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普通のnoteユーザーが1冊の本を出すまで

こんにちは。ワークショップデザイナーの臼井隆志です。スマート新書『意外と知らない赤ちゃんのきもち』が発売されてから1ヶ月がたったところで、この本が生まれた経緯を書こうと思います。

この本が出てまだ日は浅いですが、各方面からさまざまな感想をいただいております。

「育児書にはない内容が、専門書にはない軽さで書かれている」

「30分で読めて育児真っ最中のママにも嬉しい」

「男性も興味持ちやすい!」

「妊婦さんにプレゼントしたよ」

などなど、どれも、とても嬉しいです。

もちろん、この本も手にとっていただきたいですが、今回はこの本が世にでるきっかけとなったnoteへの感謝をこめて、この本が出版されるまでのながれを書きます。

というのも、noteは「本を出したいならnoteで書くのが近道!」を目指しているとのことで、実際『ビジネスモデル2.0図鑑』で話題のチャーリーさんや、cakesのレシピがいつも嬉しい樋口直哉さん、スープ作家で料理レシピ本大賞で入賞された有賀薫さんなど、noteから本を作り出している方が続出しています。

ぼくは、爆発的な話題性があったわけでも、大人気ブロガーだったわけでもなく、ごく普通にnoteに無料で記事をぽつぽつ書いていこうと思っていたところ、意外なところからのフックアップがあって、あれよあれよというまに本が出ることになったかんじです。

フツーにnoteを書こうとおもっていたぼくが、どうして本を出してもらえることになったのか。noteから本を出した小さな一例として、「これから本を出したい!」と思っている方の参考になれば嬉しいですし、note発の書籍が少しでも増えるきっかけになればいいなという気持ちで書いてみます。

で、長いです。10000字ありますので、読んでいただくのに15分ほどかかってしまうかもしれません!

目次
・きっかけ
・はじめる前に
・はじめてのバズ
・1通のDM
・スマート新書の秘密
・ながしまひろみさんとの出会い
・google document
・家事をしながら
・Froggyでの連載スタート
・校了して大きく一息
・出産
・出版
・今後の予定

きっかけ

今回書いた本は『意外と知らない 赤ちゃんのきもち』です。ぱっと見ると理解不能に見える赤ちゃんの行動やその背景にある気持ちのメカニズムについて、発達心理学や認知科学の知見を参照しながら、観察の仕方や関わり方をまとめた本です。

とはいえ、ぼくは赤ちゃん学の専門家でも、子育て経験豊富なスーパーパパでも、執筆業を普段からやっていたわけでもありません。もちろん、本を出すのも初めてです。

本を読むことは趣味というか中毒で、本のページをめくっていると心が落ち着く、いわばブックアディクトです。文章を書くのも好きで、Bloggerで数年間ブログをやっていました。(pv数は1記事100ぐらい…)

赤ちゃんと関わりはじめたのは、仕事で「赤ちゃん向けワークショップ」(cocoiku by ISETAN親子教室「ここちの森」)の開発・運営をしたことがきっかけでした。開発のために認知・発達の理論的な背景を理解することが不可欠だったので、関連書籍を読み漁り、観察・記述・考察をひたすら繰り返しました。(その時に読み漁った書籍はこちら

そうすることで、全く理解不能だと思っていた赤ちゃんのことが、少しずつですがわかるようになってきました。

noteをはじめようと思ったのは2017年11月。深津貴之さんのツイートでnoteを知り、興味を持ちました。その当時、ぼくはワークショップ参加者のパパ・ママに対して、効率よく発達心理学や認知科学の考え方を伝えることができたら、もっと楽しんでもらえるのになぁとやきもきしていました。ぼく自身が発達を勉強して得た「赤ちゃんのことが前よりもわかる!」という感触を、どうにかママ・パパたちにも伝えたい。そのためには、まずは自分がもっと深く「わかる」ことが必要であると考えました。

「Learning By Teaching(教えることで学ぶ)」という言葉がありますが、教える相手の時間をとるわけにもいかない。そこで思いついたのが「Learning by Writing(書くことで学ぶ)」です。

自分自身が理解したつもりになっているテーマについて、全く前提知識を持っていない人に伝えるつもりで書く。そうすると「自分が意外とわかっていなかったこと」が浮き彫りになってくるのです。そこをまた調べ、考え、書き、つじつまの合う文章をつくっていくことで、より深い理解に到達することができます。

