチケットも忘れてきただろうとバッグを見ると、チケットだけはちゃんと入っていた。こんなボロボロの格好で、ボサボサの髪で、体も透明気味だけど、私はコンサートのチケットを持っている。しかし、ここは、一体、どこだろう。信号待ちする黒い車が、彷徨い惑う私に声をかけた。「まだ間に合うよ。乗ってく?」時間は、6時25分。車には、すでに半透明の人が数人乗っているのが見えた。

そんな夢を見て、起きた。誰かが笑っている声が聞こえる。私の好きな鳥が鳴いている。わざわざ眠る意味がわかる気がした。どんな悪夢を見たって、それよりは優しい現実が起こしてくれる。どんなに苦しい現実も、寝て夢を見て忘れられる。存在するかどうかだって怪しいこの不思議な世界では、どんな奇妙な夢だって、ありがたい。太陽と月の存在だけは絶対だと忘れないでいて欲しい。昼と夜があるから、人はリセットできる。

オーブはストーブ。木星が魚座に戻ってきた秋の日に、先生の言葉がふと思い出される。ストーブはたとえ部屋の隅っこにあっても暖かい。オーブはストーブ。それについては今度書こう。最近は真夜中の星空が綺麗。真夏の太陽のもとにあるシリウスが、真冬には夜と共に現れる。だから、秋は真夜中。空はそのまま時計。ではでは、綺麗な星空に見惚れて事故らないように、くれぐれも運転には気をつけて。そして、素敵な夢の続きが見れますように。


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