2022年度東大日本史

第1問

A文書を畿内と七道に一通ずつ伝達した。文書が都に近い国から順次回覧され、国衙で写し取られることで、命令が各国に伝わった。(60字)
B中央派遣官たる国司が中央政府からの命令を写し、伝統的な権威に基づいて民衆を支配している郡司に伝えた。郡司は里長に伝達し、里長は字の読めない民衆に言葉で伝えたほか、木札も掲示し命令の周知を図った。民衆は祭祀などで集合した時に命令を聞いた。(119字)

◯ポイント
A(5点)
①八通作成し畿内+七道に渡ったことが表現できているか
②伝達の方向として、都に近い国→都から遠い国、というのが表現できているか
B(10点)
①国司と郡司の、地方官としての性格の違いに言及できているか
②民衆への伝達について、「管轄下の役人」が主語になっているか
③なぜ口頭でも伝達されたのか、その理由に触れているか
④民衆が集まる祭祀の場で命令を聞いたことに触れているか(これは民衆が集まる場として祭祀が挙げられているのであって、祭祀にそれ以上の意味を求めることまでは受験生に要求されていないと思います。字数的にも)

第2問

朝廷は荘園群を所有し財政基盤としていた。南北朝動乱に乗じた全国的な争乱に伴ってその存続は危うくなったが、室町幕府は半済を禁じてその保護を図ったほか、朝廷の徴税を代行し朝廷の財政を支えていた。しかし応仁の乱を契機に幕府の権威が低下すると、朝廷は主な収入源を失い、上皇の生活を保障できなくなった。(146字)

◯ポイント
①朝廷は院政期以来、荘園群を財政基盤にしていたことが書けているか
②①が、南北朝動乱に乗じた全国的な争乱で危うくなったことが書けているか
③それに対し、幕府が朝廷領の保護を図ったことが書けているか
④③と並ぶ室町幕府の役割として朝廷の徴税代行が指摘できているか
⑤画期としての応仁の乱に触れているか
⑥結果、財政難に陥ったことが書けているか
⑦譲位と繋げるものとして、「上皇の生活が保障できない」が書けているか

※譲位を果たせなかった理由としては、財政難→上皇の生活が保障できない、というのを考えています。譲位には即位が伴いますので、何度か出てきている大嘗祭を活かし、即位には費用がかかることも指摘できるかもしれません。ただ、後土御門天皇を最後にできなくなっているので、その間に天皇が3人いようが4人いようが儀式はやらなかったものと考えられ、儀式費用を第一の要因と考えるのは難しいかと思います。

第3問

A⑴では兵農分離の目的や、一揆防止のために没収した。一方⑶では、幕藩体制の基盤たる村の生産を安定させるための方策として、百姓や家畜の命を守り、作物を獣害から守る用途に限り認めた。(88字)
B平和が到来し、文治主義の考えに基づいて政治が行われる中、戦国とは異なり、死を忌避する価値観が社会に根付きつつあった。(59字)

◯ポイント
A(9点)
①⑴の理由で兵農分離、一揆防止が挙げられているか
②⑶の理由で百姓や家畜の命を守ることが挙げられているか
③⑶の理由で作物を獣害から守ることが挙げられているか
④②③の背景として、幕藩体制の基盤である村の生産を安定させるため、という幕府側の事情を踏まえられているか

※2008年度第3問、2012年度第3問、2021年度第3問など、幕府の対農村政策の意図を考えるときは「それが幕府にとってどのようなメリットがあるのか」ということを考えます。農村が荒廃したり生産力が落ちて幕府が困る理由は幕藩体制の構造にあります。石高制と並んで頻出の視点です。字数的にも本問に盛り込むべきでしょう。

B(6点)
①この時代の文治主義の背景として、平和の到来が指摘できているか(これが後述の「戦国」との価値観の対比)
②綱吉政権の方針として、文治主義が指摘できているか
③戦国の価値観の払拭が目指されたことが指摘できているか
④⑷を、「死を忌避する価値観」のような形で表現できているか