「じゃあ、赤ちゃんの発達と関わり方の教科書をつくろう!勝手に!」

と、思い立ちます。これは自分の資産になるだろうという気持ちもありました。毎日仕事で学んでいることを、別の場所に行った時に忘れてしまうのではもったいない。ある一定期間の仕事で学んだことを定着させ、他の仕事に応用させていくほうがいいと思ったのです。

始める前に

そういうわけで「赤ちゃんの発達と関わり方の教科書」を勝手に執筆・編集しようと考えました。誰にも読まれなかったとしても気にしない。ただし、批判をされても止めない、ということを心に決めていました。

noteをはじめるまえに考えていたことがあります。

1. 目次から考える。
2. 1つの記事に、1つのメッセージ。
3. 自分がもっともノレる流れにする。
4. 自分の経験をふりかえるように書く。
5. ダメでもいいから終わらせる。

この5つです。

1. 目次から考える

たぶん、これが一番書籍化につながったポイントだと自分では思っています。noteをはじめるときに1冊の本を書くつもりで、目次から考えはじめました。3ヶ月ほどで毎週1章ずつ記事をアップすれば12~13章。はじめにその構成から考えはじめたのです。

赤ちゃんの行動観察から、脳と感覚器の仕組み、ピアジェの発達段階説、全身運動の発達、共同注視について、愛着についてなどなど、どのような順番で組み立てたらわかりやすいかを考え抜きました。

ただ、noteは随時更新していくものなので、書きながら「違うなあ」と思えば構成を変えたり、記事を追加したりしていました。しかし、最初に目次をつくったときに核となっていた部分だけはずらさないように。

2. 1つの記事に1つのメッセージ

これもこだわりました。長文になりすぎないよう、2000~3000字でまとめること、イラストを多用して視覚的に楽しんでもらえるよう配慮することなど、いくつかこだわったこともあります。

もちろん、迷いもあります。「noteでは1000字ぐらいの文章が一番読まれやすいらしい」とか「もっともっと伝わりやすい言葉に変えなければいけない」とか「タイトルに工夫せな」とか、悩みながら今も書いています。

3. 自分が最もノレる流れになっているか

ぼくの場合、知的興奮が文章を書くためのガソリンになります。赤ちゃんと関わったり、本を読んだりしているときに「いやー赤ちゃんのこういうところ、本当にマジめちゃくちゃ面白いんだよな!!」と、興奮している自分のテンションを宿した文脈で書けているか?という事に留意します。

「なんか綺麗に収めようとしてるな!」とか「いやいやこの感動はこんなちんちくりんじゃない!」とか、自分の文章にダメ出しをして、一から書き直すこともしばしば。勢いに乗って書いたほうがいいときもありました。ビールを流し込んでテクノをガンガン聞くのです。Nina Kravizが好きです。

4. 自分の経験をふりかえるように書く

あとは、書くときの視座の置き方。人に教えるつもりで書くのではなく、自分自身がどうやってその知見に至ったかをふりかえるように書くということに気をつけました。「最初はわからなかった。でも本を読み、観察をすることである気づきを得た。その気づきとは…」という書き方です。

最近はこの「自分の経験ふりかえり型」と、「ロジックをシンプルに説明型」に分けています。前者は感情を乗せることができますが文字数が増える。後者は感情はあまりないが、端的に読みやすくなる。という感じ。

5. ダメでもいいから終わらせる

最後に、「あーなんかこの文章、うまくまとめられてないなぁ」と思っても、ぐだぐだと引っ張らず、ビシッととにかく終わらせる。何がダメだったのかは公開してから考える。なぜならnoteは実験なのだから!という心積もりで文章を公開しよう!と、決めていました。

はじめてのバズ

2018年1月10日、そんなこんなでぐちゃぐちゃと文章を削ったり書き直したりしながら、最初の記事を1ヶ月ぐらいかけて書き上げ、公開します。

思えばあの頃は、妻が妊娠し、悪阻が絶頂のころでした。それでも彼女は仕事に行くために、うちよりも職場にいくらか近いということで妻の実家に泊まり、朝起きては吐き、帰宅後に吐き、頭痛、背中の神経痛に苦しみ続けていました。

