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異動になった上司のこと

二年間、一緒に働いていた上司の異動が決まった。

その人を説明すると、まず怒らない、よっぽどのミスをしたとしても、このミスでどういうことになるのかを説明されて終わりだった。

指示通りに行動すれば、どんな事であれ、ほめてくれた。私はいつも小学校の先生みたいな人だと思っていた。

きっとこの先働いていった未来で、こんなタイプの上司はもういないだろうと思う。甘いわけではなく優しい、そういう人だった。

来週にはもう別の部署に行くらしい。
そんな上司と今日は最後の、契約更新の面談の日だった。

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「契約更新の意志はありますか?こちらは今後も継続して働いてもらいたいと考えています。」

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。」

契約更新の度に、何度も繰り返してきた会話も、今回で終わることに寂しさを覚えた。
白い机と白い壁紙の真っ白な部屋で、カーテンレールの隙間から夕暮れが見えた。

「何か質問や今後の希望はありますか?」

「来年の1月で3年になります。この職場で昇給はありますか?」

「…あいのさんは、正確性に欠けているから。」

(もうこれで最後だから、と正直かなりの)勇気を出して聞いてみたら、想像していた以上に耳の痛い言葉が返ってきて思わずうつむいてしまった。
私は以前からこの上司に個人的な経済状況や、副業の許可についても話をしてあった。

「じゃあこれが最後だから、言います。あいのさんはうろ覚えのまま、行動して失敗していることがよくあります。それは自分の行動の意味がよくわかっていないから。あとボーンヘッドが多い。」

「ボーンヘッドってなんですか?」

「簡単に言うと、凡ミスということです」と言って笑った。

耳の痛い言葉が続く、やや涙目になる私。もうわかりました、勘弁してください。お給料を上げろだなんて言ってすみません、と心の中で叫んでしまう。

「あいのさんには、自分の行動の意味、自分に与えられた仕事の意味を分かっていてほしいんです。それがわからないから、どう動けばいいのかわからず間違った判断をして失敗してしまう。あいのさんも落ち込むし、指示した側も待つことになる。あいのさんが一生懸命に仕事をしている事は分かっています。給料を上げたくないわけじゃない、上げようと思えば上げることもできます。」

涙目の私の目を見据えて上司は言う。優しい口調で。

「でも、結果を出さなければ意味がないんです。どれだけ一生懸命に仕事をしても。」

涙目、にじむ手汗。上司は笑顔のまま続けた。

「だから、もっといろんな事を聞いてください。わからないなら質問してください。わからないまま、進めることを減らして無くしてください。そうすれば間違った判断や凡ミスはなくなります。」

「そして相手の欲しているものを察する力を身に着けてほしいんです。そうすればきっと進める。」

「これはこの職場に限った話じゃなく、あなたのスキルの話として。他の職場に行ったとしても。」

だから頑張ってください、私がいずれ(栄転して)またこの職場に戻ってこれるかもしれない、と笑った。

それから、あいのさんには本当にお世話になりました。私も至らないことや、わからないことばかりでいろいろと迷惑をかけました、今まで本当にありがとう。と言われた。

最後に上司はまた笑って、

「あいのさんが昇給したいと思ってる件は、上長とこれから来る新しい人にも、伝えておきますね。」

私はこの人が上に行く理由がなんとなく、分かったような気がして、それからやっぱり泣きそうになった。

是非今後の活動に役立てていきます! リアクションいただけるたびに幸せをもらっています! いつも本当にありがとうございます。