ロマンティック呪詛

ロマンティックな呪いにかけられた。
血の色が薄れていく感覚が心地よく、別の色に染まっていく感覚に歓喜する。
つまらない話に耳を傾け、悪戯な嘘を真にする。
呪いが解けないように、血の流れは逆流する。
不健康であると知っていて、延命するように呪われる。

「キャンドルが欲しい」と言われれば、走ってキャンドルを買う。「その匂いは好きじゃない」と言われれば、謝罪をし、どんな匂いが好きか尋ねて走る。刃を向けられれば、喜ぶようにそれを苦しんで受け入れ、弱っていく。

これを悲劇だと言う人もいるだろうが、本当の悲劇は呪いが解かれた時だ。その時は油の中の氷のように、不自由が沈澱する底に魂の欠片が溶け落ちる。無駄に飾った容器にはヒビも入らない。いっその事、このくだらない容器ごと粉々にしてくれれば楽だろうが、そこには濁った油が残るだけ。だからこそ、呪いを解く訳にはいかないのだ。

呪いは夜が深くなるに連れて強力になる。身体から滲み出た黒が辺りをも暗くしてしまうのを、払拭しようとするのが、この呪いがロマンティックである所以だからだ。だから今宵も、おしゃぶりを咥える赤ん坊のように、ロマンティックな呪いに縛られて泣き止む事にしよう。


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