ぼくはそんな妻を見守りながら、ようやく眠りについた頃、暗い部屋でぱかっと開いたmacbookのブルーライトの明かりだけで、キーボードを静かに叩くように意識しながら、コツコツと書き溜めていきました。深夜2時3時まで書き続け、寝落ちしたこともありました。

そんなこんなで書き上げた最初の記事は4000字ほど。今思えば相当長いですね・・・。そのときのツイートがこれです。

で、noteで見つけていただいたnoteのCXO深津さんのツイートがこちら。

まさか自分が書いた記事を読んでいただけるとは思いもよらず、深津さんのフォロワーの方々にも内容を面白がってもらえたのか、バーっと広まります。

鳴り止まない通知、徐々に増えていく「スキ」の数。これまでバズるという経験をしたことがなかったので、夜な夜なふるえていました。現時点でPV数が4万3000だそうで、すごいことだなぁと思っています。

1通のDM

多くの方に読んでいただき、面白い!と言っていただけたので「よしこりゃもう頑張るっきゃない!」と思い、2本目、3本目と記事を更新していきます。

脳科学について語ることにチャレンジしたり、ピアジェの発達段階説を整理したり、これまで自分の言葉で語ったことのないものを語るということ、先人たちの研究を矮小化していないだろうかというプレッシャーを勝手に感じながら、1本1本、緊張しながらアップしていきます。

すると、ピースオブケイクの加藤さんと深津さんのツイートでこんなやりとりを見つけてしまいました。こりゃ記念にせねば!と思い、こっそりスクショしてしまいました。

そして、その数日後の2月1日、本当に書籍化のお話をもらうことになります。(この頃に、今のタイトルの原型があったのですね・・・!)

その日は自宅に帰り、1人で夕食を済ませ、本を読んだか少し原稿を進めたか、妻と少し電話をして近況を聞いた「あーもう寝ようかな〜」と思っていたとき、twitterで加藤さんからDMがポンと届きます。

こちらの連載をもとに、スマート新書にしませんか?

え、、、、、!?

えええええ!!!!!

それはもう目が飛び出るような思いでした。完全に覚醒してしまい、ドキドキが止まりませんでした。本?うそでしょ?いやそれはいつか出したいと思っていたけど、まさか自分が赤ちゃんの本、書くの?大学院とかで論文書いたわけでもないのに!?!?!

え〜〜〜〜!?!?!?

と軽く混乱をしたのち、「いや、まて、とにかく返信だ。書きたいに決まってる!」と、その場で返信。

「ぜひ書かせていただきたいです」

ああああ返信しちゃったぞ〜!本当に、実現するのか〜!!!!!

と、夢見心地。その2週間後、ピースオブケイク社で打ち合わせをさせていただくことになります。

このときの心境としては「書くぞ。書き切るぞ!」と思ってはいたものの「本当に本になるのだろうか。原稿がつまらなかったらだめになっちゃったりするだろうか…」と、ハラハラしていました。「いや、それならとにかく書かなきゃ!打ち合わせまでに、noteを更新しておこう。今自分にできることはそれぐらいだ…!」と意を決して、とにかく最初に掲げた目次の文章をすべて書き切るつもりで、noteの更新を続けました。この時点で、ぼくのnoteの連載は、たった4本記事を書いただけだったのです。

スマート新書の秘密

2018年2月27日、渋谷は道玄坂のピースオブケイク社を訪れます。CEOの加藤さんと、担当編集の榎本さんと。緊張しながら打ち合わせの部屋に通してもらい、本棚に並ぶタイトルを眺めながら、これからここに並ぶ本を書くのか・・・・と、しみじみしていたのを覚えています。

加藤さんと榎本さんとは、ざっくばらんにこれまでのぼくのキャリアやnoteを書こうとおもったきっかけの話や、「子育て家庭の間取りをリサーチしてまとめたいと思っている」という話などをし、noteのことや、加藤さんのこれまでのお仕事のお話などを聞き、楽しい時間が過ぎていきます。

そして本題の「スマート新書」について、加藤さんから説明をしていただきました。

新書って、もともとは「日本国憲法とは」とか「哲学入門」とか、そういう超基礎教養を書くものだったのだそうです。それがだんだんと細分化して現在のように多様な本が生まれた。スマート新書は、現在の人のふるまいにあわせた「新しい新書」のあり方を提案しているものだといいます。

「30分で読める教養」というのがスマート新書の最大の特徴ですし、ぼくも本を手渡した人に「30分ほどで読めますよ」と伝えています。

で、これが面白いんですけど、なぜ30分なのかというと、そこにはちょっとした仕掛けがあったんです。

1章の文字数が2500字で、これを読むのに3分〜4分かかるそうです。そしてそれが8章あって1冊の本になっている。

4分 × 8章 = 32分

だから30分で読める、ということなのだそうです。なるほどスマート新書はどれを読んでも「よみやす〜い」という感触が得られます。30分という読書時間のリズムが統一されていたのですね。

この話、かなり目からウロコでした。文字数と読まれる時間の関係など考えたこともありませんでしたが、そう考えると、だいたいの目安になります。

600字   : 1分
1000字 : 1分半
1500字 : 2分
2500字   : 4分

文章を読む時間って、ものすごく短いように感じます。しかし、5分集中して文字を追うって、けっこう神経使うんですよね。集中して、文字のならびから文章を認識し、メッセージを汲み取ってあたまのなかで意味を構築しながら読んでいく。読む以外の作業はできない。

スマート新書を書いたことで「読者の時間を何分もらって読んでもらっているのか」ということを考えて文章を書くということを学びました。

これからスマート新書を出してみたい!と思っていらっしゃる方にも、ぜひ使っていただきたい基準です。

ながしまひろみさんとの出会い

その打ち合わせのなかで、イラストの話題になりました。ぼくも素人ながらnoteにイラストを描いて掲載し、極力わかりやすいように努めているのですが、まぁ本になるならプロに頼まなきゃ。

そんな話のなかで、加藤さんから「実はお願いしたいと思っている人がいるんですけど、ながしまさんってご存知ですか?」と聞かれます。

ほぼ日刊イトイ新聞で「やさしく、つよく、おもしろく」を連載していたながしまひろみさん。そして現在はcakesで「鬼の子」が連載中。(ぜひ読んでください!!)

当時は「ながしま」のペンネームで描いていたように思います。ぼくは「ほぼ日」で何度かみたことがあるぐらいだったのですが、その場で漫画を見直して、子どもの表情と仕草、あと「風」の描きかたに「あ、このタッチなら、すごくいい感じになりそう…」と直観しました。

そう、ながしまさんの絵の魅力は、あの風ですよね、風。彼女の絵の中には風が吹いていて、空気の動きがあるんですよ。髪の毛のなびき方とか、温度を表すような吐息の描き方に、それが現れている。静かに頬を冷やす冬の空気、初夏を予感させる3月の温かい風、家の中の料理をつくるにおい。そういうものを運ぶ空気というか空気の動きつまり風が描かれている。

子どもっていうと表情や仕草に目が行きがちですが、実はその周りとか、子どもと大人の「間」にあるものが彼らのふるまいや気持ちに影響する。その「間」を、「風」というかたちで、ながしまさんの絵は魅力的に表現されているんです。

ということはその瞬間は言語化できず、なんだかわからずその場で少し鳥肌が立って、「あ〜こりゃ最高だ」と思ったんですよね。

「今度会うので、頼んでみてもいいですか?」「ぜひ!」

その場でお答えしました。

今思えば、ぼくのnoteを読んで、ながしまさんをアサインした加藤さんのマッチングセンス、やっぱり半端じゃないです。理屈っぽいぼくの原稿をながしまさんに楽しんでもらえるか心配だったのですが、とにかく書籍用の原稿をスタートせねば!ということで、書き始めます。

Google Document

ぼくは、原稿を書くときいつも「メモ」のアプリに書きます。iPhoneと同期してくれるので、移動中でも思いついたときに原稿を書き加えることができるので便利です。

例えばこんな具合にフォルダを分けています。「執筆中」の場所に下書きを溜め込んでいきます。

ぼくの文章は油絵的というか油粘土工作っぽいというか、最初にバーーーーーッと書いて、あとからごにょごにょと構成を入れ替えたり、文字数を削ったりして形を整えていきます。そしてそのごにょごにょの時間が長いです。文章の結論部分を冒頭にもってきたりして、こねくり回しています。

メモ内で書くのをやめて、文字数が見やすいので、Pagesにコピーすることもあります。文字数を見ながら、ガツガツ文章を削っていく。でも元の文章は捨てたくないのでメモには保存をする。

