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“推す”というファシリテーション

「人間には二種類ある。推す人と、推される人だ」

というのは、ぼくが一緒に仕事をしている人の言葉で、その人は「誰かを推すことに情熱を注いでいる」と言っていました。

先日あるオンライン・ワークショップで、ファシリテーターが「緊張している」といったときに運営メンバーの数人が「かわいい!」「照れててかわいい!」「かわいい以外の言葉が出てこない」とチャットで応援しているのを見て、「推す」ことの力を感じました。

その経験から、矢面に立つ人を、ただの一人の参加者もしくは観客の立場で支援するのが「推す」という身振りなのではないか?それは一つのファシリテーションの在り方なのでは?ということを考えたので、書いてみます。

「推し」とは?

若者語辞典によれば、このように書かれています。

一推しのメンバーを意味する略語“推しメン”をさらに略したもの。そもそもの語源は推薦する意味の推すであり、転じて他者に勧めることができるほどに好きである様を表している。
                   https://numan.tokyo/words/eGfUZ

大辞林で検索してみると、こんな意味であるようです。

お・す 【推す】〔「おす(押・圧)」と同源〕
①適当な人・物を推薦する
  「委員長に-・す」 「受賞候補としてこの作品を-・す」
②ある事から他の事を推測する。 
 「これまでの発言から-・して、この件には反対らしい」 「これまでに得られた情報から-・すと、彼の当選はほぼ確実だ」
[可能] おせる
[句項目] 推して知るべし

面白いと感じたのは「推測する」です。

たしかに、アイドルのファンの方々は、ライブ後の飲み会などでライブ中のアイドルたちの身振りについて推測をしながら語ることも多いですよね。

「あの曲の間奏の時の二人のやりとり、熱かったよね!」「きっとこれまでライバルとして互いを高めあってたからこそ、あんな笑顔でやりとりできたんだよね!」みたいに。

ステージに立って頑張っている人の気持ちを推測しながら、推薦する、というのが「推す」なのかもしれません。

「推す人」が舞台をつくる

先日ぼくが目撃した「推し」の身振りを見た場面をもう一度ふりかえってみます。

とある、オンラインワークショップにて。ファシリテーターが「モノになりきって演じるワーク」の見本を見せようとしていました。

そのとき、30人を超える参加者が画面越しに見ているからか、「ちょっと、本当に緊張してうまくできるかわからないんですけど💦」と慌てていました。

そのとき、「かわいい!」「照れててかわいい!」「かわいい以外の言葉が出てこないです」と、事務局の方々がとっさにチャットでコメントしてくれたのです。(ちなみにこの方々は、いつもだれかを「推し」ている、推しのプロでした。)

普段からアイドルやミュージシャンを推している人は、仕事の場面でも頑張っている人を見るととっさに「推せる」と判断し、その身振りを再現できるのだなと、その特殊技能に感動しました。

「推す人」は存在を受容する

またこの「かわいい!」という言葉の力も感じました。

「かわいい!」という言葉は、「そのままで十分素敵だよ〜」というようなメッセージとして受け取られます。

また、このように「推す」人の存在が場を変えているとも感じました。他の人にも「たしかにかわいいw」「頑張ってて素敵」といった気持ちが伝播していくのが感じられたのです。

矢面に立つ人を支援する「推す」身振りの力

たとえば、こんな風にZOOMのチャットで「推す」という身振りは、自分にもできるなと感じました。

ぼくはメインで進行する人に対してZOOMのチャットに「いい声!」「いいまとめ!」「いいイントロ!」とか「ここで休憩いれてくれるなんてタイミング最高!」など、コメントを書き込みます。

そうすることで、一参加者でありながら進行役を「進行役にふさわしいよ〜!」と推薦しながら、その場を作ることに参加していきます。

また、深いうなづきをしたり、小さな「うん」とか「ああ〜」とか「いい!」とか小声で相槌をうったりリアクションしたりして「あなたの言葉やがんばりを受け取っているよ!」というメッセージを発するようにしています。

それは、「リアクションがないと進行役は不安だろうな」という気持ちを推測しているからです。

ヤジを入れたり茶化したりするのではなく、「推す」ことによって矢面に立つ勇敢な誰かを助けることができる。一人の観客、一人の参加者としてできる、一つのファシリテーションの在り方かもしれません。

元ネタになったツイートは、こちらです。


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