第4問

A学校令に基づく教育制度で実学を修得した世代により労働の質が向上した。憲法施行で労働者の財産権が保証されたほか、製糸業での熟練工成長、農業での品種改良など技術面での進歩も見られた。(90字)
B高等教育の制度充実と義務教育就学率向上により、労働の質がさらに向上した。大戦景気下で電気機械の国産化など重化学工業が勃興し、恐慌後には政府の保護下で重化学工業が中心となった。(88字)

◯ポイント
リード文の❶資本設備(機械など)の増加、❷教育による労働の質の向上、❸技術の進歩、❹財産権を保護する法、という4要素に、ABの中で全て触れておきたいです。
A(7点) ❷❸❹に触れた。
①(学校令に基づく)教育制度の整備により実学を修得→労働の質の向上が指摘できているか(ここで史料(上)を利用。「実学」補完)
②憲法施行で財産権保障が指摘できているか(ここで史料(下)を利用。「憲法」補完)
③製糸業での熟練工成長、農業での品種改良・金肥など、機械によらない技術の向上を指摘できているか

※①については、学制や教育令よりも、おそらく1886年の学校令が、教育制度整備に貢献した点で大事だと思います。1890年の小学校令改正の影響を受けた世代は1885-1899の時期のグラフにはまだ影響を及ぼさないでしょう。

※グラフで、「資本設備の増加」が別枠になっていることにも考えを及ぼしたいです。1885-1899は、4つの時期のうちで最も「資本設備の増加」の貢献度が小さいです。軽工業における機械普及も書きたいところですが、❷❸❹を書くとそれで字数がいっぱいになるので書かなくて良いでしょう。この問題の出題者は2019年度第4問と同じと予想されますが、その時の朝鮮特需といい、「普通に考えたら必要だが、提示資料を丹念に読み解くと必要ではない」というひっかけ(?)問題ですね。

B(8点) ❶❷に触れた。
①大正期の高等教育の充実が指摘できているか
②大正期に義務教育就学率がほぼ100%となったことが指摘できているか
③(大戦景気)重化学工業の勃興→(恐慌後)産業構造の重化学工業中心化、という第一次世界大戦以後、グラフの指す1940年までの大まかな流れが指摘できているか
④電気機械の国産化など、❶が具体的にも指摘できているか

※Bでは、Aで触れなかった分❶に触れる必要があります。重化学工業の勃興はその性格上、機械の充実によるので❶は重化学工業に触れることで満たされるでしょう。一応具体例として電気機械の国産化も挙げました。

※❸は、重工業の進歩はどうしても❶に包摂されてしまいます。❹についても工場法が思い当たりますが、財産権保護ではないため、史料(下)の具体化のみに使うものだと判断しました。また社会運動を要素とする可能性についても考えましたが、リード文はあくまで教育による労働の質の向上なので、教育の影響は労働時間外の活動ではなく、労働時間内のパフォーマンスの向上にのみ用いるべきだと考えました。

◯補足
第4問は難しい問題です。そもそも「限界生産性」という概念を理解するのに時間を要した人もいると思いますし、必要な要素の「匂わせ」はあったものの、それでも書くべきことの幅は広かったです。この記事はなるべく完璧な解答を書くために時間をかけ、一字一句に至るまで神経を張り詰めましたが、試験場では無理です。少し外れたことを書いても、労働生産性とある程度関わっていれば点にはなるでしょう。「良い/より良い」という違いだと思います。のめり込みすぎないことが大事。

来年受ける方々へ

新高3の方、3/10に望まない結果になってしまい、来年度リベンジする方に向け、昨年度と同様、以下の3点を提示して終わりたいと思います。

①試験場においては、完璧な答案を作るという意識より合格点の答案をまず仕上げるという意識が大事。

②日頃過去問演習で考察力・記述力を鍛えた受験生が強いという事実には変わりない。

③あくまで教科書の内容から出題されていることが再確認された。教科書(できれば『詳説日本史』と『新日本史』の二刀流)をベースにした学習の大切さを強調したい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?