結局はPagesで仕上げたものが原稿になるのですが、後から読み返すと元の原稿も捨てがたく、そこからまた新しい記事が派生することがあります。こうして1本の記事につきノート数が3~4ページ溜まっていきます。

で、こうしてPagesで仕上げた原稿を、GoogleDocumentに貼り付けて、担当編集の榎本さんに送りました。「とりあえず読んでもらってコメントももらいやすいから、Google Documentでいいかな〜」とか思っていたのですが、これがめっちゃめちゃよかったんですよ。特にいいのが「提案モード」。線を引いて消し、提案を赤字で入れる、という面倒なやりとりを自動でやってくれます。しかも「承認」を押せば更新してくれる。ログも残る。最高です。文字数がそもそも2万字なので、そこまで多くなかったところもポイントです。

ここに、ぼくのnoteで書いたイラストをはめ込んでおきます。最後の第7章と第8章だけは書き下ろしなので、イラストのイメージを文章にして、ながしまさんにパスしてもらいました。また、図表を入れたほうがわかりやすいだろうという部分は、榎本さんに図表をつくっていただきました。

家事をしながら

締め切りは、4月下旬までに「はじめに」〜第2章、5月中旬までに第3章〜第5章、6月上旬までに第6章〜第8章と「おわりに」まで、というかたちで三段階にわけて原稿をアップしていきました。

第1章の原稿をかきはじめたころは妻の悪阻が少し落ち着きを見せはじめ、仕事も辞め、自宅でゆっくりできるということで、穏やかな気持ちでいました。ご飯をつくってもらったり、家事を任せたり、原稿のための時間をつくってもらいました。

しかし、4月下旬ごろから切迫早産のリスクが高いと産婦人科で言われ、ふたたび寝たきり生活…。掃除・洗濯・炊事をぼくが回さざるをえなくなります。

いや、全然嫌とか苦労話をしたいとかじゃないんです。このころは超高速で掃除洗濯炊事を終わらせることに闘志を燃やしていました。仕事から帰ってきてご飯をつくり、次の日の晩御飯も仕込んでおく。休日は朝早く起きて掃除!洗濯!

そして夜早めに眠りについた妻を横目に、macbookをオープン。薄暗いなかでゴリゴリ原稿を進める。「いやーおれ締め切りに追われて原稿かいてるわ〜!」と、締め切りに追われる作家の気分を楽しみながら書いていました。幸福/興奮の時間でした。

FROGGYでの連載スタート

第2章までの原稿を収め、まず投資メディア「FROGGY」での掲載がスタートします。FROGGYはSBI証券のオウンドメディアですが、そのコンテンツ制作をピースオブケイク社がやっていたという背景があり、ぼくの原稿も載せていただくことになりました。

最初の一本目、noteでバズったようなことは起こりませんでしたが、多くの方に読んでいただき、ランキング1位と2位になったこともありました。ランキングが嬉しいというよりも、一生懸命書いて、ながしまさんの絵も入ったものが、面白いと思ってもらえた、よかった、、、という安心感でした。

Facebookでも「更新された〜!」と投稿するたびにシェアしてくださる方も増え、Twitterのフォロワーもおそらく600人ぐらい増えました。反響があるというのは、本当に嬉しいものです。「俺の話を聞いてくれ〜!」とは思わないですが、書いた以上は認められたいという思いがありますから。

そうそう、嬉しかったことの1つに、糸井重里さんが読んで感想をツイートしてくださったことがありました。こんなことがあるんだな…。インターネット的だな。最高だな〜インターネット。

校了してほっと一息

そんなこんなで原稿をバーっと書きました。特に力を入れたのは第8章でした。「赤ちゃんと遊ぶときの究極のゴールとは、赤ちゃんの前からいなくなることである」という前置きのもと、ぼく自身がワークショップをつくるときに最も意識していることを詰め込みました。

子どもに関わることは「未来」に目を向けることです。将来大人になる子どもたちがいま・ここで何を経験し、その経験が何に変わっていくのかを予測しつつ、その経験をよりよいものにする。未来に照らして今を考えるというのがワークショップデザイナーの仕事です。

大人にとって、未来は怖いものです。なにがあるかわかんないし。そして、親であれば、子どもの前から自分がいなくなることを想像することもまた怖いことです。でも、そうなる可能性が高いです。ぼくはその時点では子育てを経験していませんでしたが、ワークショップで出会うすべての人に対しても「いま・ここであなたと過ごしている楽しい時間は永遠じゃないし再現できないから、いなくなることを前提に、ここでの楽しい経験を自分で再現できるようになってくれ!」という思いで仕事をしています。

ぼくのそういう思いを、一章ぐらい叩きつけるように書いてもいいんじゃないかなぁ〜、感情的になりすぎたらダメかな。。。どうしよう・・・まぁやってみるか!えーーーーーい!

という思いで書いたのが第8章と「おわりに」です。

原稿を描き終わり、ながしまさんからのイラストがとどき、榎本さんから縦組みの本のかたちになった見本が届きます。一度赤入れをして送り返し、最終チェックの原稿が届いたとき、「ちょっと原稿のチェックしたいから」と妻に言って、近所のカフェに行きました。

「今からぼくはこの本を初めて手に取ったなんでもない普通の30歳男です」

と、心の中で唱えてから、原稿をクリアファイルから取り出し、すーーっと、すーっと、平常心で目を通して行きました。

しかし、一章ずつ、読み返していくと「あ〜これ書いたとき、あの赤ちゃんと遊んだことがヒントになったんだよな〜」とか、「愛着の章書いたときに好きな編集者さんが「これは救われるわ」とツイートしてくれてて嬉しかったな〜」とか、ノスタルジーに引っ張られてしまいます。

いかんいかん、平常心・・・・・・・・「ああこれも書くのむずかったんだよな〜」・・・・「えー自分ちょっといいこと言ってるやないか〜」・・・「赤ちゃんのきもちになるって、ほんとこの本で言いたいことだったよな〜」・・・

「赤ちゃんの前からいなくなる…か〜」・・・・

第8章を読みながら、自分のもうすぐ生まれてくるであろう娘のことを想像していました。そして自分が彼女の前からいなくなるときのことを想像しました。中学生ぐらいになって「いつもわたしにベタベタしてきやがって!「いなくなることが究極のゴール」だァ?どうぞどうぞ!はやく!いま!ここから!いなくなれよ!」とか言われるのかなぁ・・・わるくないな〜

よし、原稿チェック終了!よっしゃーーーーー!!!

ということで、こちらも榎本さんに返送。あとは本を待つのみとなりました。

出産

7月30日、仕事で終電近くなった帰り、「陣痛が定期的にきてるぞ」と妻から連絡が入る。夜、静かに陣痛に耐えながら、間隔をタイマーで測る。

痛みの波が来ると「ふぅううううううう」と細く長く息を吐いて痛みを逃す妻。武道の達人のような精神の集中で、きたる分娩の瞬間を待ち受けようとしている姿を尻目に、寝落ちしながら十分おきに時間をメモる。

早朝、助産院に「5~6分間隔で陣痛が来ています」ということを伝えると「すぐ来てください」と言われ、タクシーを呼んで乗り込む。

7月31日、朝5時。夏の朝焼けの風のなか、タクシーが産院に向かって走る。

23時15分、長く陣痛に苦しんだのち、分娩台につき、必死の思いでいきむ妻の声を待合室で聞いていると、先生が出てきてぼくを手招きする。いよいよだと思って行く。妻の股にむかってビニール手袋をして身構える助産師さん。血がたくさん出ている。そのなかには赤黒い、おそらく娘の頭であろうものが見えている。

妻の横について、「からだをかかえて起こしてあげて」と先生からの指示。いきむぞ、というタイミングでぼくもぐっとちからを込める。妻の手を握る。まだ生まれない。もう一度。まだだめ。もう妻の呼吸器系は限界で、たぶん体に酸素が回ってなくて、がくがくがくがくっと震えている。一度休まないとこれは無理だ・・・と思っているところに「はいもう一回行くよ!」と容赦ない助産師さんの声。え、無理でしょ一回休まなきゃと思っている間もなく「ふぅううう!!!!!!」と最後の力を振り絞る妻のまえで尻込みせずにもうやるしかないからおれもやるしかないと思ってぐっと力を込めて妻の身体を抱える。

はい!!!!!!!!!!

いいよ!もう大丈夫!小さく息吸って、力抜いて!

