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オンライン接客はオフライン接客を超えられない(長い私事と2つの出来事)

はじめに

 そもそも論だが、オンラインはオフラインの代替品ではないし、オンラインにはオンラインの良さがあるし、オフラインにはオフラインの良さがある。
「私はオフラインでのコミュニケーションが好きである」というのがこの文章の本旨であり、オンラインでのコミュニケーションを否定するつもりは毛頭ない。SNS大好き。

私事(大学時代からこれまで)

 2016年4月から、そろそろ丸6年。新卒から気づけばデジタル広告に近しい畑で働いてきた。記事コンテンツが好きでメディアで働き始めたものの、新卒以降は編集者やディレクターとしての職種は結局1度も通って来なかったし、これからも多分通らないと思う。


 昔から文章を読むのも書くのも好きで、文章によって引き起こされる態度変容に強く興味関心を持っていた。大学時代に「自分で書いたものは金になるのか?」と思い立ち、フォローしていた方の募集ツイートを見て、ライターインターンを始めた。

趣味で撮影した写真を「作例と言うほどのものではないですが、記事に使えるレベルのものは自分で撮れます。ここで働かせてください」と見ていただきながら、面接でアピールしたのを覚えている。

写真撮り始めのサブカル、やたらモノクロにしがち

当時その媒体で書いた記事を読む術はもうない。だけれども、当時のことは鮮明に思い出せるし、今でも当時一緒に仕事していた先輩たちとは仲が良いし、キャリアの変遷をたどるとConcentで働けたことは自分にとって大きな経験だった。

 しかし、就活のはじめは文章以上に好きなファッションを仕事にしたいと思い、当時から好きだった伊勢丹新宿店の、その中でもTOKYO解放区のMDがやりたくて、他社への応募はそこそこに、三越伊勢丹一本槍だった。高校からファッションに目覚め、菊地成孔という人に憧れ(伊勢丹/百貨店好きで有名なジャズミュージシャンであり文筆家)、伊勢丹という館にあこがれを抱いていた。
秋期インターンでは、実際のお買場にも出させていただき、バブアーやマッキントッシュの販売に従事。チーム対抗のイベント企画案プレゼンを行い、どちらもそれなりの成績を出し、振り返れば驕りがあったと思う。3次面接で見送られたが、巡り巡って今ではご縁があって伊勢丹新宿店公式サポーターを務めている。

Twitterのプロフィール写真はサポーターを務めるにあたって描いていただいたものです


伊勢丹を落ちた時にどうしようかと考えた際、メディアで食っていきたいなとぼんやり思った。記事コンテンツが好きで、ライターは経験していたが、営業がお金を取ってきて(川上)・コンテンツを編集して(川中)・その発注先としてのライター(川下)という考え方を当時私はしていた中で「川上を経験しておいた方が多分今後も役立つだろう。その後川中をやれば、少なくともWebメディアでくいっぱぐれることはない」と、とあるポータルメディアの営業職を志望して、内定をいただいた。

 結果として、1社目ではビジネス職(クリエイティブ職との対義語として)しか経験しなかったし、今もそうだ。会社員をやっていても、こうして自由に物を書けるし、場合によってはお金をもらって書くことだってできる。
私は好きなものを仕事としてできるほど、好きなものに対しての胆力がなかったし、できたとしても承認欲求やありもしない自分の作家性に挟まれて、まともな仕事ができたとは思えない(からこそ、私事と称して長ったらしい文章を書くし、過去には1か月間食べたものを中心に私生活についてつづる日記をnote上で書いていた)。

私事その2(本題に移る前の前段)

 そろそろ主題をオフライン接客に戻す。デジタル畑で6年働いてきたが、いち個人としてはいかに最適化が進もうとも、オフラインで行われる高いレベルの接客には適わないな、と思う。
オフラインだからこそ最悪だったという経験ももちろんあるが(買うつもりで行ってるのに、若いからなのか服装なのか、すげー足元見られているな、とか)、素晴らしい接客はそれらがどうでもよくなるくらい、至上の体験である。

