令和3年度「出題の意図」について

「出題の意図」が更新されました。ここでは、前年度と比べてどこが変わったのか、東大はどのようなメッセージを伝えようとしているのかということに焦点をおいて考察していきたいと思います。

↓「令和3年度解答等の公表」はこちらから。自分が受ける科目のものは見ておきましょう。

検討

以下、引用しつつ考察を加えます。

問題はいずれも、①日本史に関する基礎的な歴史的事象を、個別に記憶するのみならず、 覚えた事実を互いに関連づけ、統合的に運用する分析的思考を経た知識として習得しているか、②設問に即して、受験までに習得してきた知識と、設問において与えられた情報とを関連付けて分析的に考察できるか、③考察の結果を、設問への解答として、論理的な文章によって表現できるか、を問うています。歴史的な諸事象が、なぜ、どのように起こったのか、相互の間にどのような関係や影響があったのか。それを自ら考えつつ学んできた理解の深 さと、自らの理解を論理的に表現する力を測ろうとしています。(東京大学「『地理歴史(日本史)』の出題の意図」2021年)

ちなみに2020年度は、

問題はいずれも、①日本史に関する基礎的な歴史的事象を、個々に暗記するだけでなく、互いに関連づける分析的思考を経た知識として習得しているか、②設問に即して、習得してきた知識と、設問で与えられた情報を関連付けて分析的に考察することができるか、③考察の結果を、設問への解答として、論理的な文章によって表現することができるか、を問うています。歴史的な諸事象が、なぜ、どのように起こったのか、相互にどのような関係や影響があったのか。それを自ら考えつつ学んできた深さを測ろうとしています。(東京大学「『地理歴史(日本史)』の出題の意図」2020年)

さて、2020年度と比べた2021年度の変化を、太字で示します。細かい言い回しの違いは無視し、追加された語句や記述についてのみ示しています。

問題はいずれも、①日本史に関する基礎的な歴史的事象を、個別に記憶するのみならず、 覚えた事実を互いに関連づけ、統合的に運用する分析的思考を経た知識として習得しているか、②設問に即して、受験までに習得してきた知識と、設問において与えられた情報とを関連付けて分析的に考察できるか、③考察の結果を、設問への解答として、論理的な文章によって表現できるか、を問うています。歴史的な諸事象が、なぜ、どのように起こったのか、相互の間にどのような関係や影響があったのか。それを自ら考えつつ学んできた理解の深さと、自らの理解を論理的に表現する力を測ろうとしています。

では、個々の変化について検討しましょう。

⑴暗記→記憶

暗記は、「よくわからないけどとにかく覚える」のようなニュアンスがありますが、記憶はそうしたニュアンスは薄れ、「工夫して覚える、理解して覚える」に近い単語です。インプットしてきた内容だけでなんとかしようとする、という姿勢をより強く否定する言葉遣いになっています。

⑵統合的に運用する

習得段階で「運用」が求められているとも読めるし、「運用できるくらいの知識」という修飾であるとも読めます。「歴史総合」を意識した記述でしょうか。

⑶受験までに

受験までに、というのは、高校範囲という言葉とほぼ同義でしょう。無理に高校範囲を超える内容に手を出したり、ヤマを張るために予想問題ばかりやる、というような姿勢に対して警鐘を鳴らしているように見えます。先日、質問箱に「大学への日本史」を使うことの是非を問う質問が来ましたが、「自分の興味として読むならいいですが、受験で高得点を得るためだけならおすすめしません」とお答えしました。

実際、東大日本史は高校までの知識で解答可能です。研究を高校レベルに落とし込んでいるので、ヤマを張ろうとすると多大な労力がかかり、結局効率は悪いです。「日本史を使い思考力を測る」という作問コンセプトとも相反します。

⑷自らの理解を論理的に表現する力

文章の構造を分析すると、

《前半部》
①基礎的な歴史的事象を、個別に記憶するのみならず、 互いに関連づけ、統合的に運用する分析的思考を経た知識として習得しているか
②設問に即して、受験までに習得してきた知識と、与えられた情報とを関連付けて分析的に考察できるか
③考察の結果を、設問への解答として、論理的な文章によって表現できるか
《後半部》
・歴史的な諸事象が、なぜ、どのように起こったのか、相互の間にどのような関係や影響があったのか。それを自ら考えつつ学んできた理解の深さ(→①,②)
・自らの理解を論理的に表現する力(→③)

前半部の内容を後半部でまとめるという形をとっていますので、前半部と後半部で対称性を出すための措置として考えています。同内容は③で述べられています。

まとめ

さらに強調されたと考えられることを端的に表現すると、「高校教科書の内容を深め、それを用いて試験場でしっかり思考をしてほしい」ということに尽きると思います。

東大日本史は日本史の知識を聞いているというよりは、あくまで日本史を使って思考力・日本語による表現力を試している試験ですから、教科書、過去問を主軸に据えた学習が大切であるということを再度強調して、この記事を締めたいと思います。

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