助産師さんに言われる。ぼくは妻の目を見る。妻もぼくの顔を見る。もしかして、と、助産師さんの方を見る。

娘の姿が目にはいる。目を開けて、キョロキョロっと見渡したのち、ぶしゃっとくしゃみをする。それに自分で驚いて、あーーーーーと泣き始める。

女の子。

先生が娘をそばで見せてくれる。目がでかい。

親になってしまった。

出版

そんな出産を経て、退院、暮らし始めて数日後の8月10日、榎本さんから本の見本が10冊届きました。ぼくが書いて榎本さんに編集してもらった文章と、ながしまさんが描いたイラストとが、紙に刷られて、今手元にある。

あーこれはすごいことだな。およそ自分だけでつくったものじゃないな〜。すごいなぁこんな風にたくさんの人が本をつくっているなんて。

予約がスタートしたAmazonには、ぼくの名前が載っていてリンクがついている。これから単著を出すであろうながしまさんの名前も。

著者になってしまった。

未知のステージ

そう、親になって著者になったので、ぼくは新しい未知のステージに踏み込んでしまったのだ、とあらためて思います。ラッキーが重なって出版に至った今回。重版がかかるかどうか、まだまだ厳しいところです。

そして、一冊で終わってしまっては、版元にも申し訳ない。いろんなところからいろんな視点の本を出して初めて相互に効果があると思います。

「知名度こそないものの、なんか着実に書いてる人なのね〜」という人の本は、気になればぼくも買ったりします。そういうものだろうなと。

バリバリ有名になりたいわけじゃないですが、赤ちゃんの探索について、あるいはワークショップデザインについて、ぼくが学んできたことは、誰かのささやかな日常のなかでも花開く種だと信じていますし、出版はその種を配るたしかな手段だと思うのです。

本も出たし、これからだ!未知のステージ、さて、どうしよう。

ということで、noteはほぼ毎週コツコツ書いています。ただ、目次を作って本のようにつくるというよりは、読者の反応をみながら、LINE@でやりとりをしながら、毎週の連載を積み重ねているような感じです。

そうして散らばった断片をまたあらためて編集し、一冊にまとめ上げる作業をする日が、いつかくるかな・・・

と思っていた矢先、とある出版社の方から声をかけていただきました。まだ本格的に原稿をスタートしたわけではありません。ぼくが好きな本を何冊も編集されたベテランの編集者の方と、一緒にお仕事ができるかもしれない機会がめぐってきました。

そんなわけで、これからも、調べること、書くこと、そして子どもと遊ぶことをやめない。続ける。という気持ちです。

未知のステージに突入しながらも、楽しくやれそうだ!と思えるのは、noteがあるからだなぁと思います。

謝辞にかえて

最後に、紙幅がなく本には書けなかった謝辞を述べさせてください。

まず、noteのぼくの記事を見つけてくださったCEO加藤貞顕さん、CXO深津貴之さん、お二人のおかげで、ぼくの人生は変わりました。担当編集の榎本紗智さん、いつも「こんな風に考えることができるんですね!」「面白かったです!」とポジティブな反応をいただいたおかげで、とっても楽しく原稿を書くことができました。イラストを描いていただいたながしまひろみさん、絵が届くたびにああなんて幸せなんだろうとかみしめていました。

ぼくにBaby Viewという言葉を教えてくれたcocoiku監修の会田大也さん、発達心理学や認知科学の研究の知見をくださった慶應義塾大学の仲谷正史先生、「探索」「予測」「愛着」という重要なキーワードを教えてくださった県立広島大学の島谷康司先生、ならびにcocoikuここちの森を一緒に開発してくれた伊勢丹の榎本稔さん、基江美穂さん、加藤雄大くん、蒔田彩乃さん、田中絢野さん、開発のチャンスをくれた山田幸さん、みなさんなくして今のぼくはないと思います。

ワークショップにご参加いただいたパパ、ママ、赤ちゃんたち、そして不躾に送った原稿を読んで意見をくれた友人たちにも感謝です。

そして、妊娠中の不安な時期に夜な夜な原稿を書くぼくを見守って、たくさんのアドバイスをくれた妻、そしておなかのなかで生まれてくるのを耐え、時が来るまで待ってくれた娘、本当にありがとう。

まだまだ名前を上げたい人はたくさんいるのですが、長くなってしまうので、最後に、noteを読んでくださったみなさん、運営のみなさんに感謝の気持ちを伝えたいです。

ありがとうございます。


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最後まで読んでいただき、ありがとうございます。いただいたサポートは、赤ちゃんの発達や子育てについてのリサーチのための費用に使わせていただきます。