DECORTÉ(コスメデコルテ)伊勢丹新宿店での出来事

 使っていた導入美容液が切れたので、別のやつを試したいなと思い、評判の良いデコルテのリポソームを買おうと新宿店の2階を訪れた。
週末で少し混んでおり「少しお時間いただいておりすみません、本日お買い求めの品はお決まりですか?」と声をかけられ、リポソームの30mlが欲しいと伝え、数分後にカウンターへ。

担当いただいたBAさんは男性ひとりで来た私をいぶかしがることもなく、まっすぐと目を見て「お買い求めありがとうございます、担当させていただくNと申します」と丁寧に一礼し、名刺を差し出された。
何をきっかけに知ったのか、以前使ったことはあるかなどのヒアリングを受け、他に気になるものは?と聞かれ、2月に出たイドラクラリティが~と話すと、商品の良さだけではなく、糖化ケアやそこに紐づく肌トラブルの話など、熱量たっぷりに、ただし押しつけがましさはなく、本当に楽しそうにお話してくださった。

カウンセリングシートを見ながら「今のお悩みであればイドラはウスイ様にピッタリかと思います!別ラインで良いものもあるのですが、お値段が張ってしまうので……」との談。売り上げのために、ただ高いものを押し付けるのではない。
対面している相手に合わせたおすすめをしつつ、使用アイテムに「クレンジング」と私が入れているのを見ると「ベースメイクもされるようでしたら」と新作ファンデの話も。首元を機械で読み取り、ファンデの色を選ぶ最中も「素敵なイヤリングですね」と褒めてくださり、終始良い気分で買い物を終え、リポソームとたっぷりの各種サンプルを手に次の場所へ向かった。

椿山荘での出来事

 ここ数年、誕生日はちょっといい宿で過ごすと決めており、今年は椿山荘に泊まった。

部屋への案内(※コロナ禍を受けて、エレベーター前までのアテンド)中に宿泊目的を聞かれ、図々しくも「自分の誕生日でして……」と答えると、マスク越しでもわかる笑顔で「おめでとうございます!ちょっとしたものですが、後でお部屋までお持ちしますね」と仰ってくださった。
部屋でくつろいでいると、総支配人の方が「お誕生日おめでとうございます」と焼き菓子とメッセージカードを持ってきてくださった。それ自体もちろん嬉しかったし、ありがたいことだが、ここまでは一般的な話だと思う。

驚いたのは、チェックアウトの際にフロントの方が「お誕生日おめでとうございます」とさまざまな部署の方からの手書きコメントが入ったメッセージカードをくださったことだ。
公式ではなく他社サイト経由の予約で、初回宿泊のまた来るかもわからないような客(私のこと)に、ここまでしてくれるのか、と感動で思わず泣きそうになった。


さいごに

 「至上の接客体験は、また買いたい/また行きたいと、心を強く惹きつける」と思う。

直近の例を挙げて話したけれど、10年来の付き合いであるAさんという古着屋店主はいつも楽しそうに服について熱く語ってくださる。
当時勤めていらしたお店ではオーダースーツの扱いがあって、1時間半ほどかけて「ダブル幅は4.5cm」「袖丈はあと5mmだけ詰めよう」などと、ふたりで真剣にあーでもないこーでもないと1着の服に向き合った。

社会人1年目の時に作ったスリーピース。これをいつまでも着られるような体型でいたい

学生時代から通うAという飲み屋は、いつでもスタッフさんが温かく受け入れてくださる。良い時も悪い時も、大体はお店に行けば祝ってくれたり慰めてくれたりして、最後にキンキンに冷えたテキーラを流し込んで楽しく酔っぱらえた(※強制される類のものではなく、スタッフさんと客との信頼関係の上で成り立っている)。

今はなくなってしまった神保町店。凹んでいた時のテキーラ

 オンライン接客はオフライン接客を超えられない(少なくとも、自分が求める「接客」に関しては)。コロナが明けて、躊躇なく外に出て、人の顔が見られる世の中が少しでも早く戻ることを切に